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63 打ち上げの約束




 町まで着くと、警備隊の詰所まで邪教徒どもを引っぱっていく。


 俺とジャネットが詰所の一室で休憩していると、サラがやってきた。


「二人とも、今回は本当によくやってくれた。改めて礼を言わせてもらおう」


「何、大したことはしてないさ」


「あたしはリョータにくっついてきただけだしね。あ、でも報酬は期待してるよ?」


「それはもちろんだ。十分な額を支払おう。ほしいものがあれば遠慮なく言ってくれ」


「そうさね……。いや、それは任せるよ。あたしゃ今度リョータにプレゼントもらえるしね」


 まいったな、さっきの話、かなり期待されているようだ。そうだな、適当に魔族から奪い取るとでもするか。


 その後、細々とした話を終えると俺はサラに言った。


「それではそろそろ俺たちは帰らせてもらおうと思うが、いいか?」


「ああ、それはもちろんだが……今からか? 今日は疲れてるだろう? この後少しは祝いの席ももうけるつもりなのだが……」


「その気持ちはありがたいんだが、家にはカナがいるんでな。さすがに三日以上も家を空けるとなると心配だ」


「そ、そうか……。それなら仕方ないな」


 残念そうにサラがため息をつく。一応レーナにもカナの様子を見るように頼んではいるんだが、心配なものは心配だ。


 うなずくと、サラは俺に言った。


「わかった。後は我々の仕事だからな。一息ついたらいつでも帰ってくれていい」


「ああ、ありがとう」


「あの……そのだな」


 何か言いにくそうな様子で、サラが口を開く。


「今回は対外的な遠征で大勝利、というわけでもないのでな。国での祝勝会の予定はないのだ」


「ああ、別にそれは構わない。サラのお姫様姿を見れないのは残念だがな」


「そ、そんなことはどうでもいい」


 顔を赤くしたサラが、せき払いをして言う。


「それでだな、いずれ私的な形でお前たちをもてなしたいと思っているのだが、二人はその、どうだろうか」


 姫騎士様ともあろう者が、ずいぶんと遠慮したもの言いだな。


「つまり、サラは俺たちといっしょに食事をしたいということか?」


「あ、ありていに言えばそうかもしれんな」


 そうかもしれん、と言われてもな。素直じゃない奴だ。どれ、俺からも助け船を出してやろう。


「わかった、それでは今度いっしょに食事をしよう。作戦成功の打ち上げだ。カナとレーナ……ギルドの受付も呼んで構わないか?」


「あ、ああ、もちろんだ。祝いの席には人は多くいた方がいいだろうしな」


「了解だ。日取りはどう伝えればいい?」


「ギルドを通じて伝わるようにしておこう。とりあえず、帰ったら私の方から希望日を伝えさせてもらう」


「わかった、それではそういうことで」


 そう言ってうなずいたが、ふと気になることがあったので聞いてみた。


「そう言えばサラ」


「何だ?」


「お前、そんなに簡単に城の外に出てもいいものなのか? 仮にも王女だろう」


 その言葉に、サラが噴き出した。


「何をいまさら。王女といっても第三王女、気ままなものさ。第一、こんな作戦を指揮しているくらいだからな」


「言われてみれば、確かにそうだな」


「それよりも、仮にも王女とは何だ、仮にもとは。私はれっきとした第三王女だぞ」


「これは失礼いたしました、第三王女殿下」


 そう言いながら俺は怪しげな礼をする。


 それを見て、サラは愉快そうに笑った。


「ふふっ、何だその礼は。これからはお前にも貴族の作法というものを学んでもらわねばならぬかもしれんな、名誉騎士殿」


「そいつは大変そうだ。せいぜいお手柔らかに頼む」


 互いに笑い合う。


「それでは私はこれで失礼する。食事の件、頼んだぞ」


「ああ、任せておけ。仕事、がんばれよ」


「言われるまでもない。では、道中気を付けてな」


 そう言うと、サラは部屋を後にした。





 それからしばらくして、俺とジャネットは警備の者にあいさつして詰所を後にした。


 軽く酒場で名物の酒を飲んだ後、俺は転移魔法で家まで帰る。


 玄関前に立つと、ジャネットが口を開いた。


「さて、カナはちゃんと留守番できてたかね」


「大丈夫だろう。あれでいてカナは結構しっかり者だ」


「その割には、ずいぶんと急いで帰ってきたじゃないか」


「う、うるさい。からかうな」


 だが、ジャネットは口を止めようとはしない。


「カナだって、三日もあんたに会えなくてさびしいだろうさ。案外、扉を開けたらいきなり抱きついてくるんじゃないかい?」


「さあな。そんな姿はさすがに想像できないな」


 そう言って、俺は扉をノックする。


 かすかな足音の後、すぐに声がした。


「どなたですか」


「俺だ、リョータだ。カナ、開けてくれるか?」


「うん」


 返事の後、扉が開く。その向こうにあったカナの顔は、いつも通りの無表情だった。


「ただいま、カナ」


「リョータ、ジャネット、おかえり」


 そう言うと、カナはすぐに部屋へと戻ってしまう。


 その様子にややあっけにとられていると、ジャネットが声をかけてきた。


「予想外の反応だったようだね。もしかして、ホントに抱きついてくるとでも思っていたのかい?」


「そんな、まさか。ちゃんと留守番できてて安心してたところだ」


「ふーん、そうかい? カナがそっけなくてがっかりしてたんじゃなくて?」


「心外だな。そんなことは思ってない。それに、カナだってさびしそうな顔をしてただろう」


「そうかい? あたしにはいつも通りに見えたんだけど?」


「そんなことはない。さびしかった顔が、俺を見るなり嬉しそうになっていた」


「表情変わってたかい? まあ、あんたがそう思うならそれでいいさ」


 そう言って、ジャネットが中へと入る。


 俺も、一抹の不安を覚えながら久しぶりの我が家へと入っていった。





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