56 討伐作戦開始
ミネの町に到着した翌日、俺たちは邪教の本拠地を目指して町を立っていた。
本拠地から少し離れた森の中で、隊の他のメンバーと合流する手はずになっている。
俺たちが集合地点に着くと、そこにはすでに他のメンバーも到着していた。
サラが言う。
「よく集まってくれた。これより邪教徒の討伐作戦を開始する」
「おい、まだ日が高いがいいのか?」
「ああ。夜はむしろ警備が厳重になるだろうからな。闇にまぎれて逃亡されてもやっかいだし、日が沈む前にケリをつけたい」
「なるほど。続けてくれ」
どうでもいいが、こちらでも「けり」をつけると言うのだな。もっとも、単に俺にわかる表現に変換されているだけかもしれないが。
巻物を取り出すと、それを広げてサラが説明を始める。そこには敵のアジトらしき絵が描かれていた。
「メインの入り口はここだ。私が率いる一班が突入した後、二班はここを押さえておいてくれ。三班はこちらの裏口から突入しろ。ただし深入りする必要はない。むしろ抜け穴から脱出を試みる者もいるかもしれん。リセはこのあたりに目を光らせていてくれ。二班、三班からも一人ずつ出して、こことここを見張っていてくれ」
その後もサラは図面を指さしながら的確に指示を出していく。このあたりはさすが経験豊富な指揮官といったところか。
ジャネットがサラに聞く。
「あたしらは何か気をつけることあるかい?」
「お前たちは私といっしょにアジトの中へ突入してもらう。思う存分暴れてくれて構わないぞ」
「そうかい? 荒ごとは任せといてくれよ」
「ああ、期待しているぞ。だが片っ端から殺すのはやめてくれ。刃向かってくる者だけにしてもらえると助かる。もっとも、その手の連中を相手にするだけで十分な運動にはなると思うがな」
「そんなに凶暴な奴らなのかい? そりゃ楽しみだね」
嬉しそうにジャネットが舌なめずりする。Sクラスに昇級したこともあって、ひと暴れしたいのだろう。
俺もサラに質問しておこう。
「以前お前は敵に術師がいるかもしれないと言っていたな。具体的にはどんな術師がいそうだと思う?」
「そうだな、何か邪悪な術をつかう者もいるかもしれないが、単純に火炎術師や雷光術師の信者がいればそれらの術を使ってくるだろうな」
サラの言葉に、俺は自分のうかつさに気づく。そうか、別にどんな奴が信者になっていてもおかしくはないのか。面倒なタイプの奴がいなければいいんだがな。
サラが続ける。
「人間を魔族の生贄にするような連中だからな。死体を操ったり、呪いの力を放ったりしてくるかもしれん。だが、相手が余程強力な術者でもない限りはそれを食らったからすぐに死ぬなんてことはないだろう。お前くらいの力の持ち主なら抵抗力も高いはずだからな」
なるほどな。まあ、加えて俺の場合は転生時に身体も強化されているし、特に心配はないだろう。
「邪教の幹部は皆額に赤い石を埋めこんでいるから、判別は容易だろう。我々はここで敵の幹部を全て狩り尽くす。情報を引き出すために、何名かは捕らえておいてくれ。何か質問はあるか」
「いや、大丈夫だ」
「あたしもだよ。要はその赤い石の入った連中をやっちまえばいいんだろ?」
「そういうことだ。では説明は以上だ。これより敵アジトへ向かう」
そこで作戦会議は終わり、俺たちはアジトへと移動を始めた。
アジトまでは、それほどかからなかった。
森の奥にはやや大きめの石造りの建物があり、入り口では門番が二人で見張っている。
「よし、まずは矢を放て。それでは……」
「待て。弓では確実性に欠けるだろう。あの二人は俺が片づける」
「そうは言うがな、リョータ。片づけるといっても、いったいどうやって……」
サラが俺の方を振り返って口を開いたその時、門番の目の前の空間から突如小ぶりな剣が現れてその胸に突き刺さる。門番たちは声を上げる暇もなく絶命した。
それを見て、サラが納得した様子でうなずく。
「なるほど、この前の技か。お前はつくづく便利な奴だな」
「そいつはどうも」
「それでは作戦を開始する。リョータ、ジャネット、私に続け!」
「ああ」
「待ってました!」
そう言って飛び出すと、俺たちは入り口のドアをぶち破って建物の中へと突入する。
こうして、邪教徒殲滅作戦は始まった。