73 新たな依頼
しばらくぶりに、俺たちは城へと呼び出された。
団長室には、いつものようにオスカー団長とサラの姿がある。俺とジャネットは彼らと向かい合い、並んで席に着いていた。
「で、今日は何の用だ?」
「ああ、以前少し話していた次の仕事についてだ」
そうサラが言うと、隣のオスカーが口を開いた。
「今回やってもらいたい仕事だが、君たちにはサラ隊長の遊撃隊に加わり、王国西部、ガーネル伯領へ向かってほしい」
「ガーネル伯領?」
俺が問うと、サラがうなずいた。
「そうだ。ガーネル伯は以前からあやしい動きを見せていてな。我々も間諜を放って調べていたのだ」
オスカーが続ける。
「そして先日、ついに決定的な証拠をつかんだというわけだ。そこで、騎士団最強最速の部隊である遊撃隊を送りこみ、速やかに掃討することになった」
「聞いてもいいか? それはつまり、内乱の芽を摘むということか?」
「平たく言えば、そうなるな」
おいおい、今までそんな爆弾を抱えながら魔族と戦っていたのか。それとも、魔族の方でも人間界の分断工作を行っているのだろうか。
サラが言葉を続ける。
「ガーネル伯は我が王室とも姻戚関係にある、王国でも屈指の大貴族だ。だから今まではなかなか手を出せなくてな。今回ようやく内憂の根を断つことができる」
大貴族か。前にレーナを襲ったどら息子とどちらの方が上なのだろうな。あちらは侯爵とか言っていたが。普通に考えればあいつの方が上か。
「だが、それほどの相手なら手持ちの兵力もあなどれないんじゃないのか? もっと大人数を割かなくていいのか?」
「大部隊を送るとなると、それだけ時間がかかる。魔族と戦っている手前、境界付近の兵をあまり割くわけにもいかないしな。それならいっそ、連中が態勢を整える前に一挙に叩く方がいい」
「ほう」
「それに、あまり大々的に軍を動かすと魔族だけでなく周りの国もどう動くかわからないからな。大きな内乱となれば、それに乗じて動くところも現れるかもしれん。我々としては、速やかに鎮圧したという印象を内外に与えたいのさ」
「なるほど」
「リョータ、お前がそんなセリフを吐くとは思わなかったぞ。さすがのお前でも不安か?」
「馬鹿を言うな。少し気になっただけだ」
意地の悪い笑みを浮かべるサラに、俺は笑い返す。ジャネットも言う。
「そうさ、お貴族様の私兵どもくらい、あたしとリョータとあんたがいれば楽勝だろ、姫様?」
「ふふっ、あいかわらず頼もしいことだ。私も安心して仕事を任せられる」
「ああ、どーんと任せておくれよ」
そう言いながら、ジャネットが拳で自分の胸を叩く。こいつもどんどん腕を上げているしな。例のプレゼントを渡せば、さらに強くなるのは間違いない。
「だが、人間同士、それも同じ国の者どうしで戦うことになるとはな」
「しかたないさ。世が乱れればそれに乗じようとする輩はいつの時代にも存在する。我々はそれを未然に潰すだけだ」
そうサラが言う横で、オスカーが口を開く。
「そういうわけなので、悪いが君たちには明日までに準備をしておいてほしい。連中もこちらの動きを察知して動き始めるだろうからな」
「もっとも、すぐには兵も集まるまい。相手の準備が整う前に、我々は一気に敵を叩く」
「了解した」
そういう条件なら、俺が転移するのが一番手っ取り早いだろうな。まあしかし、ここは世の常識にならうことにしようか。
「すまないな。遊撃隊の隊員たちも砦での戦いのケガからほぼ復帰しているので、前よりは参加人数も多くなる。お前たちの分の馬はこちらで用意しておく」
「ああ」
「それでは、よろしく頼む」
「こちらこそ。せいぜい働くとするさ」
そう言って、サラと二人笑い合う。
その後、細かい話を少しして、俺たちは団長室を出た。
どうやらジャネットへのプレゼントはこの仕事が終わってからになりそうだな。そんなことを思いながら、俺はジャネットと二人で家へと帰っていった。