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狭い一本道は、建物の屋根で明かりを遮り、前方には道の出口は夕暮れの明かりが眩しく照らしていた。出口が近づくにつれ緊張が募っていく。ナンゴウは背に納めていた大剣を抜き、セトは杖を強く握る。
路地裏の一本道は、距離にして一分も掛からない距離ではあったが、長く感じられる。出口に差し掛かると、黄金色の夕闇が飛び込み、一瞬、目を眩ませた。やがて視界が回復し、前方の突如、ぽっかり空いた空き地に目を見やる。
――いた!
追いつめたはいいが、いなくなっていたらどうしようか、そう考えたこともあったが、そいつは出口からなるべく遠くに離れて突っ立っている。辺りを見渡すと奴一人。チャンスであった。
「もう逃げられないぞ」
ナンゴウはそう言いながら、トシヤに近づく。そのナンゴウにセトも後に続き、近づいていく。
初めて、人を殺すという行為。このゲームに勝つ為に二人で決めた、外道の道ではあったが、いざ、やろうとすると緊張が圧迫する。武器を持つセトとナンゴウの手が一層、力強くなる。
兵士は冷静な顔だった。出口の所から槍を構え、ジッと前方を睨みつける。
じわり、じわり近づくにつれ、トシヤの顔がはっきりと見えてきた。その顔を見て、セトは思わず立ち止まり、驚きを見せる。
トシヤの顔は最初に脅しをかけた時は、脅えた表情だった。しかし今はどうだろう。この状況を冷静に対処しようと落ち着いた顔つきだった。
罠しかない。
しかし、どんな大どんでん返しを持っているとしても、こちらには出口の所で構えている兵士がいるではないか。セトは考えているが、ナンゴウの歩みは止まらない。トシヤの距離まで魔と鼻の先まで差し掛かった頃、一つの疑問が生まれる。
――何故、兵士はあそこで出口の所で構えているのか!
刹那、数回の銃音が鳴り響く。その音はナンゴウに向けられたものであった。
「ぐあっ」そんな悲痛の言葉と共に、ナンゴウのHPが大きく削られてしまった。銃音がした方を見ると、夕暮れを背に、一人の男が、銃をこちらに向け、屋根の上に悠然と立っていた。
「お、お前はあの時の!」
キングス・ストリートで情報を聞いた男が、まさかトシヤの仲間だとは、予想だにしなかった。
「悪いな、兵士は俺たちの仲間になった」
「う、嘘をつくな!」
ナンゴウは狼狽する。
「ナンゴウ、奴の言っていることは本当のようだ」
セトはナンゴウに制止を促す様に、肩に手を止める。
「どういうことだ」
「俺たちは兵士に、攻撃する奴を狙えと言ったが、コイツは今どこにいる?出口の所で槍をかまえているじゃないか。まるで俺たちを、ここから出られない様にしようと見えないか?」
「お、俺たちは金を払っているんだぞ。なんでこんなことになっているんだ!」
「簡単なことだ」
二人の会話にツガルが、銃口を二人に向けたまま、話しに割って入った。
「兵士から話しは聞いたぞ、たった5万ベルンしか払わなかったらしいじゃないか?だから俺は兵士に、10万ベルン支払っただけだ」
「ば、ばかな!たかがAIの兵士に、10万も何故払うんだ?!」
金に換算すると、1000万円。そこまでする理由が、セトは解らなかった。自分たちでさえ、500万払うのにも躊躇ったが、奴は簡単に払ったように言っているのだ。
「お前はバカか?」
「なっ!」
「よく考えてみろ。ゲームオーバーになれば、1000万ベルン払わされるんだぞ。ゲームが始まった段階に、そんな金を持っている奴なんて一人もいない。自分の身を護る為に、10万ベルン何て安いもんだと思わんか?」
確かにそうだった。コイツは、この世界の生き方という事をよく知っている気がした。そんな事を平気でやる奴は、この世界を精通している奴しかできない
そう、『経験者』しかできない発想だった。
・・・勝てる見込みなどなかった。
「交渉しないか?」
「交渉内容は?」
「おい!勝手に決めるな!」
ありえないと言わんばかりに、ナンゴウが怒鳴る。
「こちらには分がない。負けたんだよ・・・。こっちは」
その言葉にナンゴウも黙るしかなかった。座り込み、行く末を見守るしかなかった。
「条件は三つ。一つ、もう俺たちにケンカを吹っ掛けない事。」
こんな奴と、もう二度とやりたくはない。セトはコクりと頷く。
「二つ目は、もう二度と人を騙すな」
その言葉に、蚊帳の外にいたトシヤは驚く。初めて会ったとき、ツガルは確かに、『人を騙すことはいい』と言ったはずだ。何故、そんな事をいうのか不思議でならなかった。
「分かった、誓おう。今回の件でもう懲りたし、何よりあんた達にはもう二度と関わりあいたくない」
セトは、慰謝料として、多額の金を要求してくるだろうと覚悟していたが、この様な簡単な内容で安堵する。
「おいおい、三つめが残っているだろ?」
その言葉にセトは狼狽する。嫌な予感しかしなかった。
「さ、最後はなんだ?」
「最後は俺と『同盟』を結ばないか?」
その言葉にここにいる全員、驚きの声を上げる。
「俺たちはこのガキを騙そうとしたんだぞ」
うなだれて聞いていたナンゴウは勢いよく立ち上がり、その勢いのまま、騒ぎ立てる。
「こちらとしては、あんたみたいな人と組んだ方がいいとは思うが、俺たちを信用できるのか?」
「お前たちは見た所、堅気者だろう?」
「ああ、そうだが、なんでわかったんだ?」
こんなファンタジーのような恰好をしているのだ、極道者か堅気者かは見た目では分かりづらい。
「極道者だったら、わざわざ金を渡さずに、ゴリ押しで脅すし、何よりもっと大勢で脅す。だが、お前たちはふたりだからな、大方、ネットか何かで噂を聞きつけて、これに参加したんだろ?」
間違いはなかった。
「でも、だからってなんで組むという事になるんだ?」
「極道者だったら、組の名を汚されたとか言って、報復するからな。だが堅気の奴だったら、そんなことはないだろう。それに兵士を味方にするという行為は、この世界の初心者にしては、中々良い発想だと思ったんでな」
「どうする、セト」
ナンゴウはセトに答えを求めた。
しかし、セトにとっては願ってもない申し出だった。
「分かった。こちらは、あんた達の条件をすべて呑もう」
「よし、じゃあ、交渉成立だな」
こうして戦いはこうして終わった。




