表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/227

24 王国の姫騎士


 突然団長室に乱入してきた女は、こちらを見るやずかずかと近づいてきた。


 オスカーが立ち上がって一礼する。


「これは殿下、いったいどうされました?」


「殿下と呼ぶな。私は国を守る一騎士だ」


「そうでした、これは失敬」


 一騎士と言うわりには、ずいぶんと横柄な態度で女が言う。


 年は俺と同じくらいだ。殿下ということは、この女は王女か何かなのだろう。あるいは単にあだ名なのか。


 その王女様は、俺の顔を一瞥すると不快そうにオスカーに言った。


「盗賊団を討つというから、私はわざわざ前線から王都に戻ってきたのだ。それが帰ってきてみれば、無名の冒険者風情が一人で片づけたと言う。その程度の相手を潰すためにいちいち私を招集しないでもらいたい」


 そう言って、ふたたび俺の方を見る。


「この男がその冒険者か。ふん、大した腕とも思えん。こんな男一人に潰されるような賊など、団長がひとっ走りすればすんだのではないか? それとも、長い間実戦から離れて腕が鈍ったか?」


「ははは、これは手厳しい」


 女の容赦のない言葉に、オスカーが頭に手をあてる。俺を雑魚扱いするとは、この女、大層腕に自信がおありのようだ。


 もっとも、それは根拠のない自信というわけでもないらしい。この女、オスカーに比肩するほどの腕を持っているようだ。凄腕の剣士であることは間違いない。


 オスカーが俺に彼女を紹介する。


「リョータ君、紹介しよう。こちらはミルネ王国第三王女、サラ殿下だ。もっとも今は一介の騎士として騎士団の副団長と遊撃隊長を兼任しておられる。剣の腕では我が騎士団でも一、二を争う凄腕の剣士だ」


「そうか。俺はリョータだ。よろしく」


 立ち上がって差しのべた手を、しかし彼女は握ろうともせずに言った。


「私はよろしくするつもりなど毛頭ない。冒険者風情の力など借りずとも、王国の問題は王国の者で解決できる。それに」


 そう言って、サラがカナを見る。


「このような場に女子供を連れて来るような輩だ。こんな軟弱者、いざという時になれば使いものになどならないだろう。冒険者など、我々が前線で魔族の侵攻を抑えている後ろで、おとなしく女どもとじゃれ合っていればいいのだ」


 その言葉には、俺もさることながら、冒険者全般に対しての侮蔑の意が込められていた。


 それまで黙って聞いていた俺だったが、サラのカナを見る目が軽蔑に満ちていたとあっては黙ってはいられない。


 俺はサラの顔を見ながら言った。


「女子供と言うが、自分のことを棚に上げるのはよくないな。俺には騎士団に女が入っていることの方が余程問題に思えるが」


「なっ……!?」


 まさか言い返してくるとは思わなかったのだろう。サラの目が驚きに見開かれる。特権階級に属する者は、往々にして飼い犬が噛みついてくるなどとは夢にも思わないものだ。


「それも副団長ときたものだ。聞けばお前は王族だそうだし、親の力でその地位を得たのではないかと疑いたくもなる」


「き、貴様、この私を侮辱するか……!」


「俺がお前を侮辱してるんじゃない。お前が騎士団の副団長であるということが、騎士団を侮辱していると言っているんだ。話をすりかえるな」


 俺の言葉に、サラの顔が真っ赤に染まる。さすがに言いすぎだと思ったのか、オスカーが口を挟む。


「リョータ君、それは誤解だ。さっきも話したが、彼女は騎士団でも一、二を争う使い手だ。その実力は申し分ない。それに、人事についても上からの圧力があったりなどはしない。彼女は私がその実力を認めて副団長に任命したのだ」


「ああ、まあそれはいいだろう」


 わかっている、と俺はオスカーに目配せする。


「問題は、この女の言動が矛盾だらけであることだ。騎士団にはお前以外にも女はいるのだろう? 女がよりによって戦場に赴くなど、先ほどのお前の弁を借りれば侮辱以外の何ものでもないんじゃないのか?」


「か、彼女たちは王国の騎士として女を捨てた者たちだ! 何の問題もありはしない!」


「女を捨てればいいという論理も謎だが、そもそも女を捨てるなんていうのはお前たちの主観にすぎないだろう? 女を捨てるなどということに何か客観的な判断基準があるとでもいうのか? 逆に聞きたいが、このカナが女を捨てていれば戦場に出ても問題ないというのか?」


「き、詭弁だ! そんな屁理屈で騎士団を愚弄するなど、断じて許せぬ!」


「まだあるぞ。お前、一介の騎士とか言うわりには、団長よりも偉そうじゃないか。この国では副団長は団長より偉いのか?」


「なっ、それは……」


「一介の騎士というのは、普通王族である前に一介の騎士であるという意味だと思うんだが、お前の態度はどう見ても一介の騎士である前に王族だな。反論できるか?」


「くっ……」


 そのままサラは黙って俺を睨みつける。どうやら反論はできないらしい。


 しばらく俺を睨みつけていたサラは、ちっと舌打ちすると大声で怒鳴った。


「不愉快だ! このような男、私は絶対に認めん! 我が騎士団の品位に関わる! 団長、また後で来る!」


 そう言って身をひるがえすサラ。


 と、またしても部屋の扉が乱暴に開けられる。そして一人の男が慌ただしく部屋の中へと転がりこんできた。


「た、大変です、団長!」


「どうした、少し落ちつけ」


「は、はい……」


 男が深呼吸する。少しは落ちついたのか、男が口を開いた。


「ほ、報告いたします! さ、先ほど、王国南部、ピネリの町から……魔王軍侵攻の報がありました!」


 その一報に、団長室の空気が一瞬にして凍りついた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←もし『転移魔法』がおもしろかったなら、ここをクリックしてくれると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ