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80 制圧





 丘での戦いが終わった後は、敵方にこれといった反応はなかった。


 ガーネル伯の居城がある州都の前で50人程度の敵と戦ったが、サラ率いる遊撃隊の敵ではなかった。一戦の下に撃破すると、俺たちはそのまま州都へと進軍する。


 堅牢な城壁に囲まれた州都の大門を前に、サラがため息をつく。


 サラたちは籠城戦を覚悟していたようだが、俺が門の向こうに転移してかんぬきを適当に転移し、さっさと門を開け放つ。敵兵は大いに慌て、機を逃さずに遊撃隊が突入する。


 これで完全に戦意を喪失したのか、後は目立った戦いもなくその日の夕方には俺たちはガーネル伯の居城を制圧した。




 夜になり、俺とジャネットはサラの執務室を訪れた。元々はこの州の役人のトップが使っていた部屋だそうだ。


 部屋に入ると、こぎれいな部屋の立派な机に並べられた書類とにらめっこしていたサラが顔を上げる。隣にはいつものように女騎士のリセが控えていた。


「ああ、よく来たな。とりあえずそこにでも掛けてくれ」


 席を勧められ、俺とジャネットは机の脇に置かれた椅子に座る。


 俺はやや疲れた顔のサラに話しかけた。


「どうだ、仕事の方は」


「そうだな、正直戦いよりこちらの方がよっぽど疲れる」


 そう言いながらサラが苦笑する。確かに城に入ってからというもの、サラはずっと指示やら報告やらで働きっぱなしだ。


 サラの様子を見ていたジャネットも、眉を寄せながら言う。


「あたしらは戦いだけでよかったよ。こんな仕事までやらされていたらと思うと、あたしゃ頭が痛いよ……」


「ははっ。安心しろ、こんな仕事、さすがにお前たちには任せたりしないさ」


 そう言うと、筆を置いて俺たちにほほえむ。


「一日で城を攻略し、ガーネル伯の身柄も確保することができた。お前たちのおかげだ。あらためて礼を言う」


「何、大したことはしちゃいないさ。結局俺がやったことと言えば敵の魔法を弾いたくらいだからな」


「凄かったね、あれは。あんなバカデカい氷つくるなんて、さすがリョータだよ」


 ジャネットがそんなことを言う。俺は気になっていたことを聞いてみた。


「その捕らえたガーネル伯とやらは、この後どうなるんだ? 王家に反逆したんだから、やっぱり一族郎党全員処刑したりするのか?」


 俺の言葉に、サラは驚いた顔で答える。


「全員処刑? まさか。全員どころか、ガーネル伯だけでも処刑は難しいさ」


「そうなのか? だが、それだと示しがつかないだろう」


「なるほど、リョータは少し誤解しているようだな」


 そう言うと、サラが俺に説明を始める。


「我がミルネ王国は四王国でも最も古くから続く国ではあるが、古くから続いているがゆえに諸侯の力も強いのさ。ライゼン王国のように強力な王の下で比較的新しく建てられた国ならそういうこともできるのだろうが」


「そうなのか」


「ああ。だから大貴族の処遇には神経を使うのさ。ヘタに扱えば、他の連中が何を言い出すかわからんからな」


「なるほどな、それでそんなに疲れているわけか」


「お前もようやく私の辛さがわかってきたようだな」


 そう言ってサラが意味ありげに笑う。見せしめに処刑すれば他の連中も黙るのではとも思ったが、逆に貴族側が結んで王家を追放したりという可能性もあるのか。言われてみれば、日本でも主君が家臣に追い出される例は珍しくないと習った気もするな。


 一人考えをめぐらせる俺に、サラが言葉を続けた。


「それに、少し気になる点もあるのだ」


「気になる点?」


「ああ。ここに来てもらったのは、お前たちにも少し意見を聞きたかったからだ」


 そう言うと、サラは表情を引き締める。俺とジャネットも、気を引き締めてサラと向かい合った。


 


先日モンスター文庫大賞の一次選考が発表されましたが、本作も無事通過することができました。また、同時に連載中の『職業『詩人』なんですが、どうやって戦えと? ~新章~』、『一年遅れの精霊術士』も通過し、今回は応募した3作品ともすべて一次を通過することができました。そちらの方も、よければこの機会にご覧いただけると嬉しいです。

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