3 転移魔法士の実態
さて、今日から本格的な転生ライフの始まりだ。俺はさっそく冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ギルドの立派な扉をくぐり、中へと入る。フロアにずらりと並ぶ窓口のうち、俺の担当にふさわしい容姿の持ち主のいるところを選ぶ。
「冒険者の登録をしたいのだが」
「こんにちは。それではこの書類に記入をお願いします」
受け取った紙に、必要事項を記入していく。名前はリョータ、職業は転移魔法士、と。
それを見た受付の娘が、怪訝そうな顔で俺を見る。
「え、転移魔法士ですか?」
「ああ、そうだが」
「でも、剣を持ってますよね? 登録するなら剣士にした方が……」
……何だ、この反応は? 俺は少し話を聞いてみる。
「転移魔法士だと何か問題でもあるのか?」
「そういうわけではないですけど、冒険者となるとあまりおすすめは……」
何だろう、ギルドの受付がここまで言うからには、転移魔法士には何か問題でもあるのだろうか。チートだから大丈夫だと思っていたが、先に情報収集をした方がよさそうだな。
「そうか、じゃあ少し考えてくる」
「はい、その方がいいと思います」
ほっとしたような顔で受付の子が言う。この反応からしても、どうやら転移魔法士はあまり受けがよくないようだな。
さっさとギルドに登録して冒険を始めようと思っていた俺であったが、受付の反応の悪さに、まずは情報を集めることにした。
……町の連中に話を聞いた結果、いろいろな事実が判明した。
この世界では、転移魔法は今いる場所から行きたいところまで移動するためのタクシーみたいなものらしい。
普通は客をつかまえてタクシーのように町中の店まで運んだり、クエストのエリアまで冒険者を運ぶ案内人としてギルドに登録するそうだ。
また、もろもろの理由のため戦闘ではものの役に立たないので、転移魔法士を好き好んでパーティーに入れる奴はいないらしい。そのためか、転移魔法を使える奴が冒険者になることはめったにないのだそうだ。
転移魔法士が主に伸ばそうとするのは移動距離だが、普通は町から町の長距離移動なんてそうそうできるものではないという。
だから、都市間移動ができるほどの転移魔法士はそれだけでかなりの稼ぎになるそうだ。そうでなくとも、街中でタクシーに徹していれば下手な冒険者などよりよっぽど稼ぐことができる。それもあって、わざわざ冒険者に登録する転移魔法士というのは皆無に等しいという話だ。
また、先ほどの移動距離にも関係する話だが、転移魔法というのは魔力の消費量が大きく、本来そうそう連発できるものではないのだとか。その意味では、あれだけ転移魔法を連発できる俺はやはりチートらしい。
加えて、転移魔法は普通発動までにかなり時間がかかるらしい。早くて数十秒、長いと数分から数十分かかることもあるとか。これが転移魔法を戦闘に組みこむ際にネックになるようで、転移魔法士を仲間に入れようとするパーティーはまずないのだそうだ。
もう一つ、転移魔法で転移できる物体も、普通は漬物石くらいの重さが限度とのことだ。
人間を1キロメートル転移させるより余程楽そうに思えるのだが、話によれば同意の下に人間を移動する場合はそうでない場合に比べて負担が格段に小さくなるらしい。
移動距離もしょぼい、連発できない、発動は遅いわ物体はろくに動かせない。これが平均的な転移魔法士像だ。魔力の消費量が激しく、かつ能力も伸びにくいとあっては、誰もやりたがらないのもうなずける。
まとめると、転移魔法士というのは基本的に町の便利屋といった扱いで、まじめにその道を極めようとする者はめったにいないとのことだ。
……おいおい、何だか話が違うぞ。これではまるっきり地雷職ではないか。もっと違うチートはなかったのか。
いや、さすがにそれは言いすぎか。そもそも日本のゲームやファンタジーでも、転移魔法なんてのはそんな扱いだったからな。少なくとも、俺は転移魔法で無双する話など見たことがない。それを考えればまあ妥当ではあるか。
だが、収穫もあった。この世界では、まともに転移魔法を追求している人間はいない。いたとしてもせいぜい移動距離を伸ばして便利さを増そうとする程度だ。
難易度が高いわりに評価が低い魔法であるだけに、あまり先駆者がいない。そこをうまく突けば、この世界でも十分のし上がることはできるだろう。
さしあたっては、ギルドに登録する職業をどうしようか。
せっかく剣をもらったことだし、ここは無難に剣士ということにしておこうか。黙っていてもAクラス相当の強さだという話だしな。
まあ、今のところは別に誰とパーティーを組むつもりもないからどうでもいいのだが。もし誰かをパーティーに誘いたくなった時に、転移魔法士だからダメなんて言われると面倒だ。余計な隙はつくらないほうがいい。
それに、昨日編み出した必殺技もどちらかと言えば剣士のイメージが強い技だしな。あれを披露するのなら、転移魔法であることを隠した方がインパクトがあるだろう。
うむ、やはり剣士だな。
そうと決まれば、さっさとギルドで冒険者登録だ。
身をひるがえすと、俺はギルドへと足を向ける。町の人込みをかき分けながら、ふたたび先ほどの窓口の娘のところへ行くことにした。