21 魔界の異変
カナと二人、新居で暮らし始めてから二、三日がすぎたある日、ギルドからお呼びがかかった俺は久々に顔を出しに行った。おそらく例の盗賊退治の件についてだろう。
カナに留守番を頼むと、俺はギルドへと転移する。
ギルド前に転移した俺は中へと入るとレーナのところへ向かう。
窓口の方を見ると、レーナの前に妙に立派な鎧を着こんだ男が立っているのが目についた。
窓口に近づくと、俺に気づいたレーナが声をかけてくる。
「あ、リョータさん、こんにちは」
「ああ」
俺にあいさつすると、レーナは男の方を見やる。男がうなずくのを見て、レーナが俺の方に向き直る。
「それではまず、この前のクエストですね。王国の方で確認も終えました。こちら、報酬の金貨百枚になります」
「ああ、すまない」
渡された袋はずしりと重い。さすがに金貨百枚となると大した重さだな。
「保護した女性の皆さんも、無事に家に帰ることができました。リョータさんに感謝されてましたよ」
「そうか、それはよかった」
うなずく俺に、レーナが聞いてくる。
「新しいおうちはいかがですか?」
「ああ、少し広すぎるが、快適だな」
「そうですか、よかったです。カナちゃんはどうですか?」
「あいつも少しずつ慣れてきたようだ。まだ一人で外には出られないけどな」
そうなんですか、と笑ったレーナが、男の方を見る。そして俺に言った。
「それではリョータさん、今日の用件なんですけど、こちらのシモン様からお話があるそうなんです。聞いていただけますか?」
「そうなのか。構わんぞ」
「ありがとうございます。それではシモン様、よろしくお願いします」
レーナの声に、騎士がうむとうなずく。
「私は王国騎士団のシモンだ。今回はリョータ殿に話があってやってきた。まずは話を聞いてもらえるだろうか」
「ああ、いいだろう」
シモンと名乗った騎士が、俺の顔を見て話し始めた。
「現在この大陸の過半が魔族の支配下にあることは知っておられるな」
「ああ。人間はずいぶんと劣勢だそうだな」
「さよう。我が王国を含む四王国も、隣接する魔族の支配領域からの圧力に苦しめられてきた」
重々しい口調でシモンが言う。
「だが、つい先日状況に変化があったのだ」
「ほう?」
「我々人間の領域に隣接する魔族の動きが急に慌ただしくなった。調べてみたところ、どうやら魔族の指揮系統が混乱しているようなのだ。人間界に隣接する広大な領域は、長い間魔界大公と呼ばれる上級魔族が支配していてな。そいつが前線指揮官として人間界への侵攻を続けていたのだが、どうもその魔界大公が最近何者かによって暗殺されたらしいのだ」
「そうなのか」
ほう、人間側にもなかなか大した奴がいるじゃないか。せっかくチートをもらって異世界に転生したのだから、俺もぜひそんな強敵と戦ってみたいものだ。
なにせ俺が倒した魔族と言えば、町で出くわした雑魚と、見た目と口だけは立派なエセ魔王くらいだからな。
シモンが話を続ける。
「うむ。それで、我々四王国連合はこれを好機と見て魔族領への侵攻を計画しているのだ。そこで、優秀な冒険者にも参加してもらおうという話になってな。そんな折にあの盗賊団をたった一人で壊滅させた冒険者がいると聞いたのだよ。どうだろうリョータ殿、ぜひ城でくわしい話を聞いてもらえないだろうか」
そう言ってシモンが頭を下げる。ふむ、国からの頼みか。手ごたえもありそうだし、稼ぎもよさそうだな。俺もこの力を生かしたいし、話くらいは聞いてもいいだろう。
俺はシモンにうなずいて言った。
「話を聞くくらいならいいだろう。城にはいつ行けばいい」
「本当か! ご協力感謝する。では三日後の朝10時に、ここで待ち合わせよう。それでいいかね?」
「ああ、了解した。それではまたその時に頼む」
「うむ、こちらこそ頼む。それでは私はこれで失礼する」
そう言って、シモンが立ち去っていく。
その後ろ姿を見送ると、レーナが興奮ぎみに話しかけてきた。
「リョ、リョータさん! 凄いです! 王国の騎士団からお呼びがかかるなんて!」
「そうなのか? だが、軍には大して強い奴はいないんだろう?」
「騎士団は別です! 騎士団長をはじめ、騎士団にはSクラスやAクラスの方も多いんですよ!」
そう言って、レーナが俺を潤んだ目で見つめる。
「その騎士団からお声がかかるなんて……。リョータさんの実力なら、確かにSクラスでもおかしくないですね」
「Sクラスになるには実績が必要なんだろう? だったらちょうどいい話かもしれないな」
そこまで話したところで、レーナの顔が少し暗くなる。
「でも、魔族の領域に侵攻するんですよね……? あの魔界大公がいなくなったとはいえ、魔族の力は強大です。もしリョータさんに何かあったら……」
「そんな心配は無用だ。さっきレーナも言っていただろう。俺の実力はSクラスだと。だったらどうってことはないさ」
「でも……」
「心配するなレーナ。お前が悲しむようなことは絶対にしない。約束する」
「あ……」
レーナの頬が赤くなる。これで納得してもらえただろう。レーナが俺の目を見ながら言う。
「そうですね、必ずここに戻ってきてください。絶対に無理をしてはダメですよ?」
「わかった、約束する」
「ええ、約束です」
そう言うと、レーナが俺に笑顔を見せる。俺も笑顔で返し、ギルドを後にした。
考えてみれば、俺はまだ魔族領侵攻の話を承諾したわけではないんだがな。これで話が決裂したら実に間抜けだな。
そんなことを思いながら、俺は家へと帰っていった。




