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 敵陣から放たれた光の魔法を折り曲げた氷の壁に、敵味方がざわめき出す。その氷の壁は、皆が見つめる中忽然とその姿を消した。再びどよめきが起こる。


 どうやらうまくいったようだな。こういうこともあろうかと、以前から氷河地帯に大きな氷を準備しておいたのだ。前に上級魔族を水風呂へとぶちこんだ、あの氷河地帯だ。


 厚さ80センチはあろうかという分厚い氷をみつくろい、それをやや斜めに配置して反射させ折り曲げたのだ。もしうまく反射しなくてもこの氷をぶち抜くことはないだろうと思っていたが、うまくいってよかった。視覚効果も十分だ。


 ソレルノ教国の大聖堂にはあらゆる魔法を跳ね返す聖なる鏡があるそうだが、それを使ったのでは見た目的にしょぼそうだしな。何より、そんなものを使ったらサラに一発でバレそうだ。



 氷の壁が消えたからか、再び光魔法が俺目がけて放たれた。もちろん、俺は再度氷の壁を転移させて敵の攻撃を反射する。いっそそのまま敵の方へと跳ね返ってくれればいいのだが、残念ながらそこまで都合よくはいかないようだ。


 またしても攻撃を防がれて、まぐれではないと確信したらしい。今度こそ敵陣は恐慌状態に陥ったようだ。自分の仕事を終えたところで、俺は後ろの味方に向かい叫ぶ。


「サラ! もういいぞ! 敵の魔法は全て防ぐ!」


「リョータ、よくやった!」


 俺の声にうなずくと、サラは遊撃隊のメンバーに向かい高々と剣を掲げる。


「諸君! 敵の魔法攻撃は無効化した! 我が遊撃隊の恐ろしさ、連中に見せつけてやろうではないか!」


 サラの言葉に、遊撃隊から歓声が上がる。どうやら士気も上がったみたいだ。


「行くぞ! 全軍、突撃!」


 かけ声と共に、遊撃隊が敵陣目がけて一気に丘を駆け上がる。その先頭に立つサラ、ジャネットと合流し、俺も敵陣へと駆け出した。


 敵陣からは行軍を阻止しようと魔法が放たれてくるが、俺の転移する氷の壁の前にことごとく弾かれてしまう。ついでなので、弓兵から放たれる矢もいっしょに防いでおく。


 王国にその名を轟かせる遊撃隊の、その勇猛果敢な突撃に、敵は一挙に壊乱状態に陥った。Aクラスらしき冒険者も、俺とサラ、ジャネットの前になすすべもなく斬り伏せられていった。


「て、撤退、撤退!」


 指揮官とおぼしき男が、慌てて叫びながら我先にと逃げ出していく。指揮官を失った敵が遊撃隊の進撃を阻めるはずもなく、敵は遊撃隊に倍する数でありながら散り散りになっていく。大勢は決し、敵軍は潰走した。


「何だい、これからがいいところだってのに」


 逃げ出す敵の後姿を見つめながら、ジャネットが物足りなさそうにぼやく。さすがに逃げ出す敵の背中に剣を振るう気にはなれないのだろう。


 それはサラも同様だったようだ。


「深追いはしなくていい。被害の状況をまとめて、負傷者の手当てをすませろ。終わり次第、ただちに進軍を開始するぞ」


 逃げる敵には構わずてきぱきと指示を飛ばす。大勢が決した以上、掃討戦に無駄な時間を取られたくないのだろうが、王族として自国民を必要以上に殺したくないというのもあるのだろうか。


 そのサラが、俺のそばへと近寄ってくる。


「ご苦労だった。お前のおかげで、速やかに敵を撃退することができた」


「どういたしまして。まあ、俺は弾除けになっただけだがな」


 この世界に「弾」などあるのかは知らんが、意味は通じているようだ。


「いや、それだけじゃないさ。お前が派手に魔法を防いでくれたのが余程こたえたのだろう、まともな反撃もなかったからな。お前が敵に与えた精神的ダメージは計り知れないさ」


「だといいんだがな」


 照れ隠しにぶっきらぼうにつぶやく俺に、サラが笑う。


 それから、俺に聞いてきた。恒例の質問タイムか。


「ところでリョータ、あの氷はいったい何なのだ?」


「ああ、以前見せた物質創造魔法があったろう。俺は冷凍魔法の心得も多少あるのでな、両者を応用したのがあの氷の壁だ」


「……あいかわらず、お前という奴は計り知れん奴だな」


 あきれたような顔で言うと、サラは遊撃隊の指揮へと戻っていく。俺のチートレベルの転移魔法を隠すためについている嘘だが、この頃はむしろ自分の首を絞めているような気がしないでもない。


 やがて部隊の状況確認が終わり、俺たちは馬を取りに道を戻る。敵の主力は粉砕したので、後は特に障害もなく敵の本拠地まで到着するだろう。




 こうして、ガーネル伯爵軍との戦いはサラ率いる遊撃隊の完勝に終わった。


 


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