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71 ジャネットへの贈り物





「ところでリョータ」


 いつものように食堂で夕食をとっていると、ジャネットが聞いてきた。


「何だ?」


「あれ、あたしにいつつくってくれるのさ」


「あれ?」


 彼女が何を言っているのかわからず、俺は間抜けにもオウム返しに言葉を繰り返す。


 そんな俺の様子に、ジャネットはどうやらご立腹のようだ。


「何だい、約束、もう忘れちまったのかい? あんた、今度あたしに剣をつくってプレゼントするって言ったじゃないか」


「ああ、あれか」


 悪いがすっかり忘れていた。というよりも、ジャネットがしつこいからその場しのぎに言ったに過ぎないことを、まさか真に受けているとは思わなかった。


 これはやはり剣を贈らなければいけないだろうか。ジャネットの顔を見れば、明らかに期待に満ちているからな。


 もっとも、武器をつくることができるなどというのは完全に口から出まかせなので、プレゼントするならばどこかから調達しなければならない。面倒なことになったな。


 とりあえず、ジャネットに要望を聞いてみることにする。


「そうだな、ジャネットはどんな剣がほしい?」


「う~ん、そうさね……」


 ノリで即答するかと思っていたのだが、意外にもジャネットは少し考えこむ。おいおい、あんまり無理なことは言うんじゃないぞ。


 珍しく黙りこむジャネットを、俺とカナがいっしょに見つめていると、やがて彼女は顔を上げて口を開いた。


「やっぱりあれだ、竜を殺せるようなのがいいね」


「竜を?」


 俺が問うと、ジャネットが続ける。


「そうさ。何たって、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)は全ての剣士の憧れだからね。小物の竜もどきならともかく、ちゃんとした竜なんてSクラスの剣士でも倒した奴なんてそうそういやしないさ」


「そうなのか」


「そうだよ。あの姫騎士様だってまだのはずさ。あたしが先に倒せば、冒険者としての格も上回るってわけ」


「なるほど」


 やはりジャネットは、冒険者としてサラを相当意識しているようだな。二人とも女を捨てて剣に生きる者どうし、それも当然か。


「しかしそんな剣、果たして俺につくれるかな」


「何弱気なこと言ってんだい。あんたが本気でつくった剣なら、竜くらいイチコロさ」


 簡単に言ってくれるジャネットに、俺も思わず苦笑を漏らす。


「だが、それだとお前の腕ではなく、俺の力で倒したようなものじゃないか?」


「わかってないね、リョータは。そこはほら、そんな凄い剣の力をちゃんと引き出せるあたしの技量じゃないのさ」


 得意げに言うジャネットに、俺は再び苦笑を漏らす。何とも都合のいい考え方だ。こいつはきっとストレスなどというものとは一生無縁だろう。


 ジャネットはと言えば、もうすっかり剣をもらったような調子でしゃべり始めている。


「もうじき姫様の仕事も来るんだろうし、ちょうどいいタイミングさね。仕事を片づけたら、どこの竜を狩りに行こうか……」


「ちょっと待て、サラの仕事の前につくらないと駄目なのか?」


「そりゃその方がいいさ。単純にあたしが強くなった方が、仕事もやりやすいだろ?」


「その分俺が働くというのでは駄目なのか」


「何言ってんのさ、そんな無駄なところに力を割けるくらいだったら、ちゃっちゃとあたしに剣をつくってよ」


「ああ……」


 弱ったな、のんびりそれっぽい武器を探そうと思っていたのだが、まさか締め切りを設定されるとは。


 ジャネットの顔を見れば、もう完全にその気ではりきってしまっている。今さら俺にそんな力はないなどと言える雰囲気ではない。と言うか、そんなことを言えば確実に俺の株が下がる。好感度的に。


 自分でつくった料理をうまそうにほおばるジャネットの顔を見つめながら、俺は剣の調達先に思いを巡らせ始めていた。まったく、もらう方は気楽なものだ。贈る方は何かと考えなければならないことが多くて頭が痛い。


 もっとも、今回の場合は身から出たさびという気もしなくもないが。


 城からもらった目録には竜を殺した剣などもあったとは思うが、まさかそれをかっぱらってジャネットに渡すわけにもいくまい。そんなことをすれば、何のために俺が夜な夜な国中の名剣やら何やらに細工をしてきたのかわからない。



 目録の武器を渡すのは無理か。さて、どうしたものか。


 



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