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220 仕事の相談



 まずい、想像以上に忙しい。


 事務仕事が一段落したと思ったら、視察だの面会だの仕事が目白押しだ。執務室に戻れば書類がたまってるし、休む暇がないぞ。


 今日も視察と面会がダブルブッキングぎみにぶつかって、面会相手といっしょに視察先へ向かうという掟破りの力技で何とか乗り切ることができた。このままじゃ絶対どこかで破綻するぞ。


 というわけで、俺は頼れる相棒に意見をもらいに行くことにした。





「相談?」


 ひょっとすると俺よりも忙しいかもしれないその相棒は、俺が相談したいことがあると聞いて不思議そうに首をかしげた。


 防衛軍の司令室は何とも機能的で無駄がなく、主の人となりをしのばせるものがある。まだ夕方前で、部屋には多くの者が詰めかけている。


 邪魔にならないようにということで、俺は客室の方へと通されていた。長い脚を組んでソファに腰かける頼もしい姫騎士に、俺は話を切り出す。


「ああ、実は想像以上に総督の仕事が忙しくてな。お前に知恵を借りにきたのだ」


「もうしばらくすれば、それはある程度落ち着くとは思うが……。何なら私が少し手伝おうか?」


「いや、それは遠慮しておく。お前の手をわずらわせるわけにはいかないし、根本的な解決にはなっていないからな。それに、どちらかといえば、俺は今というより今後長い目で見た場合の仕事の効率を改善したいと思っているのだ」


 サラの申し出を断ると、俺は目の前の茶に口をつけた。


「何というか、仕事の優先順位がつけにくいのだ。それに、予定がぶつかることもしばしばでな。もう少しうまくやれればいいのだが、何かうまい方法はないだろうかと思ってお前をたずねたのだ。お前ならそういうことにもくわしそうだというか、現に仕事をてきぱきこなしているしな」


「まあ、それはそうなのだが……」


 サラが少し困ったように腕を組む。


「こう言っては身もふたもないのだが、私が今こうして仕事をこなしていられるのはこれまでの経験や勉学があってのことでな。その積み重ねで少しはものごとが見えるのだ。だから、お前に伝えられるような方法というのはなかなかな……」


 そこまで言って、サラが慌てて弁解するように早口でまくしたてる。


「ご、誤解するなよ!? 別にお前が怠惰だとかものを知らないとか言っているわけではないぞ!? ただ単に、私の方が少しだけ経験が長いというだけのことだ! 決してお前の能力が低いと言っているわけではない!」


「わかっている」


 そんなに必死にならなくてもいい。だいたい、お前みたいな天才と張り合う気は俺には毛頭ないわけだしな。


「しかし弱ったな、何かコツでも聞ければと思ったのだが。そんなに都合のいい方法はないということか」


「すまんな、役に立てなくて」


「いや、サラが気に病むことはない」


 というか、ひとえに俺の能力が足りていないことが問題なのだしな。うーん、しかしこれはまいったな。


 困り果ててとりあえずまたカップに口をつけていると、サラが何か思いついたようにつぶやいた。


「というか、別にお前がうまくやらなくてもいいのではないか?」


「というと?」


「お前が苦手であるのなら、いっそ他人にまかせてしまえばいいのだ。お前が困っているのは、仕事の優先順位の見極めと予定の調整なのだろう?」


「ああ、そうだ」


「優先順位の判断については完全に他人にまかせるのは難しいかもしれんが、スケジュールを組むのはある程度他人にまかせてしまっていいのではないか?」


 優雅に茶を一口すすると、サラは俺の目をまっすぐに見つめてきた。


「秘書を使ってみてはどうだ?」


「秘書?」


「ああ。私も普段使わないからすっかり失念していた。少なくとも、予定が重なるような致命的なミスはそれで避けることができるだろう」


「ふむ、秘書か……」


 言われてみると、ちょっといいな、秘書。サラみたいな美人がスーツを着て俺のそばに立っているのを想像すると、かなりかっこいいぞ。さすがにサラに秘書を頼むわけにはいかないが。


「とりあえずはクレマンあたりに頼んで、臨時で秘書をつけてもらってはどうだ? 少し落ち着いてきたら、あらためて自分で秘書を選べばいい」


「なるほどな。それなら確かに俺もずいぶんと仕事が楽になりそうだ」


 うんうんとうなずくと、俺はサラに礼を言う。


「さすがだな、サラは。俺が困っていてもすぐに解決してくれる。やはりお前は俺が尊敬するに足る人物だ」


「な、なっ!? からかうのはよせ! 私はただ、ちょっと思いついたことを口にしただけだ、別に褒められるようなことではない」


「いやいや、そのちょっとのことが、俺たち凡人には思い浮かばないものなのさ。素直に受け止めろ」


「う、うう……」


 何やらかわいらしいうなり声を上げながら、サラが顔を赤くしてテーブルへと視線を落とす。


 まあ、言われてみれば、なぜ秘書が思いつかなかったのかという感じではあるのだが。だが、こうしていざ当事者になってみると、なかなか思いつかないものなのだな。


「サラに相談して本当によかった。忙しいところ時間を取らせてしまったな」


「気にするな。お前の役に立てたのなら何よりだ……ご、誤解するなよ!? お前の仕事の効率が上がれば、それだけ総督府の、ひいては王国の利益になるということだ!」


 まったく、素直じゃないやつだ。


「これ以上お前の邪魔をするわけにもいかないな。今度礼をさせてもらおう。そちらの仕事が早く終わりそうな時は、俺たちといっしょに夕食をとろう」


「ああ、その時はそちらに使いを出しておく。がんばれよ、総督殿」


「せいぜいがんばるとするさ、姫騎士様」


 腕組みしながらにやりと笑うサラに笑みを返すと、その後ろに控えていたリセにも軽くあいさつして、俺は司令室を後にした。



 うむ、秘書か。とりあえずはクレマンに人を借りるとして、余裕ができたら自分で選ぶとしよう。才色兼備のエルフ娘などはロマンではあるのだが、ちと難しいかな。


 そんなことを妄想しながら、俺は執務室へと戻っていった。





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