41 魔界四魔将
叫び声の方に転移すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
胴体が真っ二つに切り裂かれた男、頭から叩き潰された騎士。
騎士たちの屍が散乱する中で、サラとその部下であろう騎士数名が剣を構えている。
その視線の先には、2メートルを超えようかという巨大な魔族が立ちはだかっている。明らかに他の魔物とは迫力が違う。上級魔族か。
特徴的なのが、丸太のように太いその四本の腕だ。隆々たるその腕のそれぞれには、巨大な大剣や大斧が握られている。その刃には、人間のものであろう血と肉片がこびりついている。
そんな魔族を睨みつけながら、サラは大声で叫んだ。
「お前たちは後退しろ! ここは私が食い止める! 本隊と合流してこいつの存在を報告するんだ!」
そう言うと、絶叫と共に魔族に向かって突撃していく。
「おおおおっ! 秘技・千剣乱舞!」
凄まじい闘気を放ちながら、魔族へと迫ったサラが猛然と剣を振るう。
ほう、さすがSクラスなだけのことはあるな。申し分ない剣速だ。ジャネットをも上回る高速の剣舞が魔族を襲う。
だが、それ以上に魔族はその巨体からは想像できないほどの剣さばきでサラの剣をことごとく弾き返していく。何て奴だ。あの剣撃を全て防ぐか。
剣速が衰えたところを、魔族が大斧を振るってその身体ごと吹き飛ばす。後ろへと弾かれたサラは、信じられないといった顔で魔族の顔を見上げた。
「まさか、この私の千剣乱舞が通じないとは……」
驚愕の表情を浮かべるサラに、魔族が禍々しい笑みを見せる。
「ふはははは! 人間ごときが図に乗るでないわ! 魔界大公が死んだ程度で調子に乗りおって! あんな雑魚を倒したところで、魔界四魔将が一人たる我が出てきたからには貴様らの命運などとうに尽きているわ!」
ほう、魔界四魔将か。相当な大物のようだな。もっとも、四天王ポジなど典型的なかませキャラでしかないが。
どれ、そろそろ俺が出るとするか。
高らかに笑いながらサラに向かう魔族。サラはショックのためか、その場から動けずにただ呆然とその姿を見上げている。
そのサラの姿が、魔族の前から突如として消えた。振り下ろした大剣が地を削り、土と石がまき散らされる。
「お前の相手は俺だ」
俺の声に、魔族がこちらを振り返る。俺の隣には転移したサラが、状況を理解できないといった様子で地面にへたりこんでいる。
「ジャネット、サラとカナを頼む」
「頼むって、あんた一人であいつに挑むつもりかい!?」
「まあな」
「ちょっと、待ちなよ!」
ジャネットの制止には耳を貸さず、俺は前へと出る。
歩み出る俺に向かい、魔族がうさんくさげな目で聞いてくる。
「貴様、何のつもりだ?」
「見てわからんか? お前の相手をしてやると言っているのだ」
俺の言葉に、魔族がこめかみのあたりをひくつかせる。
「我の聞き間違いか? 今、我の相手をするとか聞こえた気がするが?」
「聞き間違いではないさ。お前の相手など、俺一人で十分だからな」
「よくぞほざいた、小僧!」
俺の挑発に、魔族が怒りの咆哮を上げる。ふん、煽り耐性のない奴だ。
そうこうしている間に、サラも立ち直ったようだ。後ろから怒鳴りつけてくる。
「き、貴様! これはいったいどうなっている! それにその化け物、貴様一人でどうにかなる相手ではないぞ! 貴様も早く逃げろ!」
「それだけ元気があるのなら大丈夫そうだな」
振り返ると俺はサラに笑みを向ける。なおも何かを言おうとするサラを無視し、俺は魔族に目を向けた。
「その度胸だけは認めてやろう。今すぐにこの剣の錆にしてくれるわ」
「錆になるのはお前の方だがな」
その言葉に、魔族の怒りが頂点に達したようだ。
「よくぞ吠えた、人間!」
怒りも露わに、魔族が俺に向かい突進してくる。この巨体にもかかわらず、とんでもない速さだ。俺の剣の腕では、まともにやりあったのでは勝負にもならないだろう。
まともにやりあったのなら、な。
俺の目前にまで迫った魔族は、四つの腕の得物を俺に向かい振り下ろしてくる。もの凄いスピードだ。こんなものを食らえば、俺の身体などひとたまりもなくミンチと化すであろう。
魔族の攻撃が地面を割る。もちろんそこに俺の姿はない。
俺の姿を探す魔族。と、その時大気を切り裂く音が戦場に響いた。
「ぐおおぉぉぉぉぉっ!?」
絶叫を上げながら魔族がひざをつく。その魔族の左腕の一本が、ひじのあたりから吹き飛んでいた。
宙を舞っていた腕がどさりと落ちる。その向こう側の地面には、一本の剣が突き刺さっている。
魔族の後ろからその背中を冷ややかに見つめながら、俺は薄く笑った。