48 叙任式
今日は式典・祝勝会ということで、俺はカナ、ジャネットと共に城へと来ていた。
控室に入ると、俺はシモンから説明を受ける。
どうやら俺には「名誉騎士」の称号が与えられることになったらしい。まさか俺に爵位が与えられるとはな。
まあ、現時点でも事実上の貴族みたいな暮らしぶりではあるのだが。実に名がともなってちょうどいいだろう。
名誉騎士になるということで、今回は前のような表彰式ではなく、国王による叙任式になるそうだ。
騎士の身分を証明する剣ももらえるという話だが、大して価値はないな。切れ味なら神様の剣の方がはるかに上だろうし、権威で言えば例のどら息子の剣が効果てきめんだったからな。
褒賞も前回よりさらに増え、金貨三百枚という大盤振る舞いだ。現時点ですでに手元に三百枚ほどの金貨があるというのに、これ以上増えても使い道に困るな。
まあ、保管は適当な場所に転移すればいいので特に気にする必要もないのだが。
例の商売を拡大しようかとも思っていたのだが、それは後回しにした方が良さそうだ。今回の勝利によって、人間側もかなり強気に動くようになるだろう。そうなれば俺の活躍の場も広がるかもしれないからな。
しかし叙任式の後は祝勝会もあるというのに、あいかわらず色気というものがないな、俺の周りの女たちは。
まあ、カナは白いワンピースがかわいいからいいとして、ジャネットは少しは女を意識してもいいのではないだろうか。せっかく素材はいいわけだからな。
そんなことを思っていると、ジャネットが俺の視線に気づいた。
「何だい、あたしに見とれてるのかい?」
「ああ、お前のスカートもぜひ見てみたいと思っていたところだ」
「あんたもあの女みたいなこと言うんだねえ。男ってのはそんなにスカートが好きなのかい?」
「少なくとも、女らしいとは思うな」
「女らしい、ねえ……」
不満げにジャネットがつぶやく。「あの女」とはレーナのことだろうか。
そんなジャネットから視線をはずし、俺はカナに声をかける。
「カナはそういう服は好きか?」
「カナ、この服、好き」
生地を指先でつまみながらカナが言う。
「夜はいろんな食べものも出るだろうからな。楽しみにしていろ」
「前より、凄い?」
「ああ、砦の奴か。もちろんだ。カナがまだ食べたことのないものも出るだろうな」
「夜、楽しみ」
「そうだな、俺も楽しみだ」
そう言いながらカナの頭をなでていると、部屋に入ってきた女中が叙任式の準備が整ったと伝えてきた。
その女中たちに連れられて、俺は式の会場へと向かった。
叙任式は玉座の間で行われた。広い部屋に、大きな赤いカーペットが敷かれている。
その向こうの玉座には、五十付近であろう痩せぎすの中年が腰をかけている。あれが国王なのだろう。ということは、この男がサラの父親か。
女中にうながされて前方へと出る。
そこでひざまずいていると、横で文官がいろいろとしゃべり始めた。
しばらくして文官がしゃべり終えると、国王が玉座から立ち上がり俺の方へとやってくる。
脇の騎士から一振りの剣を受け取ると、国王は誓いの言葉のようなものを述べてその剣で俺の肩を叩く。
「我、ここに汝を名誉騎士に任じる」
そう言って、国王は俺に剣を手渡してきた。俺はひざまずいたまま、うやうやしくそれを受け取る。
その後国王が玉座に戻ると、司祭らしき人物が祝福の言葉などをしゃべり始める。儀礼的なやり取りが一通り終わると、俺は後ろに下がり叙任式は終了した。
控室に戻ると、ジャネットが声をかけてきた。
「リョータ、よかったね。かっこよかったよ」
「そうか」
「でもホント凄いね、あんた。ちょいとその剣見せておくれよ」
「ああ」
先ほど国王からもらった剣をジャネットに手渡す。
彼女はもの珍しそうにその鞘の装飾を見つめると、俺に剣を返した。
「ありがとさん。あたしもそういうの一本もらいたいもんだよ」
「これから活躍の機会も増えることだし、そのうちジャネットももらえるかもしれないさ」
「じゃああたしもお貴族サマの仲間入りかい? そいつは痛快だねえ」
そう言ってにやりと笑う。
確かにそれはおもしろいかもしれない。貴族と言っても、ジャネットの場合はお姫様ではなく騎士の方なのだからな。
「だが、そう考えるとカナは貴族の庇護を受けていることになるのか」
「大したモンだよ、ついこないだまで奴隷だったのが、今じゃ名誉騎士様が保護者なんだからね。よかったね、カナ」
「うん。カナ、リョータ、友だち、よかった」
「そうか、カナにとってはリョータは保護者じゃなくて友だちなんだね」
「まあ、初めて出会った時に俺がそんなことを言ったからな」
「ねえリョータ、あたしともそろそろ友だちから一歩踏みこんだ関係に進んでおくれよ」
「考えておくさ」
その後しばらくの間、ジャネットと二人でそんな他愛もない話を楽しんだ。