51 祝勝会
控室の窓の向こうが徐々に暗くなってきた頃、俺たちは祝勝会の会場に案内された。
晩餐会場にはすでに多くの者が集まっていた。ほとんど男ばっかりなのは、基本的に武官ばかりが集まっているからだろう。
立食パーティーの形式ということで、俺たちもテーブルの一つに通される。
周りを見渡しながら、ジャネットが言う。
「せっかくのパーティーだってのに、何ともむさ苦しいねえ。さしずめあたしゃ荒野に咲く一輪の花ってとこかね」
「そのなりではあいつらと大差ないがな」
「リョータ、後でおぼえてなよ」
じろりと俺を睨むと、ジャネットが手元の酒を一杯あおる。ドレスでも着ていれば話は別だが、ジャネットは男物のスーツに近いからな、着ているものが。
その点カナは白のワンピースだが、さすがにまだ子供だしな。華やかさがどうこうと言うにはまだまだ早い。
そんなことを思いながら酒を一杯あおっていると、向こうの方から一人の女がこちらに向かって歩いてきた。
華やかなドレスに身を包んだその女は、金髪を結い上げ胸元に大きなブローチをつけている。
その女は真っ直ぐこちらへやってくると、微笑をたたえながら言った。
「リョータ、宴は楽しんでもらえているか?」
「……お前、もしかしてサラか?」
「もしかしてとは何だ。どう見ても私だろう」
眉を吊り上げながら、女――サラが言う。
俺はその姿をまじまじと見つめながら言った。
「いや、あまりにも綺麗だったのでな。今ちょうどこの会場には華がないという話をしていたところだったんだ」
「お前は世辞もうまいのだな。確かに今日は男ばかりが集まっているから、お前がそう思うのも無理はないが」
「お世辞じゃないさ。いつも勇ましい姿しか見ていないから忘れがちだが、こうして見るとれっきとしたお姫様だな。美しいぞ」
「そ、そうか……」
頬を染めて、サラが目をそらす。なかなかうぶな奴だ。
「今日はお前たちが主役なのだ。楽しんでくれ」
「言われなくてもそうさせてもらうさ」
「あたしはもう勝手に始めてるけどね」
グラスをかかげるジャネットに、サラが苦笑する。
「その前に、少し時間をもらいたい」
そう言うと、サラは会場の人々に向かって口を開いた。
「皆、この前の戦いはご苦労だった。今日は存分に楽しんでくれ」
その声に、会場から歓声が上がる。
その歓声をさえぎるように、サラが言葉を続ける。
「ここで、今回の立役者を皆にあらためて紹介したい。彼はリョータ、砦で上級魔族の前に壊滅の危機にあったその時、我々を窮地から救ってくれた男だ。皆、彼に盛大な拍手を」
サラがうながすと、会場に大きな拍手が響き渡った。さすがに少し気恥ずかしい。
「ほら、お前からも何か言ってやれ」
「そう言われてもな」
俺はこういう場には慣れていないからな。とりあえずあいさつでもしておくか。
「リョータだ。無事に砦を攻略できてよかった。これからもよろしく頼む」
そう言うと、再び拍手と歓声が沸き起こる。その様子に、サラが笑う。
「どうやら皆も受け入れてくれたようだな。皆あの戦いに参加していたのだから当然と言えば当然だが。これからもよろしく頼むぞ、名誉騎士殿」
「こちらこそ」
こんな大げさな紹介をされるとは思っていなかったが、会場はおおむね好意的に受け止めているようだ。
まあ、オスカーとサラ、次期副団長のシモンと親しいわけだしな。表だって不満を見せる奴もいないか。サラが言っていた通り、ここにいるのは主に遊撃隊の連中だしな。
逆に言えば、騎士団と対立関係にあるような組織からは目をつけられているかもしれないのか。あまり面倒なことにならなければいいのだがな。
皿の食事に手をつけていると、ジャネットが肩を叩いてくる。
「リョータ、あんた大した人気者じゃないか。あたしも鼻が高いってもんだよ」
「そうなのか」
「そりゃそうさ。これからもこの調子で名を上げてっておくれよ」
「せいぜいがんばるさ」
そう言って笑うと、ジャネットも笑顔で返す。
お互い手に持った酒に口をつけていると、サラが言った。
「リョータ、他の席も回ってやってくれないか。皆英雄殿と話をしたいらしくてな」
「俺と話すことなど何もないと思うのだがな」
「そう言わずにあいさつだけでもしてやってくれ。私もいっしょに回る」
「殿下の頼みとあらば、断るわけにはいかないな」
「茶化すな。すまんが頼む」
そうして、俺はサラに連れられて高級武官や遊撃隊の面々のテーブルを回っていった。