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216 城塞都市イアターク



 獣人の村を後にした俺たちは、その後も村に泊まりながら、一路イアタークを目指す。




 そして6日目の昼、俺たちの行く手に巨大な市壁におおわれた町が見えてきた。


 レーナがびっくりした様子でつぶやく。


「魔界領に、あんな大きな町があるんですね……」


「何でも昔は伯爵だかが住んでいた町だそうだ」


「そうなんですか。町のまわりも、一面畑だらけ……」


「こうして見てたら、王都とそんなに変わりないねえ」


「そうだな、王都が小さくなったようなものか」


 そのうちあの料理店も出店してくるしな。




 町に近づくと、道の両脇の畑で働く者たちの姿が見えてくる。


「それにしてもすごいですね、こんなに畑があるなんて」


「放置されているかと思ったが、どうやらシモンががんばってくれたようだな」


 畑を見れば、農民たちの中にまぎれて妙に体格のいい男がまじって畑仕事をしている。あれは騎士団の連中かもしれないな。


 田園風景をながめながら市壁へと近づいていくと、巨大な城門が見えてきた。


 ジャネットが声を上げる。


「うへえ、なおったんだね、あの扉」


「この前の戦いで壊れたんですか?」


「そうだよ。リョータがさ、こーんな大きな岩を落っことしてさ、どかーんってぶっ壊しちゃったんだよ」


「い、岩ですか!?」


「そうさ、こう、どかーんとさ。ね、リョータ?」


「ああ、そうだ」


 そうなのだが、お前のその馬鹿っぽい説明だと、今いち信憑性に欠ける感じになってしまうではないか。


 案の定、レーナは疑わしそうな顔をしている。


「ウソだと思うなら、サラに聞いてみなよ。あの子、リョータのことベタ褒めしてたんだからさ」


「サラ様がですか? でしたら、やっぱり本当なんですね……」


「あ! あんたサラって言ったとたんに信じたね! そんなにあたしの言うことが信用できないってのかい!」


「い、いえ、そういう意味ではありませんよ」


「やめておけ、ジャネット」


 すべてはお前のその馬鹿っぽい説明が原因なのだからな。


 レーナはというと、巨大な城門を見上げてため息をもらす。


「すごいですね……。王都のものと比べても遜色ないくらい……」


「そうだな、俺もはじめて見た時は驚いた。よくこの短い間に修理したものだ」


 その巨大な城門を通り、町の大通りへと入る。


 町は人の気配こそほとんどないものの、激しい攻略戦の傷跡もそれほど残っておらず、人さえいれば普通の町と変わらない印象だ。


 おそらく今後店が立ち並ぶであろう大通りを抜け、総督府兼防衛軍司令部となる城のそばまでやってくる。


 と、そこには騎士たちにまじって、よく見慣れた人物の姿があった。


 俺たちは馬車を降りると、その人物のそばへと向かう。


 彼女は笑顔で声をかけてきた。


「よく来たなリョータ、待ちわびたぞ」


「王女殿下直々のお出迎え、感謝するよ」


 ほがらかに笑う女騎士――サラに手を振ると、俺たちは口々にあいさつする。


「サラ、こんにちは」


「ああ、こんにちは、カナ」


「サラ様、お久しぶりです……」


「レーナもよく来てくれた。これからもよろしく頼むぞ」


「は、はい……」


「久しぶりだね、サラ。リョータに会えなくて寂しかったろ?」


「そ、そんなことはない! だいたい、久しぶりも何もついこの前あの店でパーティーをしたばかりではないか!」


「いやあ、1週間も離れ離れになれば寂しくなるもんだろ?」


「し、知らん!」


 そう叫ぶと、サラがぷいとそっぽを向く。


 その様子を苦笑しながら見つめているのは、王国騎士団副団長のシモンであった。サラの後ろにはリセの姿もある。


「シモン、久しいな」


「リョータ殿、お久しぶりです。遠路はるばるおつかれさまでした」


「礼を言うぞ。お前のおかげで畑も荒れず、町もすぐに人が住める状態を保つことができた」


「いえ、私は民政官殿の指示にしたがって、できることをやっていたまでのことですよ」


「その指示をそつなくこなしてしまうから大したものなのだ。この町を引き継ぐものとして、心から感謝する」


「ありがとうございます。私もリョータ殿に無事に引き継ぐことができてうれしく思います」


 シモンと握手を交わすと、入れ替わりにジャネットが声をかけた。


「シモンのダンナ、おつかれさま! ダンナはいつこの町を出るんだい?」


「ジャネット殿、お久しぶりです。私は仕事の引き継ぎがありますので、まだしばらくこの町にいるつもりです」


「だったらさダンナ、あたしと一杯飲もうよ! この町に酒場はあるのかい?」


「つい先日までむさ苦しい男ばかりの町でしたからね。酒場ならすでにいくつかありますよ」


「ホントかい!? それじゃ、ダンナのオススメの店で飲もうよ!」


「はっはっは、喜んで。では後ほどくわしい話をしましょう」


 本当にこいつは飲むことばっかりだな。


 今度はサラが二人を見つめながら苦笑する。


「ジャネットは相変わらずのようだな」


「ああ、馬車でもずっとこの調子だった。驚くなよ、6日間ずっとこの調子でしゃべり続けていたんだ」


「む、6日間も!? 私たちがマクストンに行った時はあれほど苦労したというのにか?」


「ああ、あいつはもう別の生きものだと思った方がいいな。おかげで退屈することのない旅ではあったが」


「そうか。これからは私もどこかへ行く時はジャネットを連れていくことにしよう」


「そうするといい。一家に一人いると便利だぞ、料理もできるしな」


「ちょっと、あたしはものじゃないんだからさ」


 不満げに口をはさむジャネットに俺たちが笑う。


「さて、立ち話も何だ、中に入ろうか。案内するぞ」


「ああ、よろしく頼む」


 うなずくと、俺たちはサラの案内で、新たな職場兼我が家へと足を踏み入れた。




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