34 レーナの勘違い
シモンに話をしてから数日後、俺のところに知らせがあった。
今度城で俺に勲章が授与されるので、ついては城に来てほしいとのことだった。
面倒だな、俺はものがもらえればそれでいいのだが。まあ、断るわけにもいくまい。
カナやジャネットを連れて行ってもいいか聞くと、パーティーの人間なら二、三人くらい構わないとのことだったので、二人に来るかどうか聞いてみる。
カナは当然ついてくると思っていたが、ジャネットが行くと言ったのは正直意外だった。
「お城に行くのかい? それじゃあたしも行くよ」
「お前も来るのか? 俺はてっきりこういうのは嫌いかと思っていたのだが」
「そんなわけあるかい。お城ってのは、女の子の憧れなんだよ。行けるなら行きたいに決まってるじゃないか」
「……ああ、そう言えばそうだったな」
「なんだい、今の間は?」
とまあ、そんな調子で二人とも行くことになった。
魔族討伐の報酬はすでにもらっているので、その金でカナとジャネットに城行きの服を買ってやることにする。もちろん、自分の服も買わなければな。
しかし、どんな服を着ていけばいいかまるでわからんな。聞いても無駄な気がしないでもないが、ジャネットにでも聞いてみるか。
「ジャネット、お前城行きの服はどこで買えばいいかわかるか?」
「あのね、あたしゃついこないだまでマースにいたんだよ。そんなことわかるわけないじゃないか」
「……そうだろうな」
この前王都でデートした時も、いかにもおのぼりさんといった感じで気になった店に手当たり次第入っていたからな。ダメだ、論外だ。
この手の話にくわしそうな人物……そうだ、うってつけの人物がいるじゃないか。
思いついたら即実行、と俺はギルドへ転移した。
転移した先では、目当ての人物が唐突な俺の出現に驚いていた。
「きゃっ、リョータさん!? も、もう、いきなり出てきたら驚くじゃないですか!」
頬を膨らませて、しかし同時にその頬を少し赤く染めながら、女が俺に注意してくる。
そう、俺はレーナを頼ることにしたのだ。今のところ、俺の周りで一番、そして唯一女らしい奴だからな。
レーナの抗議には取り合わず、俺はさっそく彼女の予定を聞く。
「レーナ、次の休みはいつだ?」
「え? 何ですかいきなり。あさってはお休みですけど……」
「そうか、ちょうどよかった。じゃああさって、俺の買いものにつき合ってくれ」
「え、え……?」
俺の誘いに驚いたのか、レーナの顔がみるみる赤くなる。
「そ、そんな急に言われても、私にも心の準備というものが……」
「ダメか? それなら仕方ないんだが」
「いえ、ダメだなんてそんな! 大丈夫です! 私、あさっては時間があります!」
「そうか、よかった。それではあさってはよろしく頼む」
「はい、こちらこそ……」
ん? なぜレーナが俺に頼むことがあるんだ? さっきから妙な態度だな。
「そ、それでリョータさん」
「どうした」
「あさってはいつ待ち合わせしましょうか」
「そうだな、午後からがいいだろう」
「わかりました。では、夕食はどうしましょう?」
「ああ、レーナが夜空いているなら、夕食もいっしょするか」
「よ、夜も……?」
俺の言葉に、レーナがもじもじと目を伏せる。何か気になることでもあるのだろうか。
それから、上目づかいでレーナが言う。
「わかりました……。私なら、そ、その、あさっては夜も大丈夫です……」
何をそんなに言いにくそうにしてるんだ? おかしな奴だな。
「ならよかった。夕食は家族連れがわいわいやっているところがいいな。どこか知ってるか?」
「え? 家族連れ、ですか?」
「何を意外そうな顔をしている。大人数なんだから、そういうところの方がいいだろう」
「は、はい?」
要領を得ない顔のレーナだったが、何かに気づいたかのように聞いてきた。
「も、もしかして、二人で行くんじゃないんですか……?」
「当然だろう。カナとジャネットが城に着ていく服を買いに行くんだからな」
「は?」
「あいつらではどんな服を買えばいいかわからないだろう。だからレーナに見つくろってもらおうと思ってな。もちろん夕食くらいはおごるぞ?」
「リョ、リョータさん……」
レーナは握りしめた手をぷるぷると震わせ、それからたれ目ぎみの目を吊り上げて叫んだ。
「そういうことは、早く言ってください!」
あさっての午後、レーナは無事俺たちの買い物につき合ってくれることになった。