78 光魔法対策
サラたちと打ち合わせを終えると、遊撃隊は慎重に距離をはかりながら再び敵陣へ進軍を開始する。
ある程度のところまで進むと隊は止まり、敵と睨みあう。その間を、俺は単騎敵陣へと向かい歩き出した。
一人陣へと向かってくる俺に向かい、敵から気でも狂ったのかだのなんだのとヤジが飛んでくる。ふん、そう言っていられるのも今のうちだ。この後こいつらが動揺するありさまを想像すると、つい顔がにやけてしまう。
敵が陣取る丘の中ほどまでやってきたその時、敵陣から一筋の光が俺目がけて飛んできた。その光を、多少転移の力も借りながら俺は難なく避けていく。放たれた光のビームは俺の横を通り過ぎると、斜め後ろの地面に激突して派手な音を立てた。
その様子に、敵陣からどよめきが起こる。馬鹿が、こんなことに驚いてどうする。俺がビームをかわすだけでは魔法攻撃を無効化したとは言えないだろうが。俺の仕事はサラたちが突撃できる状況をつくることだからな。
魔法攻撃も、そこで一旦停止する。俺がかわすとは思っていなかったのだろう。少し慎重になったようだ。
そんなわけで、敵の射程範囲内に入ったことを確認すると、俺はそこで一人立ち止まる。余裕の表情で居座る俺の姿に、血の気の多い連中は我慢ができなくなったようだ。向こうから数人の傭兵どもがこちらへと向かってくる。馬鹿な奴らだ、おとなしくしていればいいものを。
「くたばれ、このガキ!」
口汚く罵りながら、まず三人の男が俺に躍りかかってくる。そんな男どもを、俺は容赦なく血祭りにあげていく。軽く腕を振るうと、男どもの首がまるでたんぽぽの花を刈るかのように飛んでいった。
その様子に激高した残りの連中が、俺へと突貫してくる。もちろん俺にかなうはずもなく、剣を二閃、三閃すると、連中の首は胴体に永遠の別れを告げた。
目の前で繰り広げられる悪夢のような光景に、ガーネル側の連中がざわめき出す。さすがに肝を冷やしたようだ。すっかり怖気づいたのか、俺にかかってこようとする奴はいない。俺はと言えば、剣の血を払うと再びその場に仁王立ちする。
敵陣からは矢が放たれたが、俺のところまでは届かないらしく、空しく目の前の地面へと突き刺さる。敵も手が尽きたようだ。どうだ、残るは魔法攻撃しかあるまい。まんまと敵を追いこんだことに、俺はほくそ笑む。
さあ、もう手はあるまい。魔法を出してくるがいい。次に魔法を放ったそのとき、俺が派手に無効化してやるんだからな。
そうして待つことしばし、痺れを切らしたのか、ついに敵陣から光の魔法が放たれた。さっき撃ってきた奴より一回り、いや二回りは太い。これで一気に決めようという腹積もりか。悪くない判断だ。
ただ、いかんせん相手が悪かったな。
「リョータ!」
「いかん、逃げろ!」
丘の中ほどに仁王立ちする俺に、太い光の柱が迫る。背後からはジャネットやサラ、そして遊撃隊メンバーの切羽詰まった叫び声が聞こえてきた。おそらく、今この場で一番冷静なのは俺なのだろうな。
眼前に迫った光の柱が、そのまま俺を貫く――ことはなく、俺の前方で急激に角度を変えるとあらぬ方向へと進み、丘にぶつかって地表をえぐり取る。予想だにしなかったであろうその光景に、敵陣からも味方側からもどよめきが起こった。
光線が向かっていった方から俺の方へと目を移したのだろう、敵と味方から再び驚きの声が上がる。彼らの視線は、俺の立ち位置からやや前方へと注がれていた。
俺の目の前には――太陽の光を浴びてあたかも宝石のように輝く、巨大な氷の壁が現れていた。