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224 あらぬ疑い




 はじめはサラの登場に緊張を隠せなかった親衛隊員たちだったが、宴が進むにつれてそれもほぐれてきたようだ。ガイなどは、無遠慮を通り越して無礼のレベルに至りそうだが。


 そのガイが、酒を片手にサラを褒める。


「しかし何だ、お姫様ってのは城の奥で偉そうにちやほやされてるもんだとばかり思ってやしたが、姫騎士様は気さくなお方ですな! とてもお姫様とは思えねえ!」


「こら、ガイ、無礼だぞ」


「構わんよ。私は王族であり、一人の騎士でもあるのだからな」


「いやー、ホント男前ですな、姫騎士様は!」


 ごきげんな顔で酒をぐいっとあおる。さっきからケビンが顔を青くして注意しているが、当の姫騎士は特に気にしてないようだ。


 ジャネットもニヤニヤ笑いながらサラに声をかける。


「しっかし、あんたもホント丸くなったもんだねえ。ちょっと前なら、ガイみたいな元盗賊の肉ダルマは見ただけでこんな顔して無視してるだろうにさ」


 眉間にしわを寄せながら、糸目を作ろうとしてるのか目の両側を引っぱって妙な顔をしてみせるジャネットに、サラはすました顔で言う。


「至らぬところはその都度修正していく。それだけのことだ。お前もいつまでも己を見つめ直さないようでは、いずれリョータも愛想を尽かすぞ」


「いっちょ前のこと言うようになったじゃないか。でもね姫様、あんたリョータの裸は見たことあるのかい?」


「はっ、裸!?」


 目を白黒させたサラが、すっとんきょうな声を上げる。


「お、おま、お前たち、いつの間にそんな関係に……!?」


「そんなもの、お前にだって見せたことないだろう。適当なことを言うな」


「いやだね、冗談だよ冗談」


 けらけら笑うジャネットを、サラが耳まで真っ赤にして睨みつける。お前、まさか妙な想像とかしてないよな。


 と、何かに気づいたかのようにサラがカナに聞く。


「カナ、ひょっとしてお前、風呂はリョータといっしょに入ったりしてるのか?」


 その言葉に、場がしんと静まりかえる。おい、お前ら、なぜそんな目で俺を見る?


 カナは心外だと言わんばかりに、ぶっきらぼうに答えた。


「カナ、一人でお風呂入れる」


「そ、そうか。そうだな、当然のことだったな」


 なぜか一同がほっと胸をなでおろす。まさかお前ら、俺がいっしょに風呂に入ってあれこれやってるとでも思ったのか? ふざけるな、俺はロリコンじゃない。カナの保護者だぞ。


 あれ? でも、保護者ならほとんど父親みたいなものだから、別にいっしょに入ってもいいのか? いやいや、俺はそういうことは別に望んでは……。


「なーに黙りこくってるんだい、リョータ?」


「ひゃっ!? ベ、別に何でもないぞ!」


 俺にはやましいことなんぞ何もないからな!


 しかし妙な空気になってきたな。話をそらそうと、俺はリセに声をかける。


「それよりリセ、騎士団長就任おめでとう。仕事の方はどうだ?」


「ありがとうございます。仕事はまずまずです」


 表情を動かさず、リセはそう答える。


「そうか、それは何よりだ。また腕を上げたか?」


「いえ、私などまだまだです」


 最低限の言葉だけ返してくる。か、会話が続かんな……。


「ま、まあ、今日はお祝いだ、遠慮せず飲め」


「それではお言葉に甘えさせていただきます」


 手元のグラスを手に取ると、リセはくいっとそれを空にする。


 その様子を見て、ガイがジャネットに何か耳打ちする。


「あの女、リョータ様に向かって何て態度だ。姐さん、俺が一発あの女こまして素直にさせてやりましょうかい?」


「やめときなよ。あんた、また白目むいて気絶したいのかい?」


「げ、あの女も姐さん並みに強いんですかい?」


「安心しろ、リセはケビンと同じAクラスだ。ジャネットほどの化けものではないはずだ」


「ちょいと、バケモノとは何さバケモノとは」


 ジャネットが不服そうにくちびるをとがらせる。


 サラも愉快そうに笑う。


「リセと戦いたいのであれば、今度私が稽古に行く時に連れていくさ。もっとも、リセは言わなくてもついてくるのだろうがな」


「殿下をお一人にするわけにはまいりませんから」


「リセ、お前も少しは団長の自覚を持ってもらわないと困るぞ。いつまでも私のお守りのつもりではな」


「ご心配には及びません。団の仕事はすませた上でのことですから」


「上司が上司なら部下も部下か。リセもお前同様の完璧人間なのだな」


「からかうな、リョータ」


 サラがぷいと顔をそらす。


「ジャネット、お前も少しはリセを見習ってみてはどうだ? お前、隊の仕事は全部ケビンに押しつけるつもりだろう?」


「人聞きの悪い言い方はよしておくれよ。ほら、よく言うだろ、適材適所ってやつだよ」


「そうですぜリョータ様! 姐さんは頭を使うのが苦手なんだ、そういうことはケビンのダンナにまかせちまうのが一番でさ!」


「……あんたにバカだって言われると、さすがにムカッとくるねえ……」


「ええっ!? 俺は姐さんに助け船を……あだだだ!」


 ジャネットに二の腕をつねられ、ガイが思わず叫び声を上げる。いや、ガイは何一つ間違っていないだろう。


 カナが俺の顔を見上げてくる。


「ジャネット、頭弱い?」


「ああ、人には得手不得手というものがあるからな。カナはちゃんと勉強するんだぞ?」


「カナ、ラファーネ先生と勉強する」


「ははは、そうかそうか。先生からいっぱい教えてもらうんだぞ。ほら、これも食え」


 そういえば、ラファーネもそろそろこちらに到着するのだったな。カナの師になるのだ、イアタークに来たら盛大に祝ってやらなければ。



 徐々に酒もまわり始め、宴は盛り上がっていった。




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