94 竜殺しの剣
魔界西部にある、西方総督の居城。
その大広間では、この城の主が苦悶の声を上げていた。
「うぎゃあああああ!」
今もまた、俺が脇腹を剣で斬りつけると魔族――西方総督ガメルが絶叫する。
武器を振るう腕を斬られ、魔法も盾で封じられては、いかに上位の魔族と言えど俺の敵ではなかった。まあ、俺が負けるわけはないのだがな。
今、ガメルは両手両足を剣や槍で壁に縫いつけられ、身動きが取れない状態になっている。まあ、いつもの俺のやり方だな。魔族の尋問にオリジナリティなどいらないだろう。
俺にとっては幸いなことに、こいつはこの剣で斬りつけるだけでやたらと苦しがってくれる。この調子なら、適当に斬りつけているだけでいろいろ勝手に吐いてくれそうだ。
平和を愛し人権意識にあふれるこの俺には、さすがに拷問というのはハードルが高いからな。えぐい拷問などそうそう思いつかない。こうして少し痛めつけるだけであれこれ吐いてくれるのなら、俺としては願ったりだ。
「さて、そろそろ吐く気になったか?」
「さ、さっきからずっとそう言っている! 何でも教えてやるから、もうやめてくれ!」
「やっとその気になってくれたようだな。早くそう言えばいいものを」
すっとぼけたことを言いながら、俺はガメルの顔を見上げる。俺が主導権を握っているというのに、奴から見下ろされるのは癪だな。足を斬り飛ばして背丈を調節してやればよかったか。
では、本題に入ろうか。
「聞くところによれば、お前は魔界でも屈指のコレクターだそうだな。人間が使う剣もずいぶん集めているのだろう?」
「ああ、普通の魔族は人間の武器など持っていてもしょうがないからな。そんなものを集めているのはわしくらいだ」
「そうか。では聞くが、お前は竜を殺せる剣を持っているか?」
「竜を? うむ、もちろん何本か持っているぞ。それを渡せば助けてくれるのか?」
「それは実物次第だな」
ふん、助かるかもしれないと思えばとたんに媚びてくる。下種な奴だ。
助かりたくて必死なのだろう。ガメルが俺に言ってくる。
「ならばわしが持ってこよう。頼む、この剣と槍を抜いてくれ」
「それには及ばん。お前は武器のありかを思い浮かべろ」
「何、どういうことだ? わしがいなければ……」
「黙って思い浮かべろ。今度はへそのあたりにでもくれてやろうか?」
俺が剣を振り上げると、ガメルがたちまち口を閉じる。そうだ、初めからそうしていればいいのだ。
次の瞬間、俺とガメルは薄暗い部屋へと転移していた。周りには様々な武具が置かれている。ここがコレクション置き場なのだろう。
俺の目の前では、急に身体が自由になったガメルが困惑の表情を見せている。なぜここにいるのか理解できていないようだ。
「なぜだ、なぜわしはここにいる……?」
「お前のイメージをもとに転移した。実際に使うのは初めてだったが、意外とうまくいくものだな」
「他者のイメージをもとに転移するだと……? そんなことが可能なのか……?」
まあ、俺だからこそ可能なのだがな。
「さて、例の剣はどれだ?」
「ああ、それならあの奥にある……」
「いや、イメージで十分だ。言っておくが、つまらんことを考えるなよ? その瞬間、俺はお前を即座に殺す」
魔王の姿を想像したりされたらかなわんからな。まあ、そのときはまとめて片づけるだけだが。
釘をさしたところで、俺はガメルのイメージした剣を転移する。俺の目の前に現れた剣は、やや大きめの、女にはやや不向きそうなものだった。ジャネットなら問題はないだろうが。
手に取って、ステータスを確認してみる。ほう、「竜殺しLV9」か。上限が10だとすれば、それに迫るレベルだな。
「ふむ、確かにいい剣だな。気に入った」
「そ、そうか。それはよかった。よければ他のも持っていっていいんだぞ」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
うなずく俺に、ガメルが地面に這いつくばりながら見上げてくる。
「も、もういいだろう? そろそろ許してくれ」
「そうだな、よくやってくれた」
ホッとした表情のガメルに近づくと、俺はその背中に剣を突き刺した。ガメルの絶叫が部屋に響く。しばらく痙攣した後、ガメルの動きが止まった。
「……しまった、この剣の切れ味を試すべきだったか」
ガメルの死体から剣を引き抜いた直後、俺は少し後悔する。まあいいだろう。少なくとも、ドラゴンに対しては絶大な威力を発揮してくれそうだ。
とりあえず、ここのお宝は俺の秘密の宝物庫に全て移しておくとしよう。他にも掘り出しものが眠っているかもしれないしな。ここの武器や防具なら、いくら使ってもサラに叱られることもないだろう。
こうして俺のプレゼント探しは無事に完了した。これならジャネットも文句がないだろう。次回からは、ここの宝からプレゼントを探すことにするか。
一仕事終えた俺は、満足して家へと転移するのであった。