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90 藪をつつけば蛇





 ラファーネを交えながら、俺たちは昔話に花を咲かせていく。


 やがて、外から鐘の音が聞こえてきた。窓を見れば、空が少し赤みを帯びてきている。案外長い間話し続けていたようだ。


 俺はサラに告げた。


「そろそろ帰らせてもらうぞ。カナが帰ってくるのでな」


「ああ、もうそんな時間なのか。すまないな、引き留めてしまって」


「いや、こちらこそ長々と居座ってすまんな。それに、ラファーネと会えてよかった」


「私こそ、お二人にお会いできてよかったです」


 そう言って、ラファーネが柔らかくほほえむ。賢者などと言うから小うるさそうな秀才タイプかと思ったが、これほどしとやかな女性だとは思わなかった。


 ジャネットも大分慣れてきたようだ。


「あたしも賢者様がこんなに親しみやすいお方だとは思わなかったよ。あたしなんかにお礼なんて、何ともありがたい話さ」


「私も世間ではなかなかにありがたがられているのだがな」


「ああ、はいはい。ありがたいことですよ、姫騎士様」


 何とも雑に返事をするジャネットに、ラファーネが笑みを漏らす。この二人はあいかわらずだな。


「ああ、そうだリョータ」


「何だ?」


 腰を上げた俺に、サラが声をかける。


「先の話だが、名乗る姓を考えておいてもらえないか」


「姓?」


「ああ」


 首をひねる俺に、サラがうなずく。


「何でまた」


「男爵になるのだ、姓は必要だろう?」


「騎士になった時は何も言われなかったが?」


「騎士と男爵では格が違うからな。今後は姓がある方が何かと都合もいい」


「そういうものなのか」


 一呼吸置いて、俺はさらに質問を続ける。


「そういう場合、すでに途絶えた名家の姓などをもらうものなのではないか? 俺が勝手に決めていいものなのか?」


 有名な小説でもそんな展開があったな。成り上がりの主人公が名門の伯爵家を継いでいた。まあ、家そのものを継ぐのとは話が違うのかもしれないが。


 サラは少し不思議そうな顔で言う。


「それでも別に構わんが、いいのか? どうせ名乗るのなら、自分で決めた方がいいだろう」


「まあな」


 身分の高い人間なら「名門の姓を授かる方がありがたかろう」とか言いそうなものだが、サラはずいぶんとリベラルだな。これも三男坊……もとい第三王女というポジションだからなのだろうか。


 しかしどうする? 坂上を名乗るか? しかし「サカガミ男爵」か。いや、かつては日本の華族もそんな感じだったのだろうが、この世界観では明らかに浮くな。


 当てにはならんが、一応聞いてみよう。


「ジャネットは何かいい案があるか?」


「ちょいと、何で自分の姓を他人に聞くのさ」


 あきれ顔で肩をすくめたジャネットだったが、次の瞬間目を輝かせる。何か嫌な予感がする。


「あ……もしかして、あたしも同じ姓になるってことかい!? リョータ、ついにあたしを選ぶ決心がついたんだね!」


「いや、そんなことは一言も言っていないが」


「そうさね、あたしらの姓なら強そうなのがいいかねえ。子供はせめて3人、男の子が2人と女の子が……」


 だめだ、まったく聞いていない。しかも変なスイッチを押してしまった。事態が悪化する前に退散することにしよう。


「す、すまんサラ。今日はもう帰らせてもらうぞ」


「ああ、ではまたな」


「本日はありがとうございました」


 二人の言葉を背に、俺はジャネットの腕を引っぱってその場を辞する。ジャネット、頼むからもう黙ってくれ。


「殿下も素直ではありませんね」


 そんなラファーネの声が、閉じられる扉の向こうから聞こえた気がした。





 城を出ても、ジャネットの妄想は止まらない。


「習いごとはやっぱり剣かねえ。あ、でもソアラはカナに魔法を習うってのもいいねえ」


 もう子供がいること前提なのな。というか、ソアラって誰だよ。もう名前まで決めているのか。


 げんなりしながら歩いていると、ジャネットが期待たっぷりな目で言った。


「結婚指輪じゃないけどさ、楽しみにしてるよ、プレゼント」


「プレゼント?」


「またとぼけちゃって。剣だよ、剣」


「あ」


 そうだった。ガーネルの件があって先延ばしにしていたが、俺はジャネットにドラゴンを殺せるような剣をやらなければいけないんだった。


「あ、って何さ、あ、って。まさかあんた、忘れてたんじゃ……」


「い、いや、もちろん憶えていたぞ。そう、今ちょうどアイデアを練っていたところだ」


 俺はとっさに精一杯の言いわけを吐く。


 どうやら成功したらしい。ジャネットが俺の腕に飛びついてくる。


「さっすがリョータ! 楽しみにしてるよ!」


 満面の笑顔で、ジャネットが俺の身体を揺さぶる。




 これはもう、さっさと探しに行くしかないな。



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