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77 開戦





 丘に向かうと、敵の軍勢が見えてきた。


 ざっと学校のクラス2つ分くらいの軍勢が、丘の向こうに展開している。リセの報告によれば約80人ということだったが、見た感じではそのくらいだな。


「さて、いよいよだな」


 こちらの2倍ほどの敵を前に、サラが不敵に笑う。さすがに肝がすわっているな。


 敵陣に目を向けると、サラがあちらを指さして言った。


「どうやらあいつらがAクラスの連中のようだな。強い力を感じる」


「そうか。それじゃジャネット、行くとするか」


「あいよ。あたしゃもう待ちくたびれたよ」


 そう言って、ジャネットが俺の隣に並ぶ。


「どうやら弓兵も数人いるようだな」


「あの程度の人数なら問題ないさ。さっさと間合いを詰めてやっちまえばいい」


「そうだな。それじゃ隊長、号令を頼む」


「ああ」


 そううなずくと、サラの指示でこちらも陣を展開する。と言っても、大ざっぱに三つの集団に分かれただけだが。俺たちは中央の部隊の先頭に立つ。右翼の先頭にはリセが立った。それだけの実力の持ち主なのだろう。


 準備が整ったのだろう。右手を上げて、サラが号令をかける。


「全軍、突撃!」


 その声に呼応して、遊撃隊の隊員が一斉に敵に向かって駆け出す。もちろん俺たちは先頭を切って敵に向かっていく。


 俺たちが陣取っていたゆるやかな丘を駆け下り、敵が陣を構える丘を駆け上がる。


 そろそろ弓の射程範囲かと気を引き締めていたその時、敵軍の方から何やら強い力を感じ取った。その力はこちらの右翼の方に向けられているような気がする。


 サラも感じ取ったのだろう。声を振り絞って叫ぶ。


「いかん! リセ、後退しろ!」


 そう叫んだ直後、敵陣から何か光のようなものが放たれた。それはそのまままっすぐに遊撃隊の右翼へと突き刺さる。直後、大きな爆発音と砂煙が舞い上がった。


「と、止まれ!」


 サラが珍しく少し慌てた様子で隊の突撃を制止する。それから心配そうに右側に視線を移し、リセたちが後方に弾き飛ばされながらも無事なのを見て安堵の表情を見せる。もっとも、あれは俺が激突直前に少し後ろに転移させたんだがな。


 と、敵陣から再び光の槍が飛んできた。先ほどと同様に、回避しきれなさそうな隊員を少しばかり後方に転移させる。再び轟音が鳴り響き、転移した連中も含め付近の者は爆風で後ろに吹き飛ばされた。


「後退だ! 全軍後退!」


 驚きの表情を浮かべながらも、サラは冷静に全軍に指示を飛ばす。敵を前に後退するのは難しいと聞いたことがあるが、遊撃隊は百戦錬磨の猛者がそろっているだけあって速やかに後退を始める。敵も特に追撃してくることはなかった。







 丘のふもとあたりまで後退し、俺たちは態勢を立て直す。先ほどの攻撃で負傷した者を後方に下げ、俺たちは打ち合わせを始める。


「驚いたな。向こうには魔法士がいるのか。それも相当の腕なんじゃないか?」


 俺の言葉に、サラがうなずく。


「リョータの言う通りだ。あれはAクラス、それもSクラスに準じるレベルの雷光魔法士だな。と言うことは、向こうにはあのダモンがついているということか」


「他国の冒険者の可能性もありますが、我が国の者であれば彼でしょう。やっかいですね」


 リセが同意する。幸いケガはなかったようだ。


「あんな飛び道具があるのでは、うかつに近づけんな。先ほどにしても、あの攻撃で混乱したところを叩くつもりだったのだろう」


「だったら連中のもくろみは潰すことができたんだ。結構なことじゃないか?」


 俺がそう言うと、サラは厳しい表情で首を横に振った。


「そう喜んでもいられん。連中には、特に動く気配がないだろう?」


「ああ」


「つまり、奴らとしては我々をここで足止めできればいいわけだ。その間に兵を2,300もかき集めれば、我々を潰すことも十分可能だと踏んでいるのだろう。目の前の軍勢と合わせれば300から400、さすがにそれだけの数で波状攻撃をしかけられればいかな精鋭の我々遊撃隊とて勝ち目はない」


「なるほど」


 十倍となるとさすがにつらいか。加えて向こうには腕の立つ魔法士もいるようだしな。


 ジャネットも、こいつは弱ったと腕を組む。


「まいったね、魔法使い相手じゃさすがのあたしも勝手が違うよ。何ならあたしが単騎で突っこんでダモンの野郎をのしてくるかい?」


「いくらジャネットでもそれは危険だろう。一人で突っこんだのではいい的になるだけだ。私とリョータと三人で突貫すれば、一人は奴のところまでたどり着けるだろうが……」


「隊長、そんな作戦は認められません」


「わかってるさ、リセ。私だってそんな誰かを捨て駒にするような作戦はごめんだ。ましてその中に私も含まれるのではな」


 そう言って軽く笑う。冗談を言える余裕は残っているようだが、内心ではきっと頭を抱えているのだろう。


 状況を整理すると、こちらとしてはなるべく早く敵を撃破したい、だが敵の魔法攻撃があるせいで攻めあぐねている、ということか。


 うん、いいアイデアが思いついたぞ。俺が転移してそのダモンとかいう奴の首をはねれば済む話ではあるが、せっかくの機会だ、以前から準備していたあれを試してみよう。


 俺はさっそくサラに声をかける。


「サラ、要するにその魔法士とやらの攻撃を無力化できればいいんだな?」


「む? ああ、そうだが、何か名案でもあるのか?」


「ああ、ここは一つ俺に任せてくれないか」


 俺の申し出に、サラが詳しい話を聞かせろと言ってくる。俺は簡単に作戦の概要を説明した。と言っても、敵の攻撃を俺が無力化したら突撃してくれ、というだけの話なのだが。



 さて、それでは久しぶりにギャラリーの連中を驚かせてやるとするか。




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