66 ささやかな祝勝会
サラとのささやかな祝勝会の日。俺たちは出かける支度をしていた。
「ほらカナ、この帽子もかぶっておけ」
「うん」
そう言いながらかぼちゃ帽子をカナの頭にかぶせていると、ジャネットが笑った。
「おやおや、ずいぶんめかしこんじゃって。あんた、カナにはホント甘いねえ」
「そんなことはない。それよりも、お前はそのかっこうで行くつもりか?」
俺はあきれながら言う。ジャネットはいつもの通り、ジーンズにジャケット姿だ。
「あたしゃこれが気に入ってるんだからいいんだよ。だいたい、何だってそんなにめかしこまなきゃならないんだい? 姫様とはいつもこのカッコで会ってるだろ?」
「まあそうなんだがな」
一応うなずくが、今日招待されたのは王都でも格式の高い名店だ。あまりいつものようなかっこうで行くのも気が引ける。
日程が決まったら俺の方で店を決めるつもりだったが、そのあたりはサラが決めることになった。
まあ、警護の関係もあるのだろう。もっとも、彼女に警護が必要とも思えないが。
準備ができると、俺たちは家を出た。
今日はこれから中央広場でレーナと合流して、サラの決めた店に向かうことになっている。
人ごみの中歩いていると、ジャネットが意地の悪い笑顔で声をかけてきた。
「しっかしリョータも人が悪いね。結局レーナには、姫様のことは教えてないんだろ?」
「まあな。少し驚かせようと思ってな。それに、その方がおもしろそうだろう?」
「おもしろそうって……。まったく、ホントに悪い奴だね、あんたは」
俺をひじでつつきながら、ジャネットが続ける。
「それにしても大丈夫なのかねえ? 店についたら姫騎士様が待っていたなんてことになったら、レーナなんかひっくり返っちゃうんじゃないのかい?」
「そんなことはないと思うが……いや、どうだろうな」
笑って否定しようとして、レーナの性格を思い返し言葉に詰まる。あの性格ならなりかねない、かもしれない。
「だが、それはそれで見てみたいな」
「あんたって奴は……。レーナも、何だってこんな男に惚れちまうかねえ……」
それは俺もそう思う。ついでに言うならば、ジャネットもなぜ俺に惚れているのかわからない。まあ、それは言わないが。
俺はカナに向き返ると聞いてみる。
「カナ、今日はうまいものがいっぱい食えるぞ。よかったな」
「おいしいもの、いっぱい?」
「そうだ、いっぱいだ。楽しみにしていろ」
「ジャネットのより、おいしい?」
「ああ、それはもちろん……いや、ジャネットのもうまいが、それとはまた違ううまさだ」
背筋を殺気が通り過ぎ、慌てて発言を訂正する。さすがの俺でも、無防備な背中に神速の一撃を叩きこまれては無事では済まないからな。
「カナはそんなにジャネットの料理が好きなのか?」
「ジャネットの料理、おいしい。好き」
ジャネットを見上げながらそんなことを言う。
最近、カナも会話が上達してきた。これも学校に通っている成果なのだろうか。
そのうち友達なども連れて来たりするようになるのだろうか。それはそれで楽しみだ。
そうこう言っているうちに、中央広場に到着した。
あたりを見渡せば、俺たちと同様に待ち合わせをしている人たちであふれかえっている。
「こうも混んでいると、レーナを探すのも一苦労だな。もっと違う場所で待ち合わせればよかったか」
「そうだよ、別にギルドで待ち合わせにしておけばそれで済む話じゃないか。何だってこんなところで待ち合わせなんかするんだい」
ジャネットがわからないといった顔で言う。
「そう言うな。レーナの希望だしな。彼女にしてみれば、職場で待ち合わせなんてのは勘弁してもらいたいんだろう」
「そういうもんなのかねえ。職場と言えば、あたしらにしたってギルドは職場みたいなもんだけど」
「人それぞれってことなんだろう」
どうにも納得がいかない様子のジャネット。まあ、こいつの基準も相当おかしいからな。
だが、待ち合わせ場所に関してはもう少し考えた方がよさそうだ。この広場は人が多くて困る。カナなどは、ちゃんと手を握っていないといつはぐれてしまうかわからない。
カナの手をしっかり握りながらあたりを見回していると、向こうから手を振ってくる女性に気づいた。レーナだ。
無事に合流した俺たちは、そのままサラが待つ店へと向かうことにした。