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96 竜退治の約束




「ふう、ごちそうさま」


「あいよ、おそまつさまでした」


 夕食を終え、食後のあいさつをすませる。一仕事終えた後ということもあり、実にうまい飯だった。


 ジャネットはと言えば、さっきからずっと心ここにあらずといった様子でにやにやとだらしない顔をしている。そんなに俺のプレゼントを気に入ったのか。


「今日はカナも手伝ったそうだな」


「うん。カナ、えらい?」


「ああ、えらいぞカナ」


 俺が褒めると、カナはいつものように満面の笑みを見せる。その辺の凡人どもには無表情な仏頂面に見えるのかもしれんがな。俺にはわかるのだ。


「ジャネット、カナの料理の腕はどうだ?」


「ああ、そりゃもう大したもんさ。筋がいいというか、さすがあたしとリョータの娘だねえ……」


 ダメだ、妙なスイッチが入っている。いちいち突っこむのも野暮だが、カナは俺とお前の子ではないだろう。


「先に部屋に戻っているぞ」


「ああ、あたしとカナはこっちを片づけてから行くよ」


 席から立ち上がると、俺は食堂を後にした。





 部屋に戻りソファでくつろいでいると、しばらくしてジャネットとカナがやってきた。ジャネットの手には、先ほど渡した剣が握られている。室内で剣を握られると、正直少し怖い。


 部屋に入るなり、ジャネットはこちらへとまっすぐやってきて俺にしなだれかかってきた。


「おい、カナが見ているぞ」


「いいじゃないのさ。これも勉強のうちだよ」


 そんなわけのわからないことを言いながら、ジャネットが俺に甘えてくる。


「この剣、サイコーだよ。ありがと、リョータ」


「どういたしまして。ジャネットに気に入ってもらえてよかった」


「リョータからのプレゼントを、あたしが気に入らないわけないだろ?」


 そんなことを言ってくる。まったく、たかがこんな剣一つでこのざまなのだからちょろい女だ。


 ……いや、そんなことはないな。今はこんな態度だが、明日になればどうなるかわからない。傍若無人で自由気ままな女だからな。ジャネットの機嫌をとることに比べれば、上級魔族の首を一つ二つとることのなんとたやすいことか。


 ジャネットが俺に腕をからめながら聞いてくる。


「あんた言ってたよね、竜も斬れるって」


「ああ。試してはいないが、問題なく斬れるはずだ」


「ずいぶんと自信満々だねえ」


「自信のないものをプレゼントするわけにはいかないからな。なんなら今度、本当に斬れるかどうか試しに行くか?」


「試しにって、ドラゴンを斬りにかい?」


「ああ。ライゼンとの国境付近にはレッサードラゴンの棲息地があるそうだ。レッサードラゴンも竜は竜だ、倒せばドラゴンスレイヤーを名乗れるのだろう?」


「ホント頼もしいね、リョータは。それじゃあ今度はそこに連れていってよ」


「ああ、任せておけ」


 つい安請け合いしてしまったが、まあ大丈夫だろう。「竜殺しLV9」らしいからな。


「でも、あたしがこの剣を持っているとサラが黙っていないかもねえ」


「サラが?」


「そうさ。あのお姫様のことだ、これがただの剣じゃないってことはすぐにわかるだろうしねえ。あんたがつくったとわかれば、姫騎士様だってほしがるんじゃないのかい?」


「だが、あのサラが俺に剣をねだるとも思えないが」


「かぁ~、女心がわかってないねえ」


 そう言いながら、ジャネットが自分の額をぺしっと叩く。


「そりゃどんなにほしくたって、あんたに直接言えるわけなんかないさ。そこであんたからプレゼントしてやれば、世間知らずの姫様のことさ、そりゃもうのぼせあがるだろうよ」


「そういうものなのか?」


「そういうものなのさ」


 俺の腕にすりつきながらジャネットが言う。そうか、ではサラにも何かプレゼントを考えてやらないとな。姫騎士にはやはり聖剣だろうか。ガメルのコレクションには聖剣もいくつかあったからな、その中でいいものを選んでやろう。


「しかしジャネット、いいのか? 敵に塩を送るようなまねをして」


「前も言ったろ? 正妻はサラで、あたしは妾で構わないって。それに、あたしが一番愛されればいいだけの話さ」


「妾なのに一番愛されるというのもよくわからんな」


「バカだねえ。正妻だの妾だのなんてのは形だけのものだろ? 気持ちとは別物なのさ」


 まあ、ジャネットがそれでいいと言うのならいいのだが。しかし俺はサラを正妻にするなどとは一言も言っていないのだがな。


 ふと気づくと、目の前にカナが立っていた。


「どうした? カナ」


「ジャネット、リョータとくっつく」


 ぴったりくっつく俺たちを指さしてカナが言う。なるほど、ジャネットが俺を一人占めしてると思っているのか。


「ジャネット、ずるい。カナも」


 そう言うと、カナは俺のひざに乗ってくる。


「おやおや、うちの姫がおかんむりだねえ。はいはい、邪魔者は消えますよ」


 そんなことを言って、ジャネットが俺から離れる。


「竜退治、楽しみにしてるからね、リョータ」


 そう言葉を残して、ジャネットが二階の自室へと戻っていく。


 やれやれ、また宿題が増えてしまったな。まあいい、ジャネットには喜んでもらえたようだからよかった。そのうちサラにも剣をプレゼントしてやろう。




 しばらくカナの遊び相手をした後、俺は風呂で一日の疲れを癒すことにした。


 



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