5 初めての戦い、そして奥義
ギルドに駆けこんできた男の一報に、ギルド内が騒然となる。
「落ち着け! それで、今魔族はどうなってる!?」
少し年のいった男が駆けこんできた男に聞く。
「い、今は警備兵とその場にいた冒険者たちがおさえてる!」
「数は!?」
「そう多くはねえ! でも、奴ら、強い!」
俺もその男に聞く。ここはいいところを見せるチャンスだからな。
「場所はどこだ?」
「この町の西門だ! お前らも、早く応援に行ってくれ!」
それを聞いて、ギルドの冒険者たちが我先にと入り口から飛び出す。
まずい、あのジャネットとかいう女、速い。あいつに全部片づけられては困る。
だが幸いなことに、俺には転移魔法がある。これで飛べば俺が一番乗りだ。
さて、では行くとするか。この町の西門、と。
念じると、次の瞬間にはギルドの外、町の一角にいた。ここが西門のあたりなのだろう。
西門はすぐに見つかった。人だかりと武器の音が聞こえてきたからな。
門はすでにぶち破られ、魔族とおぼしき連中が壁の内側へと侵入している。
見れば、魔族と警備兵が交戦する中で、一際大きい魔族が冒険者らしき槍使いと対峙していた。
槍使いは相当の使い手のようだ。ユナが言っていた、Bクラスの冒険者かもしれない。
「うおおおぉぉぉっ!」
槍使いが、気合の声と共に魔族に突撃していく。巨大な剣を手にした筋肉隆々のその魔族は、その図体に見合わぬ巧みな剣さばきで槍使いの猛烈な突きの連撃を受け流していく。
「おらああぁっ!」
「ぐはぁ!」
一瞬の隙を突き、間合いを詰めた魔族が槍使いに剣を叩きこんだ。かわしきれずに、槍使いの鎧が裂けて脇腹から血が飛び散る。
とどめとばかりに魔族が剣を振りかぶった。ここが絶好のタイミングだな。
「死ねぇ!」
魔族が大剣を振り下ろす。その瞬間、俺は転移魔法を発動させた。
魔族の剣に、死を覚悟したのか槍使いが目をつむる。
だが、振り下ろされた剣は転移した俺が振るう剣の前に、その行く手を阻まれる。
がきぃぃぃんと大きな金属音を立てて、魔族の大剣と俺の剣とが激突した。
次の瞬間、俺は槍使いを抱えて人だかりへと転移する。
魔族は突然目の前から消えた俺たちに驚いているようだ。ふん、まだまだ青いな。
そばにいた冒険者に槍使いを任せると、俺は魔族の方へと歩き出した。
「小僧、貴様何者だ?」
魔族が俺に問う。
「これから死ぬ奴に名乗る名はないな」
「小賢しい口を!」
魔族が吠えた。こけにされたとでも思っているのだろう。
この魔族、かなり強いようだな。この場にいる連中じゃ歯が立たないだろう。
まあ、転移魔法のチートを持つこの俺の敵ではないがな。いい具合に人も集まっている。俺のデビュー戦にふさわしく、せいぜい華々しく散ってくれよ。
間合いを取ると、俺はことさら挑発的な口調で言う。
「初めから全力で来い。もっとも、次の瞬間にはお前は痛みを感じる間もなく絶命しているがな」
「何をほざく。貴様ごときこわっぱ、肉片の一かけらも残さず――」
魔族がセリフを言い終えることはなかった。
次の瞬間、俺は魔族の懐に出現していた。魔族が俺を認識する間もなく、俺の剣が一閃する。
何の抵抗もできないままに、魔族の首が飛んだ。おそらく何が起こったのかさえわからないまま絶命しただろう。
「――秘剣・滅身斬」
奥義の名をつぶやき、剣についた血を振り払う。
一拍置いて、周りの冒険者たちの間からもの凄い歓声が沸き起こった。
あいつはいったい何者だ、などという声も聞こえてくる。知らなくて当然だ。なにせ俺はまだギルドに登録したばかりだからな。
どうやら俺の奥義の秘密には誰も気づいていないようだ。俺にとっては好都合である。もちろんさっきの奥義は、単に転移魔法で敵の懐に転移しただけなのだが。
この世界では冒険者になる転移魔法士はほとんどいない。まして剣を使える者などなおさらだ。ゆえに冒険者たちも、まさか戦闘で転移魔法を使っているなどとは夢にも思っていないのだ。
もちろん、あの奥義は転移魔法が使えるからといってすぐにまねできるようなものではない。
まず第一に、瞬時に転移魔法を発動すること自体が極めて高度な技術なのだ。普通は転移魔法が発動するまでに十数秒から一、二分程度、長いと数十分かかることもざららしいからな。
そもそもがタクシーや電車程度のノリで使われているのだから、発動までに多少時間がかかる程度は特に問題もないのだろう。客もそういうものだと割り切って転移を頼むらしい。
対して、俺の転移魔法はタイムラグがほぼ存在しない。使おうと思えば、即座に発動できる。「転移魔法は時間がかかる」という固定観念に囚われているこの世界の人間には、おそらく見破ることはできないであろう。
「あんた、今の剣は何だったんだい?」
周りがざわめく中、俺に声をかけてくる者がいた。俺もそちらへと振り返る。
そこに立っていたのは、先ほどギルドで見た女剣士、ジャネットだった。