84 久々の帰宅
王都に到着しサラたちと別れると、俺とジャネットはカナが待つ自宅へと向かった。
道を歩いていると、ジャネットが声をかけてくる。
「カナのやつ、ちゃんと留守番できてるかねえ」
「それは大丈夫だろう。レーナにも面倒をみてもらうように言ってあるしな」
「まあ、リョータが恋しくて泣いているってことはなさそうだねえ」
「それはそうさ」
あいづちをうったはいいが、それはそれで少しさびしい気もする。いや、泣かないだけで、きっとカナだって俺がいなくてさびしいはずだ。うん、間違いない。
そうこう言っている間に、我が家が近づいてきた。こうして見ると、久しぶりの我が家はずいぶんと大きいな。
扉まで来ると、ドアノックを叩いて返事を待つ。
ほどなくして、ぱたぱたという音が近づき、扉の向こうから子供の声がしてきた。
「どなたですか」
「俺だ、リョータだ」
「リョータ、おかえり」
俺の返事を聞き終わる前に扉の鍵を外すと、扉を開いてカナがそう言った。
ふむ、少し背が伸びたようだな。そんな気がするぞ。それにこの表情、俺が帰ってきて嬉しくて仕方がないといった顔だ。顔の筋肉がピクリとも動いていないが、俺にはわかる。
俺はカナの頭をなでながら褒めてやる。
「カナ、よく留守番できたな。偉いぞ」
「カナ、偉い。勉強もがんばった」
「そうか、それは偉いぞ」
若干親バカかと思わないでもなかったが、カナががんばっていたのは事実なので気にせず褒めてやる。
すると、玄関の向こうから人影が現れた。
「リョータさん、ジャネットさん、お戻りになられたんですね。おかえりなさい」
「レーナ、来てたのか」
「はい」
そう言いながら、満面の笑みでレーナが近づいてくる。カナが玄関に来たところを見ると、俺が頼んだ通り、来客時はカナに対応させていたらしい。
「カナの様子はどうだった?」
「はい、学校もがんばっていますし、お留守番もしっかりできていましたよ。最近は早くお二人が帰ってこないかと言っていましたけど」
「そうだったのか。待たせたな、カナ」
そう言ってカナの頭をなでると、カナは眉ひとつ動かさず俺の顔を見上げてくる。うん、実に嬉しそうな顔だ。
そんなことを思っていると、ジャネットが俺に言う。
「あたしもあんたのアレがうつっちまったのかねえ。カナの顔が少し嬉しそうに見えるよ」
「ジャネットにもやっとわかってきたか。訂正すると、今カナはもの凄く嬉しそうな顔だ」
「……やっぱり、気のせいだったみたい」
む、何だそれは。異論は認めんぞ。
俺から目をそらしたジャネットを睨みつけていると、レーナが俺たちに声をかけた。
「まずは皆さん、お茶でも飲みながらゆっくりとお休み下さい。これからご飯を作りますので」
「ほう、レーナの手料理か。それは楽しみだな」
「え、あ、はい……」
顔を赤く染めると、レーナはそのまま台所の方へと去っていく。そんな様子に、ジャネットがやや不機嫌そうにつぶやく。
「何さリョータ、あたしの飯よりレーナの飯の方がいいってのかい?」
「そうじゃない。今日はお前ももう疲れているだろうからゆっくり休んでほしいだけだ」
「まあ、そういうことにしといてあげるよ」
「それは助かる」
そんなことを言っていると、カナが俺たちを見上げながら言った。
「リョータ、カナも料理する」
「カナが?」
俺が聞くと、カナはこくりとうなずく。
「それは嬉しいが、カナは何か作れるのか?」
「料理、ジャネットに習う」
「あたしにかい? ああいいよ、任せておきな」
そう快諾すると、ジャネットは少し腰を落としてカナに言う。
「それじゃさっそく明日はいっしょに料理するかい? いろいろ教えてやるよ」
「うん、やる」
そう言って勢いよくうなずく。カナの手料理か。それは楽しみだな。いわゆる「メシマズ属性」ではないことを祈りたいところだ。
そんな話をしていると、向こうからレーナの声が聞こえてくる。
「皆さん、お茶ができますよ。どうぞこちらへいらして下さい」
「わかった、今行く」
そう返事すると、俺たちは食堂の方へと向かった。こうして穏やかな時間を過ごすのも久しぶりだ。今日は茶でも飲みながら、カナに土産話をたっぷりと聞かせてやろう。
その日は、レーナも交えて夜遅くまで楽しいひとときを過ごした。