49 今後の方針
控室で茶を飲んでいると、シモンがやってきた。そう言えば、団長たちが話があると言っていたな。
いつものように、シモンに団長室まで案内される。
だが、今日はなぜかシモンは中に入らず、俺たちだけが中へと通される。
団長室では、オスカー団長とサラが待っていた。俺たちも席に着く。
「こんにちは、リョータ君。先ほどは立派だったね」
「そいつはどうも」
オスカーの言葉に、俺は適当にあいづちをうつ。
「今日の用件は何だ?」
「ああ、今日はいろいろと話があってね」
そう言って、オスカーは俺たちに茶を勧める。
「まずはこの前の砦の攻略、ご協力感謝する。皆さんにはあらためて礼を言わせてもらおう」
そう言うと、オスカーとサラが俺たちに向かい頭を下げる。
「それなら砦でさんざんサラにしてもらった。それで十分さ」
「何かこう、むずがゆいねえ。働いたのはリョータで、あたしは何にもしてないってのにさ」
「そんなことはない。ジャネットはあの後砦の敵をどんどん始末していただろう。おかげで私の仕事も楽になった」
「へへっ、姫騎士様にそんなありがたいお言葉をいただけるとはね」
微笑するサラに、ジャネットが照れたように笑う。
「褒賞についてだが、ギルドを通じて金貨三百枚をお渡ししたいと思う。他には何かほしいものなどないかね? 可能な範囲で対応させてもらうが」
ずいぶんと太っ腹だな。それだけあの砦を落としたことと魔界四魔将とやらを屠ったことが大きいのだろう。
どれ、それでは俺もお言葉に甘えることにするか。
「では、この国の武具の目録をもらえないか? 写しでいい」
「目録?」
意外な申し出だったのだろう。オスカーとサラが不思議そうに首をかしげる。
「そうだ。珍しい武器などがあれば知っておきたい。とりあえずはこの城なり王都なりのものでいい」
「ふむ、そんなことでよければすぐに準備させるが……いったい何のために?」
「何、ただの道楽だ。別に盗んだりしようというわけではないから安心しろ」
「ははっ、まさか。お前がそんなケチなコソ泥だとは思っていないさ。むしろその中にほしいものがあるのなら、正式に恩賞として授けてもいいくらいだ」
そう言いながらサラが笑う。オスカーも写しができたらギルドの方に回すと言ってくれた。
もちろんただの道楽で目録がほしいなどと言っているわけではないのだが、それはまたいつかの機会にでも披露すればいいだろう。
「では、次の話に移ろうか」
オスカーが俺の顔を見る。
「今回、君たちの協力もあってガンダ砦を落とすことができた。これによって魔族の脅威は一時的にやわらいだと言っていいだろう。そこで、我々は魔族への反抗の準備を整えると同時に、この機に国内の脅威を排除したいと考えている」
「なるほど。それで俺たちにも協力してほしいというわけだな」
「察しがいいな、リョータ君。その通りだ。すでに国内の上位の冒険者たちにもギルドを通じて声をかける手はずになっているが、君たちにはその中でも特に大物を担当してもらいたいのだよ。何せ君たちの実力は折り紙つきだからね」
魔族を追い払ったと思えば、今度は身内か。よくある展開だが、人間側はいろいろと大変だな。
まあ、冒険者にしてみれば仕事が途絶えなくてありがたい話かもしれないがな。
仕事という意味では、魔族を完全に駆逐してしまうのは自分の首を絞めることにもなりかねないな。いや、その場合は人間同士で勝手に争ってくれるから問題ないのか。
そんなことを考えていると、オスカーが口を開く。
「そういうわけなのだが、どうかね、リョータ君。協力してもらえるだろうか」
「案件次第ではあるが、基本的には構わん。お前らの仕事は金回りもいいしな」
「おお、そうか。それはありがたい」
安堵したオスカーが笑う。
「ジャネットは異論ないか?」
「ああ、もちろんさ。リョータのためなら、何だって手伝うよ」
媚を含んだその言葉と仕草に、サラがわずかに眉をしかめる。この場にふさわしくない言動だということだろうか。あいかわらずお堅い女だ。
話がまとまったところで、オスカーが少し声を落として言う。
「君たちの仕事にも関連することなのだが、先に君たちに伝えておきたいことがあるのだ」
そう言って、オスカーは一度サラを見ると、視線を再び俺たちへと戻した。
「実は、サラ殿下が騎士団の副団長を辞任することになった」
その言葉に、俺とジャネットは驚いてサラの方へと視線を動かした。カナもつられたように視線をサラへと移す。
サラの表情は、実に穏やかなものだった。