57 アジトの制圧
「な、何だ貴様らは!」
「て、敵襲、敵襲!」
俺たちがアジトへ突入するや、廊下にいた兵士たちが叫ぶ。
そんな敵を切り伏せながら、俺たちは奥へと進む。
と、前方に人の波が現れた。兵士の後方にはローブの男が二人いる。
額には赤い石が埋めこまれている。あれが幹部か。
「二人とも気をつけろ! 奴ら、おそらく術師だ!」
サラの注意喚起とほぼ同時に、男の手から火の玉が放たれる。あれが火炎魔法という奴か。火の玉は真っ直ぐにサラへと向かう。
「ふん!」
サラが剣を一振りすると、火の玉は跡形もなく消し飛んでしまう。なるほど、あれで払えるのか。
もう一人の男が俺に向かい、風の刃のようなものを放つ。
サラにならい、俺も剣で振り払う。すると刃はあっさりとただの風に戻って散っていく。なるほど、力の差があれば魔法は防げるのだな。
「何っ、我らの魔法が通じないだと!?」
「馬鹿な、我らは四魔将の加護を受けているのだぞ!?」
いとも簡単に魔法を破られ、敵が動揺する。
四魔将か、懐かしい響きだな。まあ、軽く奥義を放っただけで沈むような奴だ。そんな連中の加護があったところで、俺にとっては何ら障害とはなりえないな。
「おらおら、邪魔だよ!」
うろたえる敵の真っただ中にジャネットが突撃する。さすがは「疾風の女剣士」だ。俺とサラも後に続く。
「う、うわああ!」
「ひっ、ひいいいっ!」
俺たちの攻撃に、たちまち敵のガードは破られ兵士の屍が量産されていく。
恐怖に見開かれた幹部どもの首をはねると、俺たちは建物の中を調べ始めた。
広い建物の部屋をしらみつぶしに回り、敵の幹部どもを見つけては斬っていく。
平信徒たちも多くいたため、俺たちはその都度連中を大部屋に連れて行き、ひとところに集めて管理する。部屋の見張りには、外から呼び戻したリセをあてがった。
建物の捜索を続けながら、俺はサラに聞く。
「非武装の平信徒とはいえ、あんなにたくさんいてリセ一人で見張りきれるのか? 男どもが何十人も暴れ出したら収集がつかなくなりそうだが」
サラは何だそんなこと、といった顔で俺に向き返る。
「大人数を制圧するにはコツというものがあるのさ。例えば連中は、四列に並んで座っているが」
「ああ」
「妙な動きをする奴がいたら、そいつを前から押してやるのさ。すると、そいつの後ろの連中も次々にドミノ倒しのように倒れていく。その結果、どうなると思う?」
「巻き添えになった連中はたまったものじゃないな」
「そう、その通りだ。するとどうなるか。またとばっちりを食らいたくはないということで、今度は連中同士で妙な動きをしないように監視し合ってくれるというわけさ」
「なるほど、連帯責任が理想的な監視システムを生み出すわけか」
昔は五人組なんてのもあったそうだしな。世の中にはいろいろと便利な方法があるものだ。
「それよりも」
サラが言う。
「まだ教祖の姿が見えない。残りの部屋を探すぞ」
「そいつは殺さない方がいいのか?」
「なるべく生かして捕らえたいが、どうしても無理なら斬って構わん」
「なるべく善処するさ」
そう言うと、俺たちは教祖の捜索を続けた。
しばらくして、建物の調査を一通り終えた。
幹部も何人か斬り、あるいは捕らえた。
その中の一人が、教祖たちは地下の隠し礼拝堂に逃げこんだと白状した。なるほど、見当たらないのも道理なわけだ。
もっとも、その幹部は別の幹部にすぐ口封じされてしまったから礼拝堂に続く道を聞き出すことはできなかったが。
サラが俺を呼ぶ。
「リョータ」
「わかっている。さっそく探そう」
「まいったね、あたしゃそういう探しものは苦手なんだよ」
「まあ、そう言うな。それではよろしく頼む」
「了解だ」
うなずくと、俺たちは地下への秘密通路を探し始めた。
通路の発見にはかなり手間取った。
裏口の隊も加わって探し回ったのだが、一階を重点的に調べていたのが仇になった。まさか二階からつながっているとは。RPGのダンジョンじゃあるまいし、素直に一階からつないでおけとこの通路を造った奴に言いたい。
「少し手間取ってしまったな」
やや不満げな表情でサラが言う。
「連中も我々を迎え撃つ態勢を整えているかもしれない。油断するな」
「大丈夫だ、何とかするさ」
「地下に潜ってるんなら、逃げ場がないだけ好都合じゃないか」
「そうだな、遠く離れたところまで逃げ道が続いていないことを願うばかりだ」
そう笑うと、サラが俺とジャネットに言う。
「それでは、行くぞ」
「ああ」
「任せときな」
そして、俺たちは地下の隠し礼拝堂へと向かった。