4 ギルド
情報収集を終え、ギルドへと戻る。
この町は俺が転移した中では大きい方なんだが、それでもそんなに大きい町ではない。
日本で言えば、だいたい人口一万人に届くかどうかくらいの町の、中心街だけを切り取ったくらいの感じだろうか。
その周りを、高い壁がぐるりと取り囲んでいる。いわゆる城壁都市という奴だ。
中心部には広場があって、大通りが一本通っている。
広場にはギルドや教会、役所などが集まり、大通りには武器屋や道具屋などが軒を連ねている。
さっき日本の田舎町に例えたが、違いがあるとすれば人出の多さだろうか。
田舎のシャッター街と異なり、ここの大通りにはそれなりの人がいる。店にも活気があり、八百屋などにはちょっとした人だかりもできていた。
そんな大通りを行きながら、俺は冒険者ギルドへと向かう。
あらためて見ると、ギルドの門構えは教会や役所と比べても遜色がなかった。
むしろ、役所よりも立派かもしれない。この世界の冒険者ギルドはそれだけの力を持っているということだろう。
大きな扉を通り、先ほどの窓口の娘のところへと向かう。
受付の娘のところには、特に誰も並んでいなかった。俺が声をかける。
「おい」
「あ、さっきの方ですね。冒険者の登録ですか?」
「ああ。書類をくれ」
「はい、どうぞ」
用紙を受け取ると、名前と年齢、そして職業を書きこんでいく。
「あ、やっぱり剣士なんですね。昇級試験も受けますか?」
「昇級試験?」
「はい。登録したばかりだとFクラスからで、受けられる仕事も限られますから。元々腕におぼえのある人は昇級試験を受けるのが普通ですよ」
ほう、そうなのか。ならば俺も受けておくべきだろうな。
「今申しこみできるか?」
「はい、できますよ」
「ならAクラスで頼む」
「いえいえ、急にAクラスはムリですよ」
受付の娘が苦笑する。む、なぜだ。
「試験はEクラスから順に受けてもらわないと。それに、Aクラスの試験は王都のような大きな町じゃないとやってませんから」
そうなのか。それは面倒だな。ちまちまと試験を受けるのは俺の性に合わんしな。どうしたものか。
「まずはEクラスの試験に申しこんでおきますね。大丈夫、そんなに難しい試験じゃないですから」
そう言って受付の娘が書類に何やら書きこんでいく。どうやら俺が何も知らないと思って気をきかせているつもりのようだ。
自分が常識知らずのように扱われるのは心外だが、クラスは上げておいた方がいいだろう。特にとめもせず受付嬢に任せる。
ついでに、その娘に話を聞いてみることにした。
「お前、名前は何て言うんだ?」
「私の名前はユナです。覚えておいてくださいね」
笑顔でユナが答える。
「このギルドで強い奴というと、誰がいるんだ?」
「そうですね、うちにはAクラスが一人とBクラスが三人いますよ。中でもAクラスのジャネットさんは『疾風の女剣士』なんて異名を持つほどの剣士なんです。あ、噂をすればほら」
そう言って、ユナが入り口の方を指差す。
そこには、少し不良っぽい見た目の茶髪の女の姿があった。
ぼろぼろのジーンズに白いTシャツ、黒いジャンバーのようなものを着た短髪の女だ。腰には剣を差している。
なるほど。確かに強いな、あいつは。
どうやら俺は相手の力もある程度把握できるようだ。これも『武神の加護』とやらのおかげなのだろうか。
「あいつはどんな奴とパーティーを組んでるんだ?」
「あの方はソロで冒険してますから。今メキメキと力をつけていて、近々Sクラスの昇級試験を受けるそうです」
ほう、ならばもしかすると剣の腕は俺より上かもな。まあ、俺の専門は転移魔法なわけだが。
「そう言えば、一つ聞いておきたいんだが」
「はい、何でしょう」
「もし誰かとパーティーを組む時には、ギルドの手続きが必要なのか?」
「はい。簡単な書類に記入してもらえば大丈夫ですよ」
「そうか」
いつかはあのジャネットのような腕利きと組む必要が出てくるかもしれないからな。手続きが簡単なのはいいことだ。日本の役所のように、窓口をたらい回しにされるのではたまったものではない。
まあ、俺は役所に行ったことなどないんだがな。
「それじゃ、さっそく試験とやらを受けたいんだが……」
「ごめんなさい、次の試験は三日後なんです。すぐにというわけにはいきません」
「何だ、しょうがないな。ならばクエストでいい。何かあるのか?」
「はい、それでしたら今お出ししますね」
そう言って、ユナが机からボードを取り出す。その板に、いろいろなクエストのはり紙がはってあった。
「今すぐに受注可能なのはこのあたりですね。どれにしましょうか?」
「ふむ、それでは……」
俺はクエストにざっと目を通す。ううむ、しょせんFクラス向け、しょぼそうなクエストしかないな。
俺が神様からもらったサイフには金貨が十枚に銀貨が二十枚くらい入ってるんだが、ここのクエストにはそもそも金貨がもらえるようなクエストがない。銅貨何枚などというクエストばっかりだ。
「金貨一枚というのは銀貨何枚分の価値なんだ?」
「金貨一枚は上銀貨十枚ですね。上銀貨一枚が銀貨十枚、銀貨一枚は銅貨十枚で、銅貨一枚が鉄貨十枚ですね」
ふむ、なるほど。そう言えば俺のサイフの中の銀貨も二種類あったな。
しかたない、こんなクエストでも雰囲気をつかむくらいの役には立つだろう。
そう思ってユナに話しかけようとしたその時、一人の男が血相を変えてギルドに転がりこんできた。
「大変だ! ま、魔族が攻めこんできた!」
それは、この町の有事を告げる声だった。