55 邪教徒の討伐へ
邪教徒討伐の依頼を受けてから数日後、俺とジャネット、そしてサラは王国南東の町ミネに来ていた。もう一人、遊撃隊の隊員もいっしょだ。
「ここがミネの町かい。初めて来たけど、何にもない町だねえ」
「基本的には魔族の侵攻を防ぐのが目的の町だからな。交易路上にあるわけでもないし、そんなものさ」
「だが、荒くれ者が多いだけあって酒はうまいと聞いたが」
「そうそう、あたしもそれを楽しみにしてたんだよ。ミネのビールってのは、酒飲みなら一度は飲みたいって評判だからね」
ジャネットがにんまりと笑う。道中やけに上機嫌だったのもそれが理由か。
ミネの町は他の町同様に高い市壁で囲まれている。ピネリの町と同じくらいの高さだろうか。
町のサイズはマースより少し大きいといったところか。服屋や雑貨店が少ないかわりに、あちこちに酒場がある。
今回邪教を討伐するにあたり、遊撃隊は三班に分かれてミネの町に入っている。ここから東、邪教徒の本拠地にほど近い地点で合流する手はずなのだそうだ。
町を歩きながら、俺はサラに聞く。
「この作戦に参加する連中というのはどんな奴らなんだ」
「私の隊の中でも腕利きの者だけを集めた。今後も彼らと共に働いてもらうことになるだろうな。実力的には申し分ないぞ? 全員がBクラス以上の強者ぞろいだ」
「それは頼もしいな」
「このリセも、もうすぐAクラスに昇級間近の騎士だ。並みの賊など一人で潰せるぞ」
サラの言葉に、リセという名の女騎士が軽く頭を下げる。王都からずっと旅路を共にしているが、何とも寡黙な女だ。おしゃべりなジャネットとは大違いだな。
「だが、いくら三隊に分けているとはいえ、こんな小さな町では人の出入りは目立つんじゃないのか? ましてサラなどはずいぶんと目立つだろう」
「普通の町ならそうかもしれんが、ここは軍事的に重要な拠点で軍人の出入りなど珍しくもないからな。邪教徒の本拠地に近い町なら他にもあるが、ここを選んだのはそれも理由だ」
「なるほど、少し離れていると思ったがそういうことだったか」
「それに、この町は小さくはないぞ? 人口が五千人を超える町なんて王国内でもそうはないからな」
「ああ、そうだったな」
町の大きさなどはつい現代日本の感覚で考えてしまいがちだが、ここは中世ヨーロッパ寄りの世界だったな。
やがて、この町の警備隊の兵舎へと到着した。
サラの到着に、警備隊長らしき男が平身低頭で俺たちを迎え入れる。
あてがわれた部屋に荷物を置くと、俺たちは再び兵舎の一室に集まり今後の予定を確認していく。
「……というわけで、明日はこの地点に集合後奴らの本拠地を叩く。何か質問はあるか?」
「いや、大丈夫だ」
「うむ。それでは解散だ。ではまた後ほどな」
打ち合わせが終わるや立ち去ろうとするサラに、ジャネットが声をかける。
「おおっと、ちょいとお待ちよ。せっかくだからさ、名物を味わいに行こうよ」
そう言って、ジョッキをあおる仕草をする。
断るかと思ったが、意外にもサラは誘いに乗ってきた。
「そうだな、景気づけもいいだろう」
「おお、今日は姫騎士様、ノリがいいねえ」
そう言ってジャネットが笑う。俺はリセにも声をかける。
「お前もいっしょにどうだ?」
「申し訳ありません、私は酒を飲めませんので」
「そうか、ではまたな」
「はい。失礼いたします」
そう言い残してリセが退出する。
サラがため息混じりにつぶやいた。
「やれやれ、リセもあれがなければな。せっかくの美人が台無しだ」
「それをサラが言うんだな。俺が最初にお前に持った印象と同じだぞ」
「そうなのか? 失敬な奴だな。私は初めから茶目っ気たっぷりではないか」
真顔で言うサラに、俺は思わず失笑しそうになる。
それにしても、まさか俺がこのお姫様とこんな風に話すようになるとはな。
「あんたたち、いつまでもいちゃついてないでさ、早く酒場に行こうよ。話はそれからでもいいだろ?」
「ふふっ、リセにもジャネットを見習ってもらいたいものだ。それでは行くとするか」
「ああ」
そう言って笑うと、俺たちは部屋を出て兵舎を後にする。そのまま俺たちは兵舎からほど近い酒場へと繰り出した。
それからしばらくの間、俺たちは酒場でこの町の名物を存分に堪能する。
ジャネットなどは明日の作戦に支障が出るのではないかと心配になるほど飲んでいたが、まあきっと大丈夫だろう。
酒を酌み交わして結束も固まったところで、俺たちは明日に備えて兵舎へと戻った。