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27 空飛ぶ魔族





 マースの広場に集まる冒険者たちを見下ろしながら、空に浮かぶ魔族は得意げに言った。


「脆い、脆いぞ人間! 眷属など率いずとも、我一人で十分だったようだな!」


 なるほど、奴が魔族の親玉か。察するに、部下を置いて自分一人でここに来たようだな。残りの連中は今こちらに向かっている途中か。


 広場の中央では、ジャネットが上空を苦々しげに見上げていた。その周囲の地面がぼろぼろになっている。上空から魔法攻撃でも受けているということか。


「お前は少しは粘るな、女。その調子で我を楽しませてみせよ!」


 そう言うと、魔族の手から幾本もの氷の矢が放たれる。


 ジャネットはその音速の剣技で矢を打ち落としていくが、さばききれなかった矢が彼女の身体をかすめてその健康的な肌に傷をつけていく。


 氷の矢の雨が降りやむと、そこには息を切らせて魔族を睨むジャネットの姿があった。疲労が蓄積しているのであろう、ぜえぜえと肩で息をしている。次は耐えられないかもしれないな。


「どうした女! それで終わりか!」


「……くそったれが……!」


 勝ち誇る魔族に、ジャネットが忌々しげに吐き捨てる。


 だが、はたから見ていても強がり以外の何ものでもないな。いかにジャネットと言えど、空から魔法で攻撃してくる敵が相手ではなすすべもあるまい。


 そう思っている間にも、魔族は次の魔法を繰り出そうとしていた。


「さて、もう少し楽しませてほしいのだがな。次で終わりかな?」


「そういうことは、ホントに終わってから言ってほしいモンだね」


「ははは、いいだろう。地獄の業火に焼かれるがいい!」


 魔族の手のひらに魔力が集まっていく。そろそろ頃合いだな。


 周囲の冒険者たちが固唾を飲んで見守る中、魔族の手から直径1メートル弱ほどの巨大な火球が放たれた。覚悟を決めたのか、ジャネットも目を閉じる。


 火球が炸裂し、爆音が鳴り響く。立ちこめる煙が晴れた時、しかしそこにジャネットの姿はなかった。





 彼女はあとかたもなく吹き飛んだのかと、冒険者たちが絶望的な表情を浮かべる。魔族もそう思ったのか、満足そうな笑みを浮かべている。


 そんな間抜けな魔族に、俺は親切にも声をかけてやった。


「どこを見ている。こっちだ」


 俺の声に、魔族と冒険者たちの視線が集中する。


 俺は火球が激突する直前、転移してジャネットを助け出したのだった。当のジャネットが、驚いたように俺の顔を見上げてくる。


「あ、あんた、いったいどうしてここに……?」


「話は後だ。お前はここで休んでろ」


 そう言って、俺は魔族の前に歩み出る。


 俺は悠然と構えながら魔族に言い放った。


「さて、魔族。お前の相手は俺がしてやろう」


 突然の俺の出現に驚いた魔族は、やや興味ありげな様子で俺に話しかけてくる。


「ほう、次の獲物はお前か、人間。せいぜい我を楽しませるのだぞ」


「安心しろ。楽しむ間もなくお前は死ぬ」


 そんな俺の背中に、ジャネットが叫ぶ。


「ま、待てリョータ! 相手は空を飛んでるんだよ!? あんた魔法なんか使えないだろう! そいつはAクラスの魔法士か弓兵でもなきゃ無理だ! ホントに死んじまうよ!」


 必死に叫ぶジャネットに、俺は軽くうなずく。


「安心しろ。この程度の魔族、さっさと片づけるさ」


「ほう、随分と威勢がいいな、人間」


 魔族が邪悪な笑みを浮かべる。そんな魔族に、俺は告げてやった。


「忠告してやる。次に魔法を放った時が、お前の最期だ」


「……大口を叩くのも大概にしろ、小僧」


 怒りに顔を歪ませて、魔族がその手に魔力を集め始める。せっかく忠告してやったというのに、煽り耐性のない奴だ。


 まあいい。それを放った時が、お前の最期だ。


 魔族の前には、先ほどより一回り大きい火球ができあがっている。本気の一撃のようだな。きっと俺を骨も残さず消し飛ばすつもりなのだろう。


「死ね、人間!」


 怒声と共に、魔族が火球を放つ。ふん、俺をただの剣士だと思ったのがお前の運のつきだ。


 先ほどを上回る轟音と熱風が広場を駆け巡る。魔族はその様子に満足げだ。


 ふっ、滑稽にもほどがある。もうお前の視線の先からは、とうにターゲットは消えているというのにな。


 そう、俺は火球が直撃する瞬間に転移していた。それも、魔族の頭上、その真正面に。


 下を見ながら今まさに笑い出そうとしている魔族。俺はここにいるというのに、まだ気づいていないのか。あまり俺を笑わせるな。


 どうやら気づきそうにないので、俺は落下の勢いそのままに遠慮なく剣を叩きこむ。


 哀れ魔族は口端を吊り上げて笑い出そうとした顔のまま、頭から真っ二つに叩き斬られてしまった。


 このまま自由落下してしまっては確実に死ぬので、俺はさっさと地上に転移する。もっとも、転移すればバリアのようなものが発動するので死ぬことはないと神様じいさんが言っていたがな。後を追うように、魔族の死骸が落下してくる。


 そうそう、ギャラリーがいるのだから剣技のフリをしておかないとな。


 俺はとっさに考えた適当な技名を言ってみる。


「……秘剣・天殺斬」


 単に上空に転移しただけだがな。


 はあ、今回も秘奥義のお披露目はなしか。せっかくこれだけのギャラリーがいたのだから、雑魚とはいえ一発お見舞いしてもよかったかもしれない。


 だが、からくりのわからないギャラリーは大いに驚いたようだ。周囲からは歓声が沸き起こる。



 そんなお祭り騒ぎの中、俺の目に顔を赤らめて見つめてくるジャネットが映った。




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