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213 レーナの出生

いよいよ第二部に入ります。


新天地での主人公たちの活躍、どうぞご期待ください。


 馬車に乗りこんだ俺たちは、新天地へと向けて王都を後にした。


 めざすは新都市イアターク。新たに総督府が設置される町だ。


 ジャネットが、遠ざかっていく王都を窓から身を乗り出して見つめている。


「リョータ、リョータ! 馬車ってのはいいもんだね、馬とは景色も乗り心地も全然違うよ!」


「あまり乗り出すな、危ないぞ」


 席に戻ったかと思えば、今度は隣のレーナに話しかける。


「レーナ、あんたもそう思うだろ? 何だかこう、お嬢様にでもなった気分だねえ」


「そうですね、馬車で遠出なんてはじめての経験です」


「あたしもだよ! 馬に乗ってならいくらでも経験あるんだけどねえ」


 かと思えば、今度は手元の荷物から袋を取り出して、俺のひざの上に座るカナへと突き出す。


「ほら、あんたにもたっぷりおやつを買っといてやったよ! これでも食いながら景色でも見てな!」


「ありがとう」


 カナは二度目の馬車の旅とあって、何とも落ち着いたものだ。まあ、カナはいつもこんな感じではあるのだが。


「しかしリョータ、あんたも両手に花だね。この前のサラとの旅行もこんな感じだったんだろ?」


「まあな」


 もっとも、あの時はこんなに車内は騒々しくなかったがな。まったく、こいつが一人いるだけでこうも違うものなのか。


 まあ、とりあえず車内が無音になる心配はなさそうだが。


「あの親衛隊の連中も一緒に来るのかい?」


「あいつらは少し後から来ることになっている。まだ総督府もこれからだし、ギルドも開いてないしな」


「じゃあ、それまではあたしがリョータを守るわけだね」


「そういうことになるな。よろしく頼むぞ」


「まかせときなよ。あいつらの分まで守ってやるさ」


 そう笑いながら、ジャネットがカナの持つ袋から菓子をひとつつまむ。


「今日はあたしら、マースに泊まるんだよね」


「ああ。今回は馬車の速度も遅めだからな。一日でピネリとまではいかない」


「でも、宿は足りるのかい? 結構な人数に見えるけど?」


 ジャネットがまた窓から首を外へ出すと、落ち着きなく馬車の前後へと首を振る。


「役人がたくさんいるんだろ? 馬車も3つや4つじゃないし、あの町の宿で足りるのかねえ」


「問題ない。役人と俺たちはマースの宿と役所、それとギルドに泊まり、護衛は酒場で雑魚寝する。多いと言っても、せいぜい100人程度だ。それで何とかなるさ」


「よかった、あたしらはベッドで眠れるんだね」


 それから、ジャネットがウィンクする。


「ま、ベッドが足りなかったらあたしらが一緒に同じベッドで寝ればいいだけの話だしね」


「お、同じベッド!?」


 レーナが素っ頓狂な声を上げる。


「レーナ、あんたは右と左どっちがいい? ちなみにカナは上だよ」


「おい、勝手に決めるんじゃない。レーナも困ってるだろう」


 そちらに目を向ければ、真っ赤になって額から湯気が出そうなレーナの顔があった。


「まあ、どうせちゃんと人数分ベッドがあるんだろうけどねえ。それにしても、役所に泊まれるなんて、さすが総督様だねえ」


「サラが言うには、大抵の役人よりは格上らしいからな」


 気分が落ち着いたのか、レーナが聞いてくる。


「リョータさんとジャネットさんは、マースの町で活動されていたんですよね?」


「ああ。ジャネットは長い間マースを拠点にしていたそうだ」


「そうだね、おふくろが死んじまってからはずっとあの町にいたからねえ」


「え、ジャネットさん、お母さんを亡くされていたんですか?」


「そうだよ。で、あの町の人らがよくしてくれたのさ」


「そうだったんですか。では、私と同じですね」


「レーナもなのか?」


 俺は思わず声を上げた。ジャネットの親が死んだのは聞いていたが、レーナもだとは。


 少し困った顔でレーナが言う。


「ごめんなさい、同じではありませんね。私、元々孤児だったんですよ」


「孤児?」


「はい。くわしいことはわからないんですが、小さいころに捨てられていたそうで、王都の修道院で育てられたんです。親の顔もわからないんですが、この指輪が手がかりらしいです」


 そう言って、レーナが右手親指の指輪を見せる。


 そう言えば、レーナはいつもその指輪をつけているな。それにしても、親指に指輪とは珍しい気がするが、俺が知らないだけだろうか。


「実はこの指輪、親指からはずれないんですよ」


「え?」


「拾われた時から親指にはめられていたそうなんですけど、その時は赤ちゃんの指に合うサイズだったそうで。で、私の成長に合わせて大きくなってるんですよ」


「そ、それって、ひょっとして呪われてるんじゃないのかい?」


「ジャネット、滅多なことを言うな。形見の品かもしれんのだぞ」


「だ、だってさあ……」


 この手の話に弱いのか、ジャネットの顔色が少し青ざめる。


「実は当時も呪いではないかという話になって、解呪しようと教会に運ばれたことがあるそうなのですが、王都の司祭様が見てもわからなかったそうで。これは特に呪いではないという結論になったそうです」


「そ、そうなのかい。よかったぁ……」


 ジャネットがほっと胸をなでおろす。しかし、不思議なこともあるものだな。


 だが、考えてみれば今ここにいる人間は、俺以外全員が親をなくしているのだな。いや、俺も似たようなものか。


 いちいちうっとうしい親ではあったが、今思えばあれはあれで親としては自然な行動だったのだろうか。この俺でさえ、カナにはあれこれしてやらずにはいられないからな。二人とも元気にやっているだろうか。



 若干センチな気分になりつつ、俺はカナの頭をなでながら彼女たちの話に耳をかたむけた。




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