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85 賢者との対面




 我が家に帰ってから一夜明け、朝食をすませてカナを学校へと送り出していると、王国から使いの者がやってきた。サラたちが俺に話があるらしい。内容は知らされなかったが、おそらくガーネル伯についてだろう。


 いつ来れるか聞かれたので、ジャネットも呼んで相談し、使いには明日行くと伝える。


「ジャネットは別に無理して来なくてもいいんだぞ」


「ダメだよ、あたしがいないと心配でならないからね」


「何だ、今さら俺とサラの間に何かあるとでも思っているのか?」


「それだけならまだましだけどね。例の伯爵様がらみの話なら、賢者様が来るかもしれないだろ? リョータを野放しになんてしておけないね」


「ああ……」


 そう言えばそうだったな。というかこいつ、俺を何だと思っているんだ。発情期のオスじゃないんだぞ。


「わかったわかった、それじゃジャネットもついてこい。別に俺にはやましいことなど何もないがな」


「正直言うとね、リョータがどうこうというより、あちらからくっついてこないかって方が心配なんだよ。なんせあんたには黙ってても女が群がってくるからねえ」


 ため息混じりにジャネットが言う。言われてみれば、なぜかこちらに来てからはいろんな女が集まってきてるな。それに比例して気苦労も増えているんだが。


 何はともあれ、明日はその賢者様とやらに会えるかもしれない。今から楽しみだ。






 翌日、俺たちは城に向かった。いつものように団長室へ向かおうとすると、案内の者が「今日はこちらへ」と言って階段の方へと俺たちを招いた。そのまま二階に上る。



 俺たちが通されたのは、二階の客人向けの部屋だった。武骨な団長室と違い、調度品やら何やらがあれこれと飾られている。


 そして、上等なソファには金髪の姫騎士が優雅に腰かけていた。俺たちの来室に、立ち上がって笑顔を向ける。


「よく来てくれた。王都に帰ったばかりだというのにすまんな」


「何、お安い御用さ。むしろ、サラに会えるのなら毎日来てもいいくらいだ」


「何だそれは。私の機嫌をとっているつもりか?」


「まさか。俺の本心だ」


 うさんくさげに眉をひそめるサラに、俺は真面目くさった顔で言う。


 そんなやりとりをしていると、サラの隣に座っていた女性が立ち上がって俺たちに一礼した。


 穏やかな笑みを浮かべるその女性は、サラと比べると頭一つ近く背が低い。もっとも、サラが女性としては比較的長身ということもあるだろうが。ざっと140センチ半ばといったところか。


 緩やかにウェーブした柔らかな髪は、ちょうど彼女の肩のあたりまで伸びている。表情も柔らかく、修道女を思わせる雰囲気だ。


 まあ、現実の修道女はイメージとはかけ離れた逞しい女ばかりなのだがな。そのあたりのギャップは、ナースに対するそれに通じるものがあるな。


 それはさておき、とにかく大した美人だ。単なる俺の好みでそう見えているだけでないことは、こちらを油断なくうかがい続けるジャネットの目を見ればわかる。


 そんな品定めは、サラの言葉で遮られた。


「紹介しよう。こちらが先日お前たちに話したラファーネ殿だ」


「はじめまして、ラファーネと申します。以後お見知りおきを」


 サラの紹介に続いて、ラファーネと呼ばれた女があいさつをする。これが噂の賢者様か。噂通り、いや、それ以上の美人だ。


 俺たちも簡潔に自己紹介をすませる。


「リョータだ、よろしく」


「ジャ、ジャネットです、よ、よろしく」


 珍しいな、ジャネットがいつになく緊張している。サラやシモンと会った時はずいぶんとふてぶてしかった気がするが。


 俺は小声で聞いてみた。


「どうしたジャネット、ずいぶん緊張してるじゃないか。何か悪いものでも食ったのか?」


「そ、そんなんじゃないよ。あたしゃこういう、頭の良さそうなお人ってのは苦手なんだよ」


「聞こえているぞジャネット。ということは、私はあまり頭が良さそうには見えなかったということかな?」


 そう言って、サラがいたずらっぽい笑みをジャネットに向ける。


「い、いえ、めっそうもない! 姫騎士様だって、ずいぶんと賢そうなお方ですますよ!」


 完全に調子が狂っているのか、ジャネットがサラにまで敬語のなれの果てのようなよくわからない言語で返す。


「まあいい。お前たち、とりあえずそこに座れ」


「ああ」


 サラにうながされ、俺たちはサラたちの向かいに座る。俺がサラの正面に来るように指示されたのは、やはりラファーネとあまり近づけたくないからなのだろうか。


 席に着くと、サラはテーブルに両ひじをつき、手を組んでその上に形のいいあごを乗せた。


「今日お前たちを呼んだのは、例のガーネル伯について話すことがあったからだ」


「ああ、そうだろうと思っていた」


「ただな」


「ただ?」


 サラの言葉に、俺は問いの言葉を発する。


「実は私たちが帰るまでの間に、こちらでいろいろと話が進んでいてな。少々長くなってしまうのだが、それでも構わないだろうか」


 話が進む? さて、何のことだろう。まあ、聞いてみないことには始まらないな。


「ああ、問題ない。サラの好きなように進めてくれ」


「うむ。それでは、さっそく話を始めるとしよう」


 そう言うと、サラは心なしか声を低くして話し始めた。





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