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210 能吏




 いよいよ、王都を離れる日が近づいてきた。


 仕事もひとまずは一段落し、総督就任式も終えた。俺たちも引っ越し準備を始めている。




 その俺たちは、いつもの執務室とは違う貴賓室に呼ばれていた。この部屋も久しぶりだ。ラファーネと面談した時も執務室だったしな。


 俺の両隣にはジャネットとカナが座り、テーブルをはさんで正面にはサラとオスカーが座っている。


「お前はあさって出発するんだったな」


「ああ、先にお前たちを迎える準備をしておく。そろそろシモンを休ませてやりたいしな」


「姫騎士様が来てくれれば、向こうの連中も大いに喜ぶだろうさ」


「逆にこっちはお通夜みたいになっちまうねえ。酒場じゃ、あんたがいなくなるって、今からもうヤケ酒してる連中もいるくらいだよ」


「それはすまないことをしてしまうことになるな」


 サラが苦笑する。


「オスカーともしばらくの別れになるな」


「そうですな。私もこうして閣下にごあいさつできてうれしいです」


「閣下はやめてくれ。お前に言われるとむずがゆい」


「それは失礼しました、リョータ殿」


 お互い愉快そうに笑っていると、ジャネットが割って入ってくる。


「あたしもオスカーのダンナと会えなくなるのは残念だねえ。そうだ、ダンナ、今夜一杯どうだい?」


「それは光栄ですな。では今夜はおともいたしましょう」


「やったぁ! さっすがダンナ、話がわかる!」


 本当にこいつはブレないな。


「すまんなオスカー、面倒をかける」


「いえいえ、とんでもない。よければリョータ殿もごいっしょにいかがですかな?」


「そうだな、カナに飲めるものがある店なら俺もつき合おう。カナ、今日は何か食べたいものはあるか?」


「カナ、ジャネットのごはんがいい」


「よし、決まりだ。オスカー、今日はうちで飲むぞ。酒は買っておくから、ジャネットは飯を準備しておけ」


「えええ? うちでかい? まあいいけどさ、姫がそう言うんだしねえ」


「はははは、皆さんの行動がカナさんの一声で決まるというのは、どうやら本当のようですな」


 ほがらかにオスカーが笑う。


 サラも笑いながら、話を変えてきた。


「ところで今日は、お前に会っておいてほしい人物がいる」


「ほう?」


「そろそろ来ると思うがな。まあ、しばらく待っていてくれ」


 言った直後、ドアからノックが聞こえてきた。


 サラが苦笑する。


「早かったな。もしかして、私が話を切り出すのを待っていたか? 無駄に待たせて悪いことをしたな」


「オスカーと飲む約束を取りつけたのだから、俺たちにとっては無駄ではないがな」


「それもそうか。よし、入ってくれ」


 サラの声に、扉が開いた。



 部屋に入ってきたのは二人の男だった。


 そのうちの一人とはすでに面識がある。総督府の民政官に就任するクレマン。総督府の行政各局を束ねる、事務方のトップだ。


 聞くところによれば、内務省で建築や都市設計、組織改革などの大型プロジェクトの現場指揮を歴任し、いずれは次期内務卿の座が確実視されているという能吏だ。今後この男には世話になり続けることだろう。


 その隣にいる男は、俺もはじめて見る顔だ。まだ若いようだが、いったい何者なのか。


 サラが二人を紹介する。


「リョータ、クレマンはおぼえているな? お前たちにも紹介しよう。彼の名はクレマン、私が最も有望視している官僚の一人だ」


「クレマンと申します。ジャネット殿、カナ殿のお噂は殿下より聞き及んでおります」


「は、はあ、こりゃどうも」


「こんにちは」


 ジャネットが慌てて立ち上がり、カナはぺこりと一礼する。


 その様子に笑みを浮かべながら、サラがもう一人を紹介した。


「そして、こちらはジェラール。クレマンの首席補佐官を務める男だ。まだ20代の若さながら、同世代の出世頭として将来を嘱望されている逸材だ」


「ほう」


 そのジェラールが、俺たちに一礼する。


「殿下御自らのご紹介、まことに痛み入ります。はじめまして、クロノゲート総督閣下。私はジェラール、このたび総督府民政官首席補佐官を拝命いたしました」


「リョータ・フォン・クロノゲートだ。よろしく頼む」


 顔を上げたジェラールの目が、わずかに鈍い光を放つ。

 ほほう、さてはこの男、俺にライバル心を抱いているな。活きがよくて結構なことだ。


 ジャネットが俺に耳打ちする。


「何だい、なかなかいい男じゃないかい」


「お前はああいうのが好みなのか」


「きらいじゃないね。もちろんあんたの方がずーっといい男だけどね」


 まったく、こいつときたら。


「リョータ、これからはこの二人に世話になるはずだ。私のかわりだと思ってせいぜいこき使ってやってくれ」


「お前のかわりだと思うと、頼みごとひとつするにも遠慮してしまいそうだ」


「冗談はさておき、能力は間違いなく一級だ。私も何とか各所と調整して総督府にねじこんだのだ。有効利用するのだぞ」


「お前がそこまで言う人材が無能なはずがないな。クレマン、ジェラール、お前たちのはたらき、俺も大いに期待している」


「はっ」


 二人が頭を下げる。今まで軍人としか顔を合わせてこなかったが、これからは文官とも接していくことになるのだな。


 ジャネットなどはクレマンが苦手なようだ。先ほどからそちらへ視線を向けようとしない。例の知的なタイプには弱いとかいうやつだろう。

 ジャネットには彼が気難しい先生にでも見えているのかもしれない。


「これだけの陣容で固めたのだ、よろしく頼むぞ、総督殿?」


「うむ、姫騎士様のご期待に応えられるよう、せいぜいがんばるとするさ」


 顔を見合わせて、二人笑う。




 それからしばらくの間、クレマンとジェラールの二人も交えて俺たちは歓談した。




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