65 カナの成長
そろそろ夕日が地平線に近づこうかという頃になって、カナが学校から帰ってきた。
庭で稽古をしていた俺たちに声をかけてくる。
「ただいま」
「カナ、今帰ったか。おかえり」
「おかえりなさい。さて、じゃああたしらもこの辺で切り上げるかね」
「ああ、それがいい」
俺もすかさず賛成する。これ以上はさすがに体がもたない。俺の体は神様によって強化されているはずなのに、こいつのこの体力はいったい何なんだ。「疾風の女剣士」より「スタミナの女剣士」の方がお似合いなんじゃないか?
そんなことを思っていると、ジャネットが大声で言う。
「そうだね、それじゃ今日もあたしがうまいモン食わせてやるよ。あんたたち、ちょっと待ってなよ」
そう言って、ジャネットは玄関へと歩いていく。さて、俺も家に戻るとするか。
家に戻り着替えると、俺とカナは食堂でジャネットの料理を待つ。向こう側からは、早くも肉の焼けるうまそうな匂いが漂ってきた。
「カナ、お前はジャネットの料理だと何が好きだ?」
「カナ、ジャネットの料理、全部好き」
「そうか……まあ、確かにジャネットの料理はどれもうまいな」
あれでもう少ししとやかにしていれば、男など選び放題だろう。何が悲しくて冒険者などやっているのか。
そう言えば、どうしてジャネットが冒険者をやっているのか聞いたことはまだなかったな。まあ、大方戦うのが好きとかそんな理由なのだろうが。
そんなことを思っていると、ジャネットが肉と野菜の乗った皿を持ってきた。
「はい、できたよ。たんと食いな」
「ああ、いただこう」
「いただきます」
ジャネットが席に着くと、三人であいさつを済ませる。
俺は目の前の肉を一口大に切り分けて口へと運んだ。うむ、うまい。
「ジャネットは本当に料理がうまいな」
「どうしたのさ、急に。いよいよあたしを嫁にする気になったかい?」
「確かにこれだけ飯がうまいのなら、それも悪くはないな」
「おや、今日は珍しく思わせぶりなこと言うじゃないか。いいのかい、本気にしちゃうよ?」
「どうせ言おうが言うまいが変わらんのだろう。だったら好きにすればいいさ」
「何だい、そこでもう一言甘い言葉でもささやけないものかねえ」
そう言ってジャネットが頬杖をつく。この行儀の悪さ、とてもこの料理を作った人物と同一人物とは思えない。
「それに、今日はこっぴどくやられたしな」
そう言って、俺は袖を少しまくる。そこには、少し青くなったあざがあった。
「そりゃ稽古だもの、少しはケガだってするさ」
「そうは言うがな、結局俺の剣はお前の体には当たっていないんだ。どうにも不公平な話じゃないか?」
「仕方ないよ、あたしは『疾風の女剣士』って呼ばれてるくらいだしさ」
お互い笑いながらそんな言い合いをしていると、カナが俺のあざをじっと見つめていることに気づいた。
「どうした、カナ?」
「リョータ、ケガ」
「ああ、これか?」
「痛い?」
「まあ少しは痛みが残ってるが、大したことはないぞ」
そう言っても、カナは視線をそらさず腕を見ている。
そしてカナが口を開いた。
「カナ、それ、治す」
「治す?」
「うん。カナ、治せる」
そう言って立ち上がると、カナは俺のそばに寄ってきて腕に手を当てる。
それから俺のあざに小さな手を当てると、カナが目を閉じる。
すると、カナが手を当てている部分がだんだん温かくなってきた。
そして間もなく、俺の腕から痛みが引いていく。これは……カナの、癒しの力か?
「凄いなカナ、痛みがなくなったぞ。これはお前の力か?」
「うん」
「そうか、がんばったな。偉いぞ」
そう言って俺はカナの頭をなでてやる。
その時、俺はジャネットが驚いた顔をしていることに気づいた。
「カナ、あんたもうここまで力が使えるのかい?」
「どうした、そんなに凄いことなのか?」
「そりゃそうだよ。カナはまだ魔法を習い始めて一か月たってないんだろ? 普通そのくらいになるのには三か月はかかるって聞くよ」
「そうか、それは凄いな」
そう言って、俺はカナを見る。
「だそうだ。カナ、凄いぞ」
「カナ、凄い?」
「ああ」
俺の言葉に、カナが無表情に見つめ返してくる。これはかなり喜んでいる顔だ。
「ほら、早く食べないと飯が冷めるぞ」
「うん」
うなずくと、カナが席に戻る。
それから三人、ジャネットのうまい夕食を楽しんだ。




