67 レーナの驚き
きょ、今日は少しはりきりすぎかしら……?
リョータさんからのお誘いということで、今日はがんばっておめかしをしたのだが、ひょっとしてがっついているように思われないだろうか。待ち合わせの広場に来てから、今さらながらに不安になってくる。
でも、リョータさんは強く押さないといっこうに振り向いてくれなさそうだし……。そんなことを思っていると、向こうの方からよく見知った三人がやってきた。
私が笑顔で手を振ると、向こうも気づいたようだ。リョータさんが声をかけてくる。
「待たせたな、レーナ」
「いいえ、私も今来たばかりですからちょうどよかったです」
約束の時間よりずっと早く着いてもう30分ほども待っていながら、何を白々しい嘘を、と自分でも思う。
「それじゃさっそく行こうか。こっちだ」
「は、はい!」
いつものように、リョータさんは自分のペースでどんどん先に行く。もちろん、カナちゃんの歩く速さに合わせてはいるけれど。
私も、置いていかれないようにその後に続いた。
「こ、ここって……」
店の門構えを見て、私は驚いた。どんなお店なのかと思っていたが、着いたのは近頃王都で最も勢いのある高級料理店。今や王室御用達の名店『グラン・ソワール』に肩を並べようかという超高級店だ。
「リョ、リョータさん、まさかここでお祝いをするんですか……?」
「そうだ。気に入らなかったか?」
「と、とんでもない! でも、私……」
「遠慮するな。代金の心配ならいらないぞ」
「そ、そういうわけには……」
「何、入ってみればわかる」
そう言うと、リョータさんはカナちゃんの手を握ってどんどん中へと入っていく。物珍しそうにきょろきょろあたりを見回すジャネットさんと並び、私も意を決して店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ……これはリョータ様、いつもお世話になっております」
「ああ」
店に入ると、ウェイターが媚を売るようにリョータさんに頭を下げる。まさかリョータさんはこの店の常連なのだろうか。一皿で一家が優に一月は生活できるというほどの高級店の常連とは、この人は本当に凄い。
と、別の店員に連れられて、この店の支配人と料理長らしき人たちがやってきた。リョータさんの姿に、こちらも媚を売るかのような格好で話しかけてくる。
「これはこれはリョータさん、ようこそお越し下さいました」
「あいかわらず繁盛しているようだな」
「それはもう……。それもこれも、全てリョータさんのお蔭でございます」
「奥で殿下もお待ちになられておいでです。ささ、どうぞどうぞ」
そう言って、二人がリョータさんに頭を下げる。リョータさんのお蔭で店が繁盛? いったいどういうことだろうか。そして、リョータさんはこの店といったいどんな関係があるのだろうか。
支配人たちが去ると、店員に案内され、私たちは店の奥の上客向けの部屋へと通される。
そこで待っていた人物の顔を見て、私は心臓が飛び出るほど驚いた。
「リョータ、待っていたぞ。早く座るといい」
「サラ、待たせたな」
こちらを見て笑顔で手を振る女性。リョータさんが気軽に返しているが、こ、このお方は……!
「ひ、姫騎士様!?」
思わず叫び声が漏れる。当然だ。こんなところに姫騎士様がいるなど、想像できるわけがない。
私はリョータさんに聞いた。
「ど、どうして姫騎士様がこのようなところにいらっしゃるのですか!?」
「どうしても何も、当然だろう。今日はサラと俺たちの祝勝会なのだから」
「ホント、リョータは人が悪いねえ。見なよ、顔が青ざめてるじゃないか」
ジャネットさんが楽しそうに笑う。
「リョータ、彼女には私のことを伝えていなかったのか? それは彼女がかわいそうだろう」
「すまん、その方がおもしろそうだと思ってな」
リョータさんがしれっとそんなことを言う。ひどい、あんまりです。
その様子に、王国第三王女、サラ殿下がおっしゃる。
「驚かせてしまったようですまない。彼にかわって詫びさせてもらう」
「と、とんでもないです、王女殿下! 私のような者に、もったいないお言葉です!」
慌てて言う私に、殿下がさらにお言葉を続けられる。
「レーナ、だったな? できれば今日は私とも普通に接してもらえるとありがたいのだが。駄目だろうか?」
「そ、そんな、畏れ多いことです……」
控えることも忘れて口を開閉させる私に、リョータさんが言う。
「レーナ、この場はサラの言うことを聞いてやってくれないか? 俺からも頼む」
リョータさんにも頭を下げられ、私も覚悟を決めた。
「わかりました、それではよろしくお願いします、殿下」
「できれば殿下もやめてもらえないか。サラでいい」
「そ、それでは、サラ様、で」
「ああ、ありがとう」
そう言って、サラ様が嬉しそうに微笑む。国民の皆を虜にするその笑顔に、私は危うく頭を下げそうになるのをすんでのところでこらえる。
それにしても、サラ様を呼び捨てにして親しげにしているリョータさんは、本当にいったい何者なんだろうか。そんなことを思いながら、私たちは席に着いた。