92 西方総督の居城へ
レーナの茶飲み話からようやく解放された俺は、ギルドを出ると少し考える。
以前狩った虎男が言っていたな。西方総督のガメルとやらが熱心なコレクターだとか。そいつのところにでも行けば、まあ何かしらあるだろう。
と言っても、そいつがどこにいるのか皆目見当もつかん。今回は名前もわかっているから、「ガメルの城」とでも言えばそこに転移できるだろうか。とりあえず、試しに「ガメルの城」で転移してみる。
次の瞬間、俺は禍々しい雰囲気でいっぱいの城の城門前に転移していた。これは当たりだろうか。
「な、何だ貴様は!」
門番らしき魔族が俺に気づき、誰何の声を上げる。ちょうどいい、こいつらに聞くか。
「ガメルとかいう奴の城はここか?」
「人間の分際で軽々しくガメル様の名を口にするな!」
「構わん、殺せ!」
どうやら正解のようだな。さて、それでは一仕事始めるか。
「何だ、貴様は……?」
部屋に入った俺に気づき、魔族がゆっくりとこちらに振り返りながら尋ねてくる。大柄で筋骨逞しい身体、スキンヘッドに二本の大きな角。いかにも悪魔といった感じだな。
「お前がガメルか」
「いかにも。しかし、人間ごときがなぜここに……?」
どうにも不思議といった様子でガメルが首をひねる。こいつらにしてみれば、人間が魔界にいること自体が不思議でならないだろうしな。
「ここに来るまでにわしの部下がいたはずだが……?」
「知りたいか?」
人の悪い笑みを浮かべると、俺はガメルに聞く。まあ、返事を待つつもりはないんだがな。
次の瞬間、俺とガメルは城の大広間へと転移した。先ほどまで俺が肩慣らししていた場所だ。
「こ、これは……!?」
目の前の光景にガメルが息を飲む。大広間は、大小さまざまな魔族どもの屍で溢れていた。もちろん俺の仕業だ。
「き、貴様がやったのか……?」
「他に誰がいる?」
「信じられん、卑小な人間ごときが……。この城に住むのは我が眷属の中でも特に力の強いもの。この一匹一匹がその辺の魔族100匹に匹敵するほどの力を持っているのだぞ……」
「なるほど、ということは俺は数千匹の魔族を片づけたようなものか。効率のいい害虫駆除ではあったな」
「馬鹿な……」
ガメルが心底驚いた顔でつぶやく。どうでもいいが、こいつら人間をなめすぎだろう。まあ、ついこの間までは人類を圧倒していたそうだから、それも仕方ないことか。
「安心しろ、お前はすぐには殺さん。少し聞きたいことがあるからな」
「図に乗るなよ人間。眷属どもを多少倒した程度でこのガメルを倒せると思うな」
あいかわらず魔族という連中はワンパターンだ。完全にフラグにしか聞こえないセリフを平気で吐く。
ガメルが右腕を突き出すと、その手に巨大なメイスが現れる。ほう、転移魔法か。部屋の武器を転移させるくらいの力はあるらしい。腐っても魔族といったところか。転移魔法を極めたこの俺が褒めてやるんだ、光栄に思うといい。
だが、あの武器では……ジャネットにプレゼントするわけにはいかないな。ちっ、素直に剣を得物にしていれば俺も苦労しないものを。
まあいい、後でじっくりと聞くことにしよう。この前の虎男よりは手ごたえがありそうだしな。これでメイスしか持っていなかったなら、腹いせに拷問決定だ。
「覚悟はいいか、人間。貴様のその脆弱な身体、ぐずぐずの肉片に変えてくれるわ」
「あまり大きな口は叩かない方が身のためだぞ」
俺に目をつけられた時点でお前の命運はすでに尽きているのだからな。さて、少しは楽しませてもらおうか。