36 衣装選び
レーナにすすめられ、俺たちは王都の洋服店にやってきた。
どうでもいいが、「洋服」という言い方は適切なのだろうか。まあ、海が違っているのには違いないのだから問題ないだろう。
「衣料品店」では硬苦しいし、「アパレル」ではあまりにイメージからかけ離れるしな。
俺たちが来た洋服店は、王都でも大人の女性に人気の店なのだそうだ。カジュアルからフォーマルまで、幅広く取り扱っているらしい。
というより、そもそもカジュアルだけ、あるいはフォーマルだけ扱うといった店はほとんどないそうだ。王室御用達クラスの店ならフォーマルだけという店もあるらしいが。
「へぇ~、やっぱり王都には凄い店があるんだねえ」
店内をもの珍しそうに見回しながら、ジャネットが感嘆の声を漏らす。おいおい、あんまりきょろきょろとするんじゃないぞ。俺が恥ずかしいからな。
「リョータ、服、いっぱい」
「ああ、そうだな」
カナも珍しそうにあたりを見回す。彼女をこういうところに連れてきたことはないからな。よっぽど珍しいのだろう。
「じゃあ、まずはカナちゃんの服から選びましょうか」
そう言って、レーナが子供服売り場の方へと向かう。「子供服売り場」などというものも、普通はないそうだ。それだけこの店の規模が大きいということなのだろう。
売り場に着くと、レーナがカナに聞く。
「カナちゃん、こんなのが着てみたいとか、何かあったりするかな?」
問われたカナはしかし、不思議そうな顔でレーナと服を見返す。これはどうやらよくわかっていないようだな。
と、近くにあった帽子を見てレーナが声を上げた。
「あ! これ、かわいい!」
そのかぼちゃのような帽子を手に取ると、レーナが腰をかがめてカナに言った。
「カナちゃん、これかぶってみて? 絶対似合うと思うよ!」
そう言って、カナの頭にその帽子をかぶせる。
ほう、これは確かに似合うな。パッと見た感じでは、マンガやアニメの少年名探偵っぽい。これはアリだな。
カナも俺たちに聞いてくる。
「カナ、これ、似合う?」
「ああ、よく似合ってるぞ、カナ」
「いいじゃないか。かわいいよ」
俺とジャネットの反応に、カナが少し嬉しそうな顔をする。そうか、カナも気に入ったか。
「よし、この帽子を買おう。それとレーナ、明日着ていく衣装と別に、普段着の方も見つくろってくれないか? 今の服装ベースでいい。これからは学校に行くことだしな」
「わかりました。それじゃ、今選びますね」
そう言って、レーナが手際よくカナの服を選んでいく。こういうのはやはり女にはかなわないか。
もっとも、他の二人よりは俺の方がマシなものを選べそうだがな。
「では、こんな感じでどうでしょうか」
一通り選び終えると、レーナはそれをカナに手渡して試着するようにすすめる。
一つうなずくと、カナはそれを手に持って試着室へと入った。まあ、カーテンで仕切ってあるだけだがな。
少し待っていると、着替えを終えたカナが試着室から出てきた。
「ほう……」
「いいじゃない」
白いシャツにチェックのチョッキ、下は茶色のズボン。そして頭には先ほどのかぼちゃ帽子をかぶっている。さっきにも増して探偵っぽくなったぞ。
「カナ、着心地はどうだ?」
「きごこち?」
「ええと、そうだな。その服、気に入ったか?」
「服、好き。これ、いい」
「よし、それじゃこれにしよう」
そう言って、帽子越しにカナの頭をなでる。カナも嬉しそうだ。
「レーナ、明日の服も頼めるか」
「はい、もちろんです」
うなずくと、すぐにレーナが「これかわいい!」と衣装を一つ選んで戻ってくる。
それを手渡すと、再びカナに着替えに行ってもらう。
しばらくして、カーテンからカナが出てくる。
「おお……」
「カナ、そういうのも似合うじゃないのさ」
俺とジャネットが、少し驚きの声を上げる。
カナは、シンプルな白いワンピース姿になっていた。少し浅黒い肌とワンピースの白とが、程よい調和を生み出している。なるほど、こういう服も似合うのか。
服を選んだレーナも、嬉しそうに絶賛する。
「カナちゃん、よく似合う! とってもかわいい!」
俺たちの声に少しとまどうように、カナが俺に聞いてくる。
「リョータ、カナ、かわいい?」
「ああ、かわいいぞカナ。いい家のお嬢様みたいだ」
「カナ、お嬢様?」
「ああ、そうだ」
まあ、俺には金があるし、あながち間違いとも言えないだろう。
俺は服を選んでくれたレーナに感謝する。
「ありがとう、レーナ。おかげで助かった」
「い、いえ、お礼なんてそんな。リョータさんのお役に立ててよかったです」
「次は俺の服も頼む」
「はい、お任せください」
笑顔でそう言うと、レーナは男もののエリアへと歩いていく。後ろについていくと、言われるままに服を選んだ。レーナのセンスだから、きっと大丈夫だろう。
ちなみに、ジャネットもレーナに服を選んでもらったのだが、やれ動きにくいだの、派手すぎるだのと、ジャネットが文句をつけるたびに口論になり、俺たちのようにすんなりとは決まらなかった。
まあ、ケンカするほど仲がいいとも言うしな。何はともあれ、無事に服が決まって俺はほっと一安心した。