45 思い出の酒場
宴が終わると、俺たちは砦で一夜を明かした。
翌日の朝俺たちが帰ろうとすると、サラに呼び止められた。
「お前たち、もう帰るのか?」
「ああ、役目は果たしたからな。これ以上ここにいてもしょうがないだろう」
「それもそうだな。馬はいいのか? よければ貸すぞ」
「結構だ。俺たちは転移魔法で飛ぶからな」
「転移魔法?」
「少々心得があるんだ」
「そうか、お前はいろいろできるんだな」
感心した風にサラが言う。
まあ、転移魔法が使えること自体は隠す必要もないだろう。というか、もう結構な数の人間に知られているしな。
カナとジャネットも俺のそばへとやってくる。
「では、そろそろ帰らせてもらう」
「ああ、また王都でな。おそらくは祝勝会で会うことになるだろう」
「じゃあ、その時に」
そう言い残して、俺はその場から転移した。
一気に王都まで転移しようかとも思ったが、気が向いたのでマースの町の酒場へと転移する。
ジャネットといっしょに酒場へ入ると、周りの客たちが声をかけてくる。
「おお、ジャネットじゃないか。またこの町に戻ってきたのか?」
「久しぶりにここで飲もうと思ってね」
「そっちのはいつぞやかの兄ちゃんじゃないか。まさかお前ら、本当にデキてたのか」
「まあ、そんなところだ」
常連どもを適当にあしらいながら、俺たちはカウンターの前のテーブルに座る。
「そう言えば、カナはこの町に来るのは初めてだったな」
俺の言葉に、カナはこくりとうなずく。
「ここは俺が初めて世話になった町だ。ジャネットと出会ったのもこの町だ」
「あの時も、あんたが一人で魔族を倒しちまったんだよねえ。あいにくあたしはその現場にいなかったけどさ」
「その後酒場で飲まされたあげく、広場で腕試しをさせられるんだからな。まったく、怖いお姉さんだ」
「よく言うよ、あれだけいろいろな技を隠しておいてさ。あんたなんか、あたしの推薦がなくたってすぐにSクラス、いやSSクラスにまでのぼりつめていただろうさ」
そう言ってジャネットが杯をあおる。
そんな彼女に、俺は聞いてみた。
「ところでジャネット、そのSクラスとやらは、この世界にどのくらいいるものなんだ?」
「Sクラスかい? あたしもよく知らないけど、そう多くはないだろうね。せいぜい三、四十人ってところじゃないかい? そのうち半分くらいは国のお抱えだろうけどね」
「逆に言えば、国に仕えているのは二十人もいないということか」
「そうなるね。半分はあたしみたいな冒険者さ。もっとも以前のあたしみたいに、どこかの町を拠点にしてたり貴族様に雇われてたりって奴もいるだろうけどね」
なるほどな。やはりかなり貴重な存在のようだ。
「たとえばこの国には、どんな奴がSクラスとして仕えているんだ?」
「そうさね、さっきのサラ王女やオスカー騎士団長、あと魔法使いと槍使いが国に仕えてるSクラスだね」
「それは多い方なのか?」
「多いはずさ。四王国でも、ライゼンに五人いる以外はマクストンもモンドも二人ずつだからね。まあ、公表していない奴もいるのかもしれないけどさ。それに、その国に長く住みついているような冒険者は自然とその国に肩入れするだろうしね」
それはそうだろうな。俺も多分どこかに属しなければならないとなったら、とりあえずこの国に属すだろうしな。
そんなことを考えていると、ジャネットが媚を売るような目で見つめてくる。
「あたしはね、あんたがホントにSSクラスになるんじゃないかと期待してるんだよ。あたしもさっさとSクラスに上がるからさ、あんたもガンガン魔族どもをぶっ飛ばしてよ」
「せいぜいがんばるさ」
そう笑って、俺はカナの方を向く。
「カナは何クラスなんだろうな」
「最初はFクラスだろうさ、さすがに。まあでも、子供の成長は早いからねえ」
「カナ、リョータ、役、立つ」
「ああ、期待しているぞ。まずは学校に行かないとな」
「カナ、学校、がんばる」
そう言うカナの頭をなでる。無理をさせる気はないが、親ばかなのか、つい期待をしてしまう。
食事を終えると、俺たちは王都の我が家へと転移した。