62 聖槍の秘密
応援が到着し、俺たちは捕らえた数十人の邪教徒を連行しながらアジトを後にした。
森の中を歩きながら、俺はサラやジャネットと会話する。
「それにしてもずいぶんといるものだな」
「それだけ大がかりな組織だったということさ。まだ各地に残党もいるだろうが、そちらは他の者が始末してくれるだろう。教祖たちも捕らえたことだしな」
応援もいるので特に脱走や抵抗されるということもないんだろうが、やはり邪教徒どもがこちらの倍以上いるという状況は気持ちが悪いものだな。
「それよりも」
サラが俺の顔を厳しい表情で見つめてくる。
「何だ」
「あの魔族の化けものと戦った時のあれだ」
そう言って、一層きつい目つきで睨みつけてくる。
「あの時お前が出した武器、あれは何だ」
「ああ、いい槍だったろう? こう見えて俺はどんな武器でも結構器用に使いこなせるんだ」
「そうだな、お前があれほど槍を使うとは思わなかった……いや、そうではなくてだな、あの武器は何なんだ」
「武器?」
「そうだ、お前とジャネットが使ってた武器だ。あの威力から見るに、どうやらかなり名のある聖剣と聖槍のようだったが、なぜお前がそんなものを持っている?」
ああ、あれか。そうだな、軽く説明してやるか。
「ここだけの話にしておいてもらいたいんだがな、実はな、あれは俺が生み出した武器なんだ」
「お前が生み出した、武器?」
サラが不思議そうに頭をかしげる。隣を歩いていたジャネットが、俺に聞いてきた。
「あの武器、リョータがつくったのかい?」
「そうだ、俺には物質を創造する力があってな。ああいった属性が付与された武具も創ることができる」
「そ、それは本当なのか!?」
サラが驚きの声を上げる。この世界にも錬金術師のようなものはいるようだが、そこまでのレベルの者は多くないらしい。
「まあ、何でもパッと創れるわけではないがな。核になる素材や、触媒になるものがいろいろと必要なのさ」
「まさかお前にそんな力があったとは……。まったく、お前はいつも私を驚かせてくれる」
「まったくだよ。あんたはホント大した奴だね」
サラとジャネットが、なかばあきれたような顔で俺を見る。俺の能力に大層驚いているようだ。
まあ、嘘なんだがな。
言うまでもなく、あの槍と剣は俺が転移魔法で持ってきたものだ。槍は王城に保管されていた聖槍、剣は北部の教会に保管されていた聖剣だ。
通常こういう宝物は転移魔法で簡単に盗み出されないよう、表面に対転移魔法用の術式が描かれている。これによって転移に必要な魔力の量が数十倍に跳ね上がるというやっかいな代物だ。
この術式が刻まれていると、普通は転移など不可能なのだそうだ。普通の術者ならな。
俺が武具の目録を褒美にもらったのはこれが理由だった。目録にある武具のところまで飛んでこっそりそれを持ち出したのだ。何百キロとなれば話は別だが、1キロ2キロくらいの距離なら術式があろうが問題なく転移できるからな。
持ち出した武具は、術式を消して代わりにそれを模写した模様を描いておく。そしてそれを元に戻しておけば、以後はいつでも大した労力もかけずに手元まで転移できるという寸法だ。
管理している連中は別に術式にくわしいわけでもないから模様が変わっていることなどわかりはしないだろう。何よりまさか術式入りの武具を転移してしまうほどの術者がこの世界に存在するとは夢にも思わないだろうしな。
目録の写しをいただいて以降、そんな地味な作業を夜な夜な繰り返していたのだが、まさかこんなに早く報われる日がくるとはな。努力の甲斐があったというものだ。
ただ、サラならもしかすると、手に取った時にそれが王国の宝物だとわかってしまう可能性がある。そんなことになってしまえば、後々面倒なことになりかねない。
そこで、俺はまずサラに自分の剣を手渡したわけだ。あれは正真正銘俺の物だからな。
それでもサラならあの槍と剣のことを見破ってしまうのではないかと少しだけ心配していたが、それも杞憂だったようだ。まあ、あの部屋も暗かったし、他人の武器のことなどにいちいち気を取られているような場面でもなかったしな。
せっかくの機会なのだから、こいつらにはここで大いに誤解しておいてもらうとしよう。俺は転移魔法だけが取り柄なのだとバレてしまえば、もしかしたら今後増えてくるかもしれない敵対者に何らかの対策を取られてしまうかもしれないからな。そういう致命的な情報は与えない方がいい。しっかりとダミーの情報で攪乱しておくべきだろう。
幸いにも、目の前の二人は俺の言葉を疑おうともしない。お宝を転移させられる者はいないが、武器を創り出せる者はいるということか。この世界では、俺の嘘の説明の方が説得力があるのだろう。
「じゃあさリョータ、そんな凄い力があるならあたしにも剣を一振り創っておくれよ」
「そうだな、少し考えておこう」
「やった! 約束だよ!」
無邪気にジャネットが喜んでみせる。
さて、こいつには何をプレゼントすればいいかな。
そんなことを思いながら、俺たちは町へと向かった。