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225 意外な特技



 あいつ、あんなに飲めるのか……。


 俺とサラ、そしてケビンたち親衛隊員は、なかばあきれた目で二人の酒豪を見つめていた。


「何だいあんた、ずいぶん飲めるんじゃないのさ」


 ジャネットが嬉しそうに笑う。ただ、だいぶろれつが怪しくなってきている。顔ももう真っ赤だ。


「ほら、あんたもいつまで寝てるんだい。今日はとことんつき合うんだろ?」


 そう言いながら、隣でつっぷすガイの頭を左手でわしづかみにして強引にテーブルから引きはがす。


「す、すいやせん、俺はもう限界で……」


「だらしないよあんた。少しはリセを見習ったらどうだい」


 ジャネットがガイの頭をむりやりリセの方へと向ける。


 そのリセはと言えば、グラスのワインを淡々と口にしていた。ジャネットと同じ量を飲んでいるはずなのだが、顔色には一切変化が見られない。


「ほらほら、さっきの威勢はどうしたんだい。あんた、リセを一発ぎゃふんって言わせるんじゃなかったのかい?」


「すいやせん、俺が悪かったです、どうか堪忍してください……」


 半分ベソをかきながら、ガイが必死に懇願する。


 まったく、リセがこんなに底なしだとは思わなかったぞ。俺たちもいいかげんかなり酒が回っているというのに。


 ちなみに、レーナにはカナの面倒を見てもらうために俺と席を替わってもらっている。

 もちろんそれは建前で、うっかりレーナがジャネットの酒を手に取らないようにするために席を替わったのだ。こいつにまで酒が入ったら、いよいよ収拾がつかなくなるからな。


「それにしてもリセ、そんなに飲んで何ともないのか?」


「はい」


 あいかわらず返事はそっけない。


 サラが苦笑する。


「お前たちは知らないのだったな。リセが王国騎士団きっての酒豪だということを」


「初耳だ。俺たちはリセが酒を口にするところさえ見たことがなかったからな」


 俺の反応に、サラが楽しそうに笑う。


「一つ伝説を教えてやろう。リセはかつて新人の頃騎士団の小隊に配属された時に手荒い歓迎を受けたことがあってな」


「手荒い歓迎?」


「ああ。小隊のメンバー全員が飲んだのと同じだけの酒を飲まされる、というな。もちろん、普通は新人がすぐにひっくり返ってしまうわけだが」


 今どき日本でそんなことをやれば、パワハラ扱いされそうな話だな。


「ところがリセは次から次とその酒を飲み干していってな。気がつけば10人近い小隊が壊滅していたという逸話があるのだ」


「つ、つまりリセは並の人間の十倍近く飲めるということか!?」


「最低でも、な。ちなみに騎士団のメンバーは常人の3倍は飲める者ばかりだ」


「そ、そうなのか……」


 まさかリセにそんな特技があったとは。騎士団でも一目置かれているのは、単にサラの側近だからというだけではなかったのだな。


「その酒の強さと飲みっぷりから、リセには『酒姫しゅき』などという異名があるくらいだ」


「『酒姫』……」


 話を聞く限り、酒姫というよりは酒鬼しゅきと呼んだ方がしっくりくる感じだが……。


 と、ジャネットが目の前にワインのボトルを勢いよく置いて何やらわめく。


「ははあ、ずいぶんと大層な呼び名をお持ちじゃないか。でもね、あたしだって負けるわけにはいかないんだよ。ほら、あんたももう一本飲みな」


「わかりました」


 リセはと言えば、淡々と返事をするとボトルを手に取り、グラスに並々とワインをついでいく。


「ジャネット、リセはゲストなんだからな。ほどほどにしておけ」


「だーいじょうぶ、だいじょうぶ。ちょいとつき合ってやってるだけさ」


 何が大丈夫だ。お前の大丈夫があてにならないことは、以前のガイとの戦いではっきりしてるんだ。それに、俺が本当に心配してるのはリセではなくお前だ。この流れだと、どう見たって確実に返り討ちにあうだろ。


「リセ、遠慮なく断ってくれて構わないからな。あいつはああなると意地でもやめようとしないからな」


「心配ない、リョータ。リセも楽しそうだからな」


 サラはそう言うが、俺にはいつも通りの鉄面皮にしか見えないのだが……。


「サラ、お前よくリセの考えていることがわかるな」


「それはわかるさ。お前がカナの表情を読み取れるのと似たようなものだな」


 そう言った直後、サラは形のいいあごに手を当ててうつむくと、何ごとかをつぶやく。


「いや、リョータの場合は多分に都合のいい解釈が入り過ぎているが……」


「どうしたサラ、何かあったか?」


「い、いや、何でもない」


 かぶりを振るサラの様子に首をかしげると、俺はレーナに話しかける。


「レーナもすまんな。こんな飲んだくれにつき合わせてしまって」


「とんでもない、私も楽しいです。わざわざ誘っていただきありがとうございます」


「俺もお前をこいつらに紹介したかったところだからな。特にケビンは今後次席護衛官としてギルドに行く機会も多いだろうから、どうかよろしく頼むぞ」


「どうぞよろしくお願いいたします、レーナ様」


「こ、こちらこそこれからもよろしくお願いします……。それから、ギルドでは『様』はやめてくださいね」


「わかっておりますとも。公私の区別はつけておりますゆえ」


「私的な場では『様』なんですね……」


 なかばあきらめたかのようにレーナがつぶやく。


「まあ、そういうわけだ。ギルドで何かあったらすぐに俺やサラに言うのだぞ」


「は、はい、よろしくお願いします」


「サラ、今度はこいつらに少し稽古をつけてやってくれ。それと、ラファーネ……先生を祝う時にはまた来てもらえるとありがたい」


「ああ、その時は予定を調整しよう」


 サラがこころよく引き受けてくれる。いろいろ忙しいだろうに、ありがたいことだ。





 その後も宴は続き、ついにジャネットが沈んだところで会はお開きとなった。あのジャネットをテーブルに沈めたリセに、親衛隊員が畏敬のまなざしを向けたのは言うまでもない。




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