28 新たな仲間
戦いを終え、俺とジャネットは町の酒場で飲んでいた。
もちろん、残りの敵は俺が転移してちゃっちゃと片づけてきた。頭を潰された隊など烏合の衆に過ぎん。
先ほど魔族を撃退した高揚感からか、酒場は祝杯を上げる冒険者たちであふれかえっている。
そんな中、俺とジャネットは二人しっぽりと酒を飲み交わしていた。
「まさか、あんたが駆けつけるなんて思ってなかったよ……」
ほろ酔い顔で、ジャネットが少し上目づかいに俺を見る。
「あんたがあそこまで強いとは思わなかったよ」
「大したことじゃないさ」
「ふん、あたしが手も足も出なかったっていうのに、イヤミなヤツだね」
そう言うジャネットの瞳はしかし、少し潤んでいるようにも見える。
まあ、それも無理はないか。絶体絶命のピンチに現れて圧倒的な力で救われたのだからな。俺を見る目が変わるのも、至極当然かもしれない。
今回の件がこたえたのか、いつにない弱気な調子でジャネットがつぶやく。
「あたしもまだまだだね……。もっと強くならないと、この町一つ守れないんだからさ……」
……まさかこの女がこんなセリフを吐くとはな。グラスを握る手にも力がこもっている。
「強くなりたいなら、王都にでも出てみたらどうだ? 今後は魔界侵攻でクエストも増えると言っていたぞ」
「ダメだよ。そんなことしたら、この町を守る者がいなくなっちまう」
そう言ってジャネットが首を横に振る。そう言えば以前そんなことを言っていたな。
だが、これはチャンスじゃないか? 俺は当分パーティーを組む気などなかったが、ジャネットは間もなくSクラスに昇格しようかという凄腕の剣士だ。彼女と組めるのであれば、俺としては何の不満もない。むしろ願ったりだ。
それにこの前の盗賊討伐で思ったことだが、一人で全部やるというのも結構な手間だ。少しは人の手がある方が、今後何かと便利だろう。
よし、そうしよう。決心すると、俺はジャネットに切り出した。
「ジャネット、俺と組まないか?」
「は?」
一瞬ぽかんと口を開けると、ジャネットから間抜けな声が漏れる。
それから、確認するように聞いてきた。
「それは、あたしとパーティーを組みたいってことかい?」
「ああ」
「あたしがソロで活動してるのを知ってて言ってるのかい?」
「そうだ」
うなずく俺に、顔を赤らめてジャネットが目をそらす。
それから、申し訳なさげに俺の顔を見た。
「誘ってくれるのは嬉しいんだけどさ……」
「何か問題でもあるのか?」
「ほら、さっきも言ったろ? この町から離れたら、町を守る人間がいなくなっちまうって……。あんた、この町に何かあったら戻ってきてくれるのかい?」
「ああ、そのことなら心配ない」
俺の言葉に、ジャネットが怪訝そうな顔をする。
「どういうことさ?」
「実は少々転移魔法の心得があってな」
「転移魔法?」
「ああ」
このくらいなら教えても構わんだろう。この世界の常識に照らせば、まさか転移魔法を技に応用しているとも思うまい。
ジャネットもそのことを特に不審には思わなかったようだ。
「なるほど、それであんなに早くこの町に来れたんだ」
「そういうことだ」
「前に町が襲われた時も、あんたが一番乗りだったもんね。あの時リョータもギルドにいただろ? あたしより早く着くなんておかしいと思ってたんだ。これで納得したよ」
そう言うと、ジャネットが少しうつむいて考えこむ。
しばらくして、彼女は顔を上げた。
「この町に何かあったら、すぐに駆けつけることができるんだね?」
「ああ。全く問題ない」
断言する俺に、ジャネットも決心したようだ。晴れやかな顔で言う。
「よし、決めた! あたし、あんたと組むことにするよ! その方が強くなれそうだし、あんたといっしょにいた方がこの町も確実に守れそうだしね」
そう言って、おもむろに立ち上がると彼女は俺に手を差し出してきた。
俺も立ち上がると、その意外に綺麗な手を握る。
「ありがとう。これからよろしくな」
「こちらこそ。よろしく頼むよ」
俺の手を握りながらニカッと笑う。意外とかわいらしいその笑顔に、俺は意外な発見をした気がした。
「それじゃ、あたしも王都に引っ越す準備しないといけないねぇ」
酒をあおりながらジャネットが言う。
「住む家も決めないといけないしね。しばらくは宿屋暮らしだよ」
「そうか」
ふと思いついたことがあったので、俺はジャネットに言ってみた。別に不自然ではないだろう。
「それなら、俺の家にでも住むか?」
「……は?」
口をぽかんと開けて、ジャネットが俺の顔を見る。
俺はもう一度繰り返した。
「俺の家に住まないか、と言っている」
「……」
そのままの顔で固まったジャネットは、今度こそ理解したのか大声で叫んだ。
「なっ、ななな、何言ってんだあんたはぁぁぁ――っ!?」
顔を真っ赤に染めたジャネットの絶叫が、冒険者たちで賑わう酒場の中にこだました。