54 王国に巣食う邪教
例の仕事の件で呼び出された俺とジャネットは、団長室でオスカー、サラ、シモンと向かい合っていた。
先日、シモンにも正式に副団長就任の話が行ったらしく、俺たちも祝いの言葉をかける。
「シモン、副団長就任おめでとう」
「凄いね、シモンの旦那。あたしからもおめでとうと言わせてもらうよ」
「これはこれは、どうもありがとうございます。私も副団長の名に恥じぬよう、精一杯やらせていただきます」
「シモンなら何の心配もない。私などよりよっぽど立派に副団長を務めてくれるだろうさ」
そう言ってサラが笑う。地位自体には何のこだわりもないようだ。
「しかしサラが遊撃隊に専念するとなると、隊の連中は苦労しそうだな」
「なぜそうなるのだ? 私の隊はいつでも平常運転だ」
サラに睨みつけられ、俺は口をつぐむ。
その様子に笑いながら、オスカーが口を開いた。
「さっそくだが、君たちに頼みたい仕事の話に移ってもいいかね?」
「ああ、頼む」
俺がうなずくと、オスカーが説明を始める。
「先日も少し話したが、サラ殿下……隊長には国内の不穏分子の掃討をお任せすることになっている。その最初の標的が決まったので、それを君たちにも手伝ってもらいたいのだ」
「その標的とは?」
俺の問いに、オスカーが問いで返す。
「うむ。まずは『贄の傘』というのを知っているかね?」
「『贄の傘』? 知らんな」
「ああ、魔族に生贄を捧げることで平和が保たれるなんてことを言ってるヤバい連中だろ?」
ジャネットが嫌そうに顔をしかめる。話を聞いた限りでは、かなり危ないカルト教団のような感じか。
「そうだ。地下で暗躍する邪教の一派なのだが、その根拠地が王国の南東部にあるのだ。これまでは魔界との境界線近くにあることもあってなかなか手出しができなかったのだが、今回魔族を奥へと退けたことを受け、連中を一気に叩こうという話になってね」
「奴らは実際に人々をさらい、魔族に生贄として捧げることで自分たちの安全をこれまでは保障されてきた。断じて許すわけにはいかない」
サラが怒りも露わに言う。彼女にしてみれば、王国の民を犠牲にして魔族と取引をするなど王女として決して許せないのだろう。
ジャネットもサラに同調して強くうなずく。
「聞けば聞くほど胸クソ悪い野郎だね。リョータ! そんな連中、あたしらでぶっ潰してやろうよ!」
「そうだな。俺としても、サラを手伝うことに反対する要素はない」
「そうか、ありがとう。君たちは形式上はサラ隊長の隊に組みこまれる形になるが、くわしいことは隊長から聞いてくれ。隊長、どうぞ」
「ああ」
オスカーの言葉にうなずくと、サラが俺たちに説明を始める。
「前も話したが、私の遊撃隊も今は動ける人員が限られていてな。お前たちを含めて十名程度の少数精鋭になる予定だ。まあ、そこはあまり大人数で動いても相手に気取られるだけだからな」
「相手の規模はどのくらいなんだ?」
「平信徒は百人二百人くらいいるかもしれんが、戦える者となるとそれほど多くはないだろう。もっとも、邪教徒の幹部は邪悪な魔法を使ったりするかもしれないがな。我々としては、その幹部連中を一掃することが目標になる」
邪教徒の魔法か。闇魔法とか死霊術のようなものだろうか。今度書物で軽く調べておくか。
「いやだねえ、骸骨なんかを操ったりしないだろうねえ」
ジャネットも俺と同じようなことを思ったのか、ぶるっと身を震わせる。意外と迷信深いのかもしれない。
その様子にサラが笑う。
「だからと言って、この仕事をやめるとは言わないでくれよ。ジャネットの剣は我々にとっては不可欠と言っても過言ではないからな」
「姫騎士様にそこまで言ってもらえるとは光栄だね。安心しなよ、仕事とあらば骸骨だって蹴散らしてやるさ」
「頼もしい言葉だ、期待している」
そう言って、サラが俺へと目を移す。
「リョータはどうだ?」
「どうもこうも、俺は初めから手伝うつもりだ。心配するな、期待には応えよう」
「そ、そうか。よろしく頼む」
少し顔を伏せながら、サラがつぶやいた。
「ところで、その邪教徒狩りはいつごろになるんだ?」
「ああ、そう遠くない時期に出発しようと思っている。遅くとも半月を超えるということはないはずだ。準備などあれば今のうちに用意しておいてくれ。何か入り用であれば、遠慮なく言ってくれ」
「わかった」
俺がうなずくと、サラが笑う。
「二人とも協力感謝する。これが初めての仕事になるが、活躍を期待しているぞ」
「せいぜいがんばるさ。こちらこそよろしく」
「あたしも精一杯やらせてもらうよ」
俺たちは立ち上がると、お互いに握手を交わす。
最後にオスカーたちにあいさつすると、俺とジャネットは城を後にした。