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211 旅立ちの日




 ついにこの屋敷ともお別れだ。


 引っ越し道具を全て家から運びだし、俺たちは門の前に並んでいた。


「何だか、ちょいとさびしいねえ。この家にも長くおじゃましてたしさ」


「そうだな、俺も名残惜しいものがある」


「カナも、さびしい」


 建物を見つめながら、俺たちは口々に言う。まあ、この家は引き続きギルドから借り続けることにはなるんだがな。これからは王都での別荘といった扱いになるだろう。


 いつまでもここで立っているわけにもいかないので、俺たちは用意された馬車に乗りこむ。今日は城で一泊し、明日他の官僚たちと共にイアタークへ向けて出発する。


 途中、同じく引っ越しの準備をすませたレーナを馬車で拾い、俺たちは城へと向かった。





 城に到着すると、馬車は城門をくぐり抜けてそのまま城の入り口まで乗りつける。


 ジャネットの隣に座るレーナが、ぶるりと身体を震わせた。


「こ、これからお城に入るんですよね……」


「そりゃそうだよ、ここで追い出されたら、あたしら今日はどこに泊まるんだい」


「そ、それはそうなんですけど……」


「そんなに緊張するな、レーナ。ここのベッドはものがいいからよく眠れるぞ」


「そういうことではなくてですね……」


 俺のまずい冗談に、レーナが真面目に返す。まあ、レーナは城ははじめてだろうからな。余裕がなくなるのも無理もあるまい。




 城内に入ると、いよいよ限界なのか、レーナの足どりがおぼつかなくなる。


 ジャネットが肩を貸しながら、俺たちは衛兵に案内されて城の一室に通された。


 そこはちょうど俺の屋敷のリビングに似たような広い部屋で、少し大きめのテーブルにイスが六脚並んでいた。


「リョータ、リョータ」


「何だ」


「ベッドが2つしかないよ。こりゃ二人ずつで寝ないとだねえ。カナはレーナにまかせて、あたしらはこっちのベッドで寝ようか」


「何をばかなことを言っている。お前とレーナがいっしょに寝ろ。俺はカナと寝る」


「はいはい、嫁より娘がいいんだろ。わかったよ」


 ちぇっ、と舌を鳴らしながら、ジャネットは両手を頭の後ろに回す。当然だ。本来なら寝室くらい分けてほしいところだ。きっと部屋を用意した奴が何か勘違いして気をきかせたつもりなのだろう。


 まあ、巨大なベッドがひとつだけではなかっただけでも、まだましなのだろうが。




 とりあえずイスに座り、飲みものを飲みながら雑談を始める。


「サラはそろそろイアタークに着くころかねえ」


「あと数日はかかるだろうな。大人数で移動しているのだ、俺たちだけで調査に行っていた時より時間はかかる」


「そっか、そいつは大変だねえ」


「まあ、事務方や商人の連中もサラといっしょに何人か向かっているし、俺たちが着くころにはずいぶんと町らしくなっているだろう」


「だといいねえ」


 ようやく城の雰囲気に慣れてきたのか、レーナも話に加わる。


「王都のお店も、いくつか支店を出すそうですね」


「ああ。俺たちがいつも使っている料理店も出すということだしな。しかも、あの店の料理長が直々に支店に来るらしい。喜べカナ、これからもうまいものが食えるぞ」


「おいしいもの」


 カナが嬉しそうに眉ひとつ動かさず言う。

 まあ、俺があの店にそう要求したのだがな。


「レーナも最初は大変だろうな。イアタークには攻略時に参加していた冒険者も結構残っていると聞いている」


「そうですね、がんばります」


「とはいえ、シモン……騎士団の副団長が名簿を作って把握、管理しているはずだからな。引き継ぎはおそらくそこまで大変ではないだろう」


「それはありがたいです」


 レーナが笑顔を見せる。そうだ、お前はそうやって笑っていた方がいい。




 そんな調子で、俺たちは王城で一夜をすごした。











 そして、翌日。


 王城の前には、多くの馬車と護衛が集まっていた。


 その様子を見つめながら、レーナが口を開く。


「すごい数の馬車ですね……。これがすべてイアタークへと向かうんですか……」


「すごいといやぁ、サラが出発した時もすごかったねえ。この前帰ってきた時と同じくらい盛り上がってなかったかい?」


「あいつはこの国一番の人気者だからな。あちらに着いたら着いたで、向こうの連中に熱烈な歓迎を受けるのだろう」


「リョータもそうなるといいね」


「別に俺は普通でいいさ」


 笑って返すと、俺はカナに聞く。


「また馬車の旅だな。今度はジャネットとレーナがいっしょだ。うれしいか?」


「うん」


「友だちにはちゃんとあいさつしておいたか?」


「うん」


「王都で買い忘れたものはないか? 何なら今買ってきてやるぞ?」


「大丈夫」


「リョータ、大丈夫だって。もう出発なんだしさ、ちょいと落ち着きなよ」


「む、俺はいたって沈着冷静だ」


 ただ、カナのことを考えたらほんの少しだけ心配になっただけだ。


 横ではレーナがくすくす笑っている。む、何がおかしい。


 俺がぶすっとしていると、兵士が一人こちらへやってきた。


「閣下、皆様の馬車のご準備ができました」


「うむ、ご苦労」


「あちらになります」


 兵士に案内され、俺たちは馬車へと移動する。



 その馬車は、以前サラとマクストンへ行った時と同じような馬車だった。というか、あの時の馬車かもしれん。


「いよいよこの町ともお別れだな」


「珍しいねリョータ、屋敷の時といい、あんたがそんなおセンチなこと言うなんて」


「何を言うジャネット、俺は元々繊細な神経の持ち主なのだ」


「はいはい、席はベッドと同じ分け方でいいんだね?」


「ああ。では行くとするか」


 そう言って、俺たちは順に馬車へと乗りこんでいく。




 これから新天地に向かうのか。そう思うと、俺の気分も高揚してきた。

 魔族から取り戻したばかりの、まだまだ新しい町。そこではいったい何が俺たちを待ち受けているのか。


 しばらくして、馬車が動き始める。規則的な揺れがどこか心地いい。



 新たな舞台へと向かい、俺たちは進み始めた。





                          第一部 完

ようやく第一部、王都編を完結させることができました。主人公たちではありませんが、私も長く書き慣れた舞台を離れることに一抹の寂しさを感じます。


連載当初は「サクッとチートで魔王倒して終わり」くらいの気軽な読み物のつもりで書いていましたが、だんだん設定がふくらんでいった結果、数部構成の長編になりました。第二部からはいよいよ新天地での物語が始まりますが、どうぞご期待ください。


今後のスケジュールについてですが、来週閑話をひとつはさんだ後、八月から第二部の投稿を始めたいと考えています。これからもご愛読いただけると嬉しいです。

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