223 ゲストの到着
乾杯をすませ、食事に手をつけながら談笑していると、ゲストの到着が告げられた。
扉が開き、中へと入ってきた人物を見て、ケビンたち親衛隊が驚きの声を上げる。
「盛り上がっているようだな」
「ひ、姫騎士様!?」
慌ててケビンたちが立ち上がるとひざまずく。ガイだけは彼女が誰なのかわからないのか、座ったまま呆けたような顔をさらしている。
入ってきた女――サラは苦笑して、3人に対し立ち上がるようにうながした。
「私は友人としてそこの総督殿に招かれただけだ。礼儀など気にすることはない」
「その通りだ。お前たちはいつも通りにしていればいい」
「は、はっ」
とまどいながらも、指示された通り元の席につく。
俺はサラと、その後ろにしたがうリセに声をかけた。
「忙しいところ、よく来てくれた。サラはカナの隣に座ってくれるか」
「何、うわさの親衛隊の歓迎会だ。無理やりにでも予定を合わせるさ」
冗談めかしてサラがにやりと笑う。
俺はリセの方へと視線を動かす。
「リセ、サラから聞いているとは思うが、今回はお前の白鳳騎士団長就任祝いも兼ねている。今日こそはお前も席についてもらうぞ」
「閣下直々のお招きとあらば、断るわけにはまいりません」
意外にもリセはそう答えると、サラの隣に着席した。いつものように抵抗されるかと思っていたが、予想外の反応だ。
全員そろったところで、俺はあらためてゲストを紹介する。
「紹介するまでもないだろうが、一応紹介しておく。こちらはサラ、知っての通りミルネ王国第三王女殿下だ。今は王国南方防衛軍司令としてこのイアタークをお守りされている」
「サラだ。私のことはリョータやジャネットのように気安くしてくれて構わない。今後は世話になることも多くなることだろうが、どうかよろしく頼む」
サラのあいさつに、ケビンたちが我先にと口を開く。
「このたびは殿下のご尊顔を拝謁する機会をたまわり、恐悦至極に存じます! 私の名はケビン、リョータ様……クロノゲート総督閣下よりクロノゲート親衛隊副隊長および総督府次席護衛官を拝命しております」
「おそれ多くもサラ王女殿下の御前に……」
何だか長くなりそうだな。
視線をサラの反対側へと向けると、ガイがあいかわらず間抜けな顔をしながらジャネットに何ごとか尋ねている。
「あれがうわさの姫騎士様ですかい……。あんなきれいなお嬢さんが姐さんと同じくらい強いとは、正直信じられやせんが……」
「あんた、あたしの時もそうやって大失敗したんじゃないか。間違ってもケンカなんか売るんじゃないよ。冗談じゃなく死ぬよ、あんた」
「と、とんでもねえ! 姐さんがそこまで言うお方に、俺ごときがケンカなんか売るわけがねえ!」
「ほらほら、いつまでも鼻の下のばしてないでさ、あんたもあいさつするんだよ」
「ぐほっ!」
ジャネットが背中を平手打ちすると、どぼんと鈍い音がしてガイが思わずうめく。お前、だから少しは手加減をしろと……。
何とか立ち直ると、ガイはサラに向かってあいさつする。
「はじめまして、姫様。俺はリョータ様の部下のガイって言いやす! 昔はちょっとした盗賊団の頭をはってやした! あ、この国じゃないから安心してください!」
「お前がガイか。リョータから話は聞いているぞ。ジャネットにはえらい目に遭わされたそうだな」
「いえ、あれは俺みたいなゴミが姐さんにケンカ売ったのが悪いですから! もちろん姫様にもケンカなんか売りはしませんぜ! 聞けば姫様も姐さんに負けないクソ力……力持ちだって聞いてやすし」
「それはやってみないとわからないがな。リョータたちのこと、よろしく頼むぞ」
「もちろんでさあ! 俺はリョータ様と姐さんに絶対の忠誠を誓ってますから!」
裏表のないところを気に入ったのか、サラがほがらかに笑う。
「ケビンは私もよく知っているぞ。昔から王都のギルドで活躍している冒険者だからな」
「はっ! 光栄です!」
「クラウスも同様だ。氷結魔法の第一人者まで仲間に引きこんでいたとはな。さすがはリョータといったところか」
「姫騎士様にお褒めの言葉をいただけるとはな。俺も鼻が高い」
それからサラはソアラの方を見て感心の声を上げた。
「それにしても、私が驚いたのはソアラだ。リョータ、我がギルドの成長株をよく見つけ出したな」
「え!?」
急に名前を呼ばれ、ソアラが驚きに目を見開く。
「殿下、殿下は私のことをご存じだったのですか……?」
「ああ。クラスこそまだBだが、数々の戦いで武勲を上げ、ギルドでも屈指の有望株だと聞いている」
「ま、まさか殿下が私のような者までご存じだとは……」
感激のあまり、ソアラが両手で口元を覆う。
俺も感心してサラに笑いかける。
「さすがだな。ソアラは俺がひそかに発見した掘り出し物だと思っていたのだが」
「お前やジャネットのことがあるからな。未来のSクラスを見逃さないよう、ギルドの成長株はすべて把握している」
ジャネットが手をひらひらさせながら笑う。
「まったく、昔はあれほど冒険者を毛嫌いしてた姫騎士様がこれだからね。男にほれると、女ってのは変わるもんだねえ」
「な!? わけのわからんことを言うな!」
テーブルをたたいて立ち上がったサラがどなる。
ケビンがおそるおそる聞いてくる。
「もしや、リョータ様は姫騎士様と恋仲でいらっしゃるのですか?」
「俺はそうなりたいと思っている」
「ば、馬鹿を言うな! 私はそれどころではない!」
照れ隠しなのだろう、サラが顔を真っ赤に染めて怒る。そうそう、その顔が見たかったのだ。
「や、やはりすごいお方だ、リョータ様は……」
「あの姫騎士様に、あのような軽口をたたけるとは……」
「私は姫騎士様が自分のことを知っていらっしゃったのが驚きで……」
「姫騎士様もすごい人みたいだし、やっぱりリョータ様や姐さんのまわりに集まる人は一味も二味も違いやすね!」
隊員たちが口々に言う。うむ、やはりサラを呼んだのは正解だったな。
そのサラが、グラスを手に俺を見る。
「ところでリョータ、私には乾杯はないのか?」
「おお、すまんすまん。それではみんな、我らが姫騎士様のために今一度乾杯といこうではないか」
俺は再び音頭を取り、姫騎士に乾杯を捧げた。