74 敵地へ
城に呼ばれた翌日、俺たちはさっそくサラたちと共にガーネル伯領とやらに向かっていた。
見晴らしのいい平坦な道を、俺たちはサラ率いる遊撃隊に加わって進んでいく。向こうには低い山が連なり、何とものどやかな旅である。今日は野営をし、明日には領内に着くらしい。
遊撃隊はざっと40人といったところか。大貴族相手の内戦だというのに、たった40人というのは正直少ない気がするのだが大丈夫なのだろうか。
「どうした、そんな顔をして。もしや怖気づいたのか?」
俺の隣に馬を並べ、サラがニヤリと笑う。
「まさか。俺がいなければどうするつもりだったのかと心配になっただけだ」
「そのときは我々だけで片をつけるだけのことさ」
「サラらしい答えだな」
俺の言葉に、サラが馬を近づける。
「で、本当は何を考えていたのだ?」
「ああ、国の一大事なわりには人が少ないと思ってな」
「ああ、そういうことか」
合点がいった様子でうなずくと、サラは笑いながら言った。
「それなら心配は無用だ。彼らはその一人一人が一騎当千の強者たちだ。その辺からかき集めただけの雑兵など、100人いようが200人いようがものの数ではない」
「さすがは精鋭部隊だな」
「当然だ。騎士団の中でも特に優秀な者を集めているのだからな」
そう言いながら、誇らしげに胸を張る。
それから、俺を諭すような口調で言う。
「それにお前はそう言うが、遊撃隊は別に少なくなんてないぞ」
「何?」
「我が遊撃隊は王国騎士団200人のうち、実に20%を占めている。貴族の私兵相手であれば、本来十分な数だ」
「そうなのか」
俺はてっきり敵は千人単位でいるものかと思っていたのだが、どうやらケタが違ったようだ。
そう言えば、以前魔族が侵攻してきた時も200匹くらいだったし、こちらから魔界へ侵攻した時も本隊は数百人程度だったな。この世界はそもそも人間がかなり少ないようだ。
そんな俺にレクチャーでもするかのように、サラが話を続ける。
「ガーネル伯が治めるフラムの町は、人口がざっと5千人。王国でも有数の都市だ。領民は4、5万といったところか。防衛戦なら領地中から千人くらい男をかき集められるかもしれんが、今回はそんな暇など与えてはやらん。この人数ならば連中が頭数をそろえる前にケリがつく」
そういうものなのか。領民が5万もいるのなら5千人くらいは兵を集められるのではないかと思うのだが、まあそういうものなのだろう。
「それに、我々は逆賊を討ちにいくのだ。わざわざ自分から叛徒の仲間入りをしたがる愚か者もそうは多くあるまい。ガーネル伯が強権を発動しようにも、私がその暇を与えないしな」
「なるほど」
感心して声を上げる俺に、サラが釘をさす。
「そうは言っても、向こうも百人くらいは私兵を準備しているかもしれん。あまり余裕だと思ってもらっても困るぞ」
「何、そのくらいはいてもらわないと俺の仕事がなくてかえって申し訳なくなる」
「そうか、ならお前にはたっぷりと働いてもらおう」
「それは勘弁してくれないか」
サラの言葉に苦笑する。どうやらやぶへびだったようだ。
と、少し後ろに下がっていたジャネットが俺の左側に馬を並べる。
「お二人さん、難しい話は終わったかい?」
「ああ。喜べジャネット、姫騎士様は俺たちにたっぷりと仕事を与えてくれるそうだ」
「リョータ、あんたまた何か余計なこと言ったのかい?」
そう言って俺の方にすいと迫る。またとは何だ、またとは。
だが、特に怒るでもなくジャネットは陽気に口を開く。
「ま、でもその方があたしはありがたいね。思いきり暴れられるんだろ?」
「そういうことだ。存分に活躍してもらいたい」
「話がわかるね、姫騎士様は。ま、あたしとリョータに任せておきなよ」
そう言いながら、上機嫌で胸を張る。俺はそこまで働きたくはないんだがな。まあ、仕事だし仕方ないだろう。
そんな話をしながら、俺たちはのどかな平原をガーネル伯領へと進み続けるのだった。