52 サラとの語らい
遊撃隊の連中やお偉いさんのテーブルをサラと共に回り、俺は元のテーブルへと戻ってきた。
「よっ、お疲れさん。あんたもすっかりVIPだね」
だいぶできあがってきたジャネットがウィンクしてくる。
「まあな。こうして王女殿下と並んで歩く栄誉に与れるくらいには出世したということだろう」
「何とも頼もしい話だよ、まったく」
そう笑う俺たちに、サラが声をかけてきた。
「私もお邪魔してよろしいかな」
「もちろんだ。王女殿下のお願いを無下にできるわけがないだろう」
「だから殿下はやめろ。ジャネットもいいか?」
「あたしに遠慮なんかしなくていいよ。こうして声をかけてもらえるだけで光栄さ」
「そう言わずに、友人として接してほしいのだがな」
「わかってるって。よろしく頼むよ」
「ああ、こちらこそ」
「ほら、あんたも一杯どうだい」
サラの言葉にニカッと笑うと、ジャネットが酒を一杯勧める。
「ありがとう、喜んでいただこう」
そうほほえむと、サラはグラスを受け取って軽く口をつけた。
「ところでサラ、あんた何だって急にあたしらみたいな冒険者に目をかけるようになったんだい? ついこないだまでは冒険者なんて必要ないって突っ張ってたそうじゃないか」
ジャネットがいきなり遠慮のない質問を浴びせる。何とも恐いもの知らずなことだ。まあ、俺も人のことは言えんが。
そんなぶしつけな問いに、サラは特に気を悪くした風でもなく答える。
「それは前も話した通り、リョータの戦いぶりを目の当たりにしたからだろうな。あれを見て、騎士だの冒険者だのとは言っていられないと確信させられた」
「なるほど、つまりリョータに一目惚れしたってことかい」
「な、なぜそうなる!? 私は純粋に彼の強さに目を覚まさせられた、それだけだ!」
やや興奮ぎみにサラが言う。さすがお姫様、この手の話にはうぶい反応をするのだな。もっとも、第一王女や第二王女であれば政略結婚などの絡みでむしろシビアな反応を示すのかもしれないが。
「言っとくけど、あんたにはリョータは渡さないよ」
「何の話だ! 私にはそんな気は毛頭ない!」
俺の意見などお構いなしに好き放題言っている二人に、俺は割って入る。
「それにしてもサラ、あの上級魔族に放った技は見事だったぞ。あれほどの剣技、俺は今まで見たことがない」
「そ、それをお前が言うのか? あんな技を放っておきながら、それは嫌味にしか聞こえないぞ」
「本心から言っている。剣技だけなら俺はお前には歯が立たないさ」
「そ、そんなこと……」
そうつぶやくと、サラは顔を赤らめて少しうつむく。何ともかわいらしい奴だ。
ジャネットも俺の言葉にうんうんとうなずく。
「リョータの言う通りだね。悔しいけど、今の力じゃあたしもあんたにはかないそうにないよ。一枚、いや二枚はあんたの方が上だね」
「お前たち、こんなところで私を持ち上げても、何にも出てはこないぞ」
「いや、もう出てきてるさ」
「何? どういうことだ?」
不思議そうに首をかしげるサラに、俺は言う。
「お前の照れる顔、とかな」
「お、お、お前たち……」
顔を真っ赤にさせたサラが、握りしめた手をプルプルさせながら俺とジャネットを睨む。
しばらくの間、俺たちはそんな他愛もない話を楽しんだ。
祝勝会も終わりに近づき、徐々に退席する者も現れる。俺たちはずっと話しこんでいたが、ふと気づいたかのようにサラが言う。
「いけない、ずいぶんと長い間引き留めてしまったな。私もそろそろ戻らないといけない」
「いや、俺たちの方こそつき合わせてすまなかったな」
「そんなことはない。それでは私はこのあたりでおいとまさせてもらう」
そう言って、サラが俺を見つめる。
「リョータ、近いうちにお前に手伝ってもらうことになるはずだ。お前たちと共に戦えることを、今から楽しみにしている」
「ああ、俺もだ」
「よろしくね、姫騎士様」
「よろしく」
俺たちをまねて言うカナに、サラが思わず笑みを漏らす。
姫君らしく優雅に一礼すると、サラは向こうへと去っていった。
しばらくして、祝勝会の方もお開きになった。俺たちもオスカーやシモンにあいさつをして、会場を後にする。
女官に出口まで案内されて城を出た俺たちは、そのまま夜風に当たりながら家へと歩いていく。
「いやあ、飲んだ飲んだ」
「お前はここぞとばかりに飲んでいたな。カナは一杯食べたか?」
「うん。一杯、食べた」
「そうか、よかったな。お姫様はどうだった?」
「お姫様、キレイ」
「おやおや、カナもそういうことがわかるようになってきたのかい。こりゃ色気づくのも時間の問題かね」
「もう学校にも通い始めているからな。そのうちいい相手を見つけるかもしれないさ」
「はあ、この男は何を言ってるんだか」
あきれ顔でジャネットが言う。まさか、カナが俺に惚れるとでも言うのだろうか。お前が思っているようなことにはならないと思うがな。
三人、夜道をそんな調子で歩きながら我が家へと帰って行った。