222 歓迎の宴
夜になり、俺たちは親衛隊員たちをもてなすため総督府の一室に集まっていた。
この部屋は賓客などをもてなそうと思って少し飾りつけていた部屋だ。魔族どもがこの城にためこんでいた財宝の一部や、魔族どもから奪い取った俺の個人的なコレクションを飾ってある。自慢ではないが、ミルネの貴賓室にもそうひけは取らないはずだ。
その部屋のまんなかにある丸いテーブルに着席し、俺たちは隊員たちがやって来るのを待っていた。
テーブルにはすでに様々な料理が並んでいる。中にはジャネットが作ったものもまざっている。
「ほ、本当に私も参加してよかったんでしょうか……」
隣に座るレーナが、少し不安げにつぶやく。せっかくなので誘ったのだ。
「何、気にするな。お前もギルドマスターなのだ。今後は親衛隊の連中とも顔を合わせる機会が増えるだろうからな」
「は、はい……」
うむ、やはりレーナは慎み深くてかわいいな。
俺の左隣にはレーナが、右隣にはカナが座っている。レーナの隣にはジャネットが座り、さっきから何かレーナに耳打ちしている。こいつはまた、今度は何をたくらんでいるのだか。
しばらくして、親衛隊の面々がやってきた。
連中を案内してきた女官に中に通すよう伝えると、隊員たちが中へと入ってきた。
ケビンがうやうやしく頭を下げる。
「クロノゲート親衛隊、ただいま到着いたしました」
「うむ、まあ座れ」
そううながす俺に、ガイがにやけながら声をかけてきた。
「お、リョータ様、隣の女はリョータ様のこれですかい」
下卑た顔でガイが小指を立ててみせる。こいつ、開口一番これか。というか、そのジェスチャーは日本と同じなんだな。
レーナはレーナで、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。本当にかわいいな、レーナは。
俺が答える前に、ケビンがガイをたしなめる。
「口を慎め、ガイ。そのお方はレーナ様、サラ王女殿下、ジャネット隊長と並びリョータ様が最も信頼を寄せておられるお方だ」
「って、ケビンさん!?」
耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていたレーナが、急に素っ頓狂な声を上げる。
「ああ、レーナはギルドでケビンを知っているのか」
「もちろんです! ケビンさんは私がギルドに入る前から活躍されていた、王国が誇る冒険者の一人ですから」
「もったいないお言葉です、レーナ様」
「どうしてケビンさんがここに……って、レーナ様って何ですか!?」
「先ほど申し上げた通りです。レーナ様は我らの主であるリョータ様にとって大事なお方ですから」
「そ、そんな、困ります! いつものように呼び捨ててください!」
困惑するレーナに、笑いながら言う。
「いいではないか、レーナ。本人がこう言っているのだから」
「で、でも、ケビンさんは私が新人の頃からお世話になっている方です。そんな方に様なんてつけられても……」
む、レーナはそんな昔からケビンとつき合いがあるのか。しかもかなり尊敬してる感じだぞ。まさかとは思うがケビンに気があったりしないだろうな。やらんぞ、レーナは俺のだ。
「リョータ様、私に何か……?」
「む、いや、気のせいだ。何でもないぞ」
いかん、顔に出ていたか。
「とりあえずジャネットの方から詰めて座ってくれ」
「うっす! じゃあ俺が姐さんの隣ですね!」
「あんたが来るのかい? 暑苦しいねえ」
どすどすとやってきて席に着くガイに、ジャネットがやれやれとため息をつく。レーナはガイの見た目の迫力に圧倒されているようだ。
「リョ、リョータさん、この方たちがリョータさんの部下なんですか……?」
「そうだ。俺が直々に声をかけて集めた強者たちだ」
「すごいですね、そちらの方……。あんなに大きな人、見たことがありません」
「そうだろう。あいつは元は盗賊の頭だったのだ。そこを俺が誘って連れてきた」
「と、盗賊の頭!?」
レーナが驚きの声を上げる。
それに反応して、ガイが勢いよく立ち上がった。
「はじめまして、レーナ様! 俺はクロノゲート親衛隊のガイって言いやす! さっきは無礼なこと言ってすいませんでした!」
「い、いえ、気にしてませんから」
レーナがおっかなびっくり返事する。
「あれ? でも、別にレーナ様がリョータ様の女だってのは間違っちゃいないのか?」
「ち、ちちち違います!」
慌ててレーナが否定する。べ、別にそんなに必死に否定しなくてもいいだろう。さすがにちょっと傷つくぞ。
ぼりぼり頭をかきながら、ガイは俺に聞いてきた。
「リョータ様、ひょっとしてレーナ様も何かとんでもない力を持ってるんですかい?」
他の隊員も、身を乗り出して俺の返事を待つ。いやいやお前ら、レーナはただのギルドの受付嬢だぞ? まあ、ジャネットやカナを見た後だとその反応も当然なのかもしれないが。
「安心しろ、レーナはごく普通の人間だ。特別な力は特に持っていない」
「そうですか、ちょっと安心しやしたぜ」
ガイが胸をなでおろしながらため息をつく。他の連中も同感だったらしい。
お前ら、いくら何でもビビリすぎだぞ。確かにレーナは酒が入ると俺でも手がつけられないことがあるが。レーナは普通の人間だ……そうだよな?
「ゲストというのはレーナ様のことだったのですな。話にはうかがっておりましたが、なるほど確かに美しいお方だ。リョータ様が夢中になられるのもうなずける」
「そうなんだよ、あたしから見てもお似合いでさあ……」
魔法士のクラウスが言うと、ジャネットがうんうんとうなずく。だからお前、何でいつも俺とレーナをくっつけたがるんだ。見ろ、またレーナが照れてるじゃないか。
それはそうと、俺はクラウスに答える。
「レーナもそうだが、ゲストはもう一人いるのだ。そこの席が空いているだろう?」
「おお、確かに」
「もう少し待っていろ。そろそろやってくるはずだ」
そう言って、俺は飲みものをカナに注ぎ始める。
「とりあえず、まずは俺たちで乾杯しようじゃないか。お前たちの到着を祝ってな。ようこそ、イアタークへ」
全員が飲みものを手にしたのを確認すると、俺みずから音頭を取って乾杯した。
間が開いてしまいましたが、ようやく身の周りが落ち着いてきたので物語を再開します。
なお感想欄についてですが、後書きなどで対応すれば十分だと判断しましたので、従来通りに戻します。今後もよろしくお願いします。