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72 贈りものを求めて




 ジャネットからプレゼントを催促されたその翌日。俺は引き続き悩んでいた。


 他国のお宝をかっぱらって来ようかとも思ったが、おそらくジャネットは遠からず世界中にその名を轟かせるような冒険者になるだろう。何せ俺といっしょに戦っているのだからな。


 そうなればきっと世界中を巡ることになるのだ、そのうちその剣が盗品だとわかる人間が現れるかもしれない。それはさすがに都合が悪いだろう。


 やはり人から奪うわけにはいかないな。ならば、どうすればいいだろうか。







 というわけで、俺は今魔族の屋敷で主とご対面している。広間には数十匹ほど魔族の死骸が転がっている。ただの雑魚どもだ。


 人間から奪うのが駄目ならば、こいつらから奪えばいいだけのことだ。魔族は人間ではないのだからな。こいつらから宝を奪えばそれだけ人間側の富が増えるのだ。害虫駆除にもなるのだし、まさに一石二鳥だ。


「き、貴様はいったい何者だ……」


 目の前の魔族はその太い手足を槍や剣で壁に縫いつけられた姿で、俺を憎々しげに睨みつけている。虎と熊を足して二で割ったような凶暴な顔だ。


 そんな面構えができるのも今のうちだけだ。まあ、そんなけだもの顔ではどんな表情なのかわかりはしないがな。


 魔族の問いには答えず、俺は用件だけを伝える。こんな館に住んでいるのだし、そこそこの力は持っているのだろう。いいものを持っていればいいのだが。


「そんなことはどうでもいい。お前、竜を殺せるような剣は持っているか?」


 その問いを、魔族は愚かにもつっぱねてくれた。


「貴様ごとき人間が、何をほざく。人間どもにくれてやるものなど、兎一匹とてありはしないわ」


「……自分の立場というものをわかっていないようだな」


 そう告げると、俺は太い右足に突き刺さっている槍に蹴りを入れてやった。昔聖人が使ったとかいう由緒正しき槍なのだそうだ。


 振動が響いたのだろう。魔族が獣の声を上げる。


「や、やめろ! 何が目的だ!」


「さっき言っただろう。竜を殺せるような剣はないかと聞いている」


「わ、わかった、話す! 話すからやめてくれ!」


 舌の根も乾かないうちに発言をひるがえしてきた。ふん、所詮は魔族だな。兎一匹ないのではなかったのか。まあいい、話を聞いてやろう。


「いいだろう、剣はどこにある?」


「こ、ここにはない! 雷を宿した大剣ならあるぞ? 魔界でもそうはない一振りだ!」


 何だ、ないのか。使えない奴だ。大剣ではジャネットが使うことは難しいだろうしな。


「仕方ないな。そういう剣を持っている奴に心当たりはないか?」


「そ、そんなことはわからん! 別に俺は武器を集める趣味などないからな」


「そうか。では、役立たずには死んでもらうとしよう」


「ま、待て!」


 いつものパターンだな。ちょっと脅せばすぐに命乞いを始める。浅ましい生き物だ。


 俺の冷笑に気づいているのかいないのか、魔族は必死に舌を動かす。


「お、俺は持っていないが、もっと上の魔族なら持っているかもしれん! そうだ、西方総督のガメル様ならば持っているかもしれん! あのお方は珍しい武器を集めるのが趣味だからな! 人間どもから武器を奪うたびに自慢しておられる!」


「ほう、そうか」


 それは期待ができるかもしれないな。まあ、魔族の言うことだから当てにはできないが。


「お前が言っていた大剣とやらはどこにある」


「それなら向こうの部屋にある。持ってくるから、この槍や剣を抜いてくれ」


「それには及ばん」


 そう言うと、俺はさっさと転移してその大剣とやらを手に入れる。


 大剣を俺の家に転移すると、俺は再び魔族の下へ戻ってきた。


 自分を磔にしたまま俺が帰ってしまったのかと思ったのだろう、魔族が露骨に安堵の声を漏らす。


「も、もういいだろう? 早く俺を助けてくれ」


「ああ、そうだったな」


 俺は笑いながら魔族の左腕に刺さった剣を引き抜く。片腕が自由になった魔族は、早くもう一方の槍も抜いてくれと俺を見下ろしてくる。


 そんな魔族に、俺は――笑顔で剣を首筋に叩きこんだ。断末魔を上げる間もなく、魔族はあっさり絶命する。馬鹿な奴だ、お前などの命を俺が助けるとでも思ったか。


 ふむ、西方総督か。どんな奴かは知らんが、コレクターならこいつよりは期待が持てそうだ。竜殺しの剣を持っているかはわからんが、何かしらいい剣の一つや二つくらいは持っているだろう。



 懸案のジャネットへのプレゼントもメドが立ち、安心したところで俺は彼女たちが待つ我が家へと帰るのだった。




 


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