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87 王党派と貴族派と





 笑顔で言うサラに、俺は聞き返した。


「出世の話?」


「ああ」


「俺が?」


「そうだ」


 どうやら聞き間違いではないらしい。俺は出世することになるそうだ。サラがこんな冗談を言うとも思えんしな。


 隣で聞いていたジャネットが、興奮ぎみにサラに詰め寄った。


「出世!? そりゃホントかい!? 凄いねリョータ、この前貴族様になったばっかりだってのに、もう出世するのかい? ねえサラ、今度は何になるのさ? 将軍様か何かかい?」


「まあ待て、落ち着けジャネット。これから説明する」


 食いつくジャネットに苦笑すると、サラは仕切りなおすかのように口を開いた。


「それでは順を追って話そう。まずはガーネル伯の処遇についての話だ」


「またガーネル伯か」


「ああ、そうだ。先ほども話した通り、ガーネル伯には近々処分が下る。処刑はないだろうが、伯爵位は剥奪、それにともない領地も没収となる見込みだ」


「貴族としてはおしまい、というわけか」


「騎士の称号とそれなりの屋敷はあてがわれるだろうがな。一気に平民にまで落とせば、ガーネル伯と関係の深い貴族たちが騒ぎかねん。このあたりがギリギリの落としどころといった感じだな」


「ずいぶんと大変なんだな」


「まったくだ。だいたい、どうしてガーネル伯の処罰にここまで気を使わないといけないのだ? 大逆、外患誘致の疑い、その他もろもろの罪を犯しているのだぞ。処刑ないし流刑でいいではないか」


 まずい、変なスイッチを押してしまったか。サラがいつになく愚痴っぽくなっている。相当苦労したのだろう。


「奴がやったことはこの前の邪教の連中と変わらん、いや、それ以上ではないか。あちらは全員処刑したというのに、なぜガーネルは貴族の身分を保障されるのだ……」


「まあまあ、その辺で」


「おっとすまない、私としたことが見苦しいところを見せてしまった。リョータになだめられるようでは私もおしまいだな」


「何だそれは。どういう意味だ」


「それだけお前は物事に動じない奴だということさ。話がそれてしまったな。それでなんだが……」


 よくわからない理由で話をはぐらかされてしまった。ものは言いようだな。暗に鈍感野郎と言われているような気がしなくもないが……。


 そんな俺の様子など気にもかけずに、サラが話を続ける。


「とにかくそんなわけで、ガーネル伯の領地は没収されるだろう。さて、その没収した領地だが、これを他の者に与えようという話があってな」


「ほう」


 まさかとは思うが、一応確認しておこうか。


 そう思っていたとき、ジャネットが腰を浮かせて叫んだ。


「まさかリョータ、ついに伯爵様になっちまうのかい!? 凄いよリョータ、ついこないだまで平民だったのに、一気に伯爵様だなんて!」


「待て待て、勝手に盛り上がるな。さすがにそれはない。それに、そんなことになればそれこそ他の貴族が黙っていない」


「何だ、違うのかい」


 苦笑するサラに、ジャネットがことさらがっかりといった顔でソファに座る。


「もっとも、私はそれでも一向に構わないのだがな」


「そうだろ、そうだろ?」


 サラの言葉に、ジャネットが相槌をうつ。


 それから、ジャネットは意地の悪そうな笑みを浮かべてサラに言った。


「あんただってその方がいいだろう? 相手が伯爵様なら、あんただって気兼ねなく嫁ぐことができるだろうしさ」


「な!? ち、違う! 私はそんな意味で言ったのではない!」


 顔を真っ赤にしてサラが叫ぶ。いやいや、わかっているさそんなことは。


「またまた~。あたしを見習って、少しは自分に素直になったらどうだい?」


「だ、黙れ! これ以上の侮辱は、ゆ、許さんぞ!」


「おー、こわいこわい」


 激高したサラは、立ち上がると脇に立てかけていた剣を手にする。どうでもいいが、俺との関係は侮辱になるのか。さすがにそこまで激しく拒絶されると少々心が痛むな。


 俺とラファーネの視線に気づき、コホンと一つせき払いをするとサラは席につく。


「し、失礼。見苦しいところをお見せした。そういうわけで、新たな伯爵候補を選んでいるところなのだ。今のところ最有力なのはミレネー男爵だな」


「ほう。どんな奴なんだ?」


「彼は長年にわたって王国の内政を支えてきた功労者だ。彼に関しては元々爵位を進めようという話があったのだが、今回ちょうどいいところに領地が空いたというわけだ」


「なるほど」


「まあ、我々王党派としては、そういう人物を取り立てることで王党派の貴族を増やしていきたいという魂胆もあるのだがな」


「政治ってやつだな」


「何だかよくわからないけど、要は仲間を増やしたいってことかい?」


「そうだな、そういうことだ」


 首をひねりっぱなしのジャネットに、サラがうなずいて笑う。


 危ないところだった。下手に伯爵なんぞになってそんな権力闘争の渦に放りこまれていたらと思うと、さすがの俺もぞっとする。単に戦うのとは勝手が違いすぎるからな。


 だが、安堵のため息を漏らす俺に、サラは容赦のない一言を発した。


「そして、私……我々は、お前にもぜひ仲間になってもらいたいと思っているのだ。王党派の貴族として、な」



 どうやら、俺には逃げ道などないらしい。


 


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