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97 祝勝会と思わぬ朗報




 王国から使いの者がやってきた。


 以前サラが言っていた、反乱鎮圧の祝勝会の連絡らしい。今回は少し大きな会になると言っていたな。


 居間に戻ると、俺はカナとジャネットにそのことを伝える。


「喜べ、カナ、ジャネット。王宮で祝勝会をやるそうだ」


「ホントかい? じゃあ、またうまい酒が飲めるんだね」


「料理、いっぱい?」


 こいつら、食いもののことしか興味ないのか。


「ああ、たらふく飲み食いできるだろうさ。楽しみにしていろ」


 それから、カナに向かって言う。


「カナ、またあのワンピースを着ていくんだぞ。それとも他の服がほしいか?」


「ううん、あれがいい」


「そうか」


 カナの頭をなでると、俺たちは朝の紅茶を楽しむことにした。






 数日後、俺たちは祝勝会に出席するため王宮へとやってきた。


 以前の王宮での祝勝会に負けず劣らずの、華やかな祝勝会だ。会場では華やかなドレスに身を包んだ女たちが会話を楽しんでいる。


 ジャネットと酒を酌み交わしながらカナに料理をよそっていると、こちらへと近づいてくる人影に気づいた。


「よく来てくれた、お前たち」


「サラ」


 声の方を振り向くと、豪奢なドレスの女性が俺たちに笑みを向けていた。


「お姫様」


 サラを指さしてカナが言う。そう言えば、この前サラに会ったときはカナはサラを姫だと信じなかったのだったな。


「どうだカナ、これで信じてくれたか?」


「……サラ?」


 カナも目の前の姫がサラだと気づいたらしい。驚いたように目を丸くする。


「サラ、お姫様、本物。前に見たお姫様と同じ」


「わざわざお前のために前の祝勝会と同じドレスを着てきたのだ。その甲斐があったよ」


 そう言えば、前も王宮の祝勝会でカナはサラを見ているのだったな。あの時は俺が初めサラだと気づかなかったものだ。


「カナがわからないのも無理はないな。その姿、まるで別人だ」


「それは普段はまるで姫には見えないという意味か?」


「まさか、とんでもない」


「いや、それでいいのさ。私は騎士としての道を選んだのだからな」


 そう言ってサラが笑う。華やかな衣装をまとっていても、やはりサラはサラだな。


「ところで、祝いついでにお前たちに伝えておきたいことがいくつかある」


「ほう?」


「心配するな、どれも朗報だ」


 そう笑いながら酒を一杯あおると、サラは俺の顔を見ながら言った。


「まず一つ目だが、リョータがミレネー男爵の領地を引き継ぎ男爵になることが正式に決まった」


「ああ、そうなのか」


「あいかわらず権力に無頓着な男だな、お前は。少しは喜べ」


 別に無頓着なわけではないのだがな。俺にとってはそれほど大した話ではないというだけのことだ。


「ではそのミレネー男爵とやらが伯爵になるのか」


「そうだ。以前伝えたとおりだな。叙任式はしばらく先になると思うが、とりあえず頭に入れておいてくれ」


「ああ、わかった」


 俺がうなずくと、いい感じにできあがってきたジャネットが肩に腕を回してくる。


「リョータ、あんたどんどん出世していくね」


「別に頼んだわけではないのだがな」


「あーあ、あたしを置いてどんどん偉くなっちまって。身分の壁を感じるよ」


 芝居がかった調子で泣いたふりをしてみせるジャネットに、サラが言った。


「そう言うなジャネット、もうすぐお前も仲間入りできる」


「はあ?」


「お前に名誉騎士の称号を授けることが決まった。喜べ、リョータに置いていかれずにすむぞ」


「あたしが、名誉騎士……?」


 しばらくの間、ジャネットがぽかんとした顔をする。


 それから、ようやくサラに向かって口を開く。


「ってことは、あたしもお貴族さまになるのかい……?」


「そういうことだ。ジャネットには迷惑な話かもしれんが、ここは一つ受け入れてもらえないだろうか」


「そりゃもう、喜んで!」


 意外にも、ジャネットは大喜びといった顔でサラの言葉を受け入れる。彼女のことだ、てっきり貴族などという窮屈なものは嫌がるかと思っていたが。


 それはサラも同様だったようだ。意外そうにジャネットに問う。


「いいのか、ジャネット? お前は何というかその、自由気ままな暮らしを望んでいるのかと思っていたが」


「そりゃ確かにその通りだけどね、自由気ままに暮らしたいなら力があった方がいいさ。だいたい、名誉騎士なんてのは大して貴族っぽいことしなくてもいいんだろ? リョータみたいなご身分になれるなら願ってもない話さ」


「なるほどな」


 サラが笑う。なるほど、言われてみれば実にジャネットらしい現金なものの考え方だな。


「それにさ、リョータだって男爵様になるんだ、嫁にするならそれなりの身分の者の方がいいだろ? だったらちょうどいいさ」


「あいかわらずだな、お前も」


 そう笑うと、サラは手元のグラスに酒を注いだ。


「そういうわけで、これは前祝の一杯だ。ほら、お前たちも」


 サラにうながされ、俺も手元のグラスを手に取る。ジャネットはさっきからずっとジョッキを握りしめている。


「それでは二人の出世を祝って、乾杯」


「乾杯」


 サラの音頭で、俺たちは乾杯した。


 


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